第六章【2】
気がつけば、ワタシは、小さな部屋の中の粗末なパイプベッドの上に寝かされていた。
パジャマのような服を着せられていたが、下着は、つけてなかった。
天井は、低く、この部屋にも窓はなかった。
ベッドの横には、小さな丸いテーブルがあり、部屋の片隅には、トイレの便器のようなものが、置かれていた。
部屋は、かすかに、かび臭かったが、シーツも、敷き布団も、真新しいようだった。
袋から空けた直後のような臭いがしていた。
ドアは、スチール製で、中央の少し上が20センチほどガラス張りになっていた。
その小さな窓は、鉄格子で補強されている。
たとえ、ガラスを破ったとしても、抜け出すことはできないだろう。
随分、仰々しいことだ。
まるで、刑事ドラマで見る拘置所か、刑務所の独房といった感じだった。
身体の節々が、熱を持ったように痛かった。
特に下腹部は、男の体液や得体の知れない液体が拭いきれておらず、気持ち悪かった。
ワタシは、ベッドに寝たまま、部屋を見回したが、見つかったものといえば、監視カメラくらいだった。
しばらくして、ドアがガチガチと鳴り、ロックが解けるカチッという乾いた金属音がした。
そして、両手でトレイを抱えた中年とおぼしき女性が、入ってきた。
ワタシは、反射的に、ベッドから飛び起き、その女性に抱きつこうとした。
もしかしたら、助けてくれるかもしれない!
同性だもの。
いきさつをいって、ここから、出してもらえるように頼んでもらおう。
「た、助けて下さい!」
そう言いながら、女性の服をつかむ。
「清隔升手!」
「え?」
少なくとも、日本語ではないことは分かった。
「早点放升!!」
中国語だろうか?
女性は、ワタシを乱暴に押しのけ、テーブルの上に持ってきたトレイを乗せた。
「あ、あの?」
ワタシが驚いて、しどろもどろになっていると、女性は、突然、堰を切ったようにまくし立てた。
しかし、ワタシには、彼女が何を言っているのかまったく理解できなかった。
日本人じゃないんだ……
大きな絶望がワタシを覆った。
異国の言葉を話す中年の女は、腰に手をやりながら、お手上げだといわんばかりに、天を仰いだ。
そして、持ってきたトレイにかぶせてあった白い布を取った。
トレイの中身は、見覚えのあるコンビニ弁当と、ペットボトルのミネラルウォーターだった。
カップサラダと、ドレッシングまで付いていた。
ドレッシングの横に、小さな紙の包みがあった。
女は、その包みを取って、開けて口に入れる仕草をした。
そして、ペットボトルを指差し、それを開けて飲めといっているらしかった。
女は、そのことをワタシに伝えると、トレイに掛けられていた白い布だけを持ち去って、ドアの向こうに消えていった。
カチッという乾いた音だけが、部屋の中に残された。
小さな紙包みの中身は、薬だった。
種類の違う錠剤が3錠ばかり入っていた。
ワタシは、こんな状況でもおなかが空くんだということに驚きながら、弁当を平らげた。
でも、薬は、飲まなかった。
こんな得体の知れない薬、しかも、こんな状況で、だれが飲むものか!
ワタシは、薬の包みをくしゃくしゃにしてドアに叩きつけていた。




