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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終戦 -さとうきび畑- (1)

作者: 江角 稚

初めまして!

江角 稚と申します。"えかと おさな"と読みます。

昔からこの当て字を使っていたのですが…"江角"って、"えすみ"と読ませることもあるんですね。最近知りました。まぁ、しかし…私は"えかと"を貫こうと思います。

べ、別に…他に"かと"の当て字が浮かばないとか、そんな理由じゃないですよっ!!


そんなこんなで初投稿です。是非お立ちより下さいませ。

僕は、さとうきび畑に来ていた。

遠く、遠く。

遥か彼方まで、さとうきび畑は拡がっている。

他にはもう、何もない。僕は何もかも、失ってしまったから。

たった2年前に──あの、沖縄戦争で。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。

ボク達が悪いのだろうか。

それとも、人間?


そうなのかな…。

まだはっきりとは、分からない。


人間は過ちを犯した?


──いや、人間はボク達を造った。

それは偉大なる出来事、のはず、だが。


ならば…どうして今、ボクは此処で1人ぼっちなんだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ボクは昔、ロボットだった。

正しくは、戦争用の人造人間。そう、いわゆる"機械的な兵士"だ。

だからボクには、感情なんてなかった。

戦うことに、何の意味も考えられなかった。

あの日が来る、その時まで。


1945年4月。アメリカ軍が沖縄本島に上陸した。

戦争に借り出された兵士達だけではない、一般人まで殺された。

日本は、財力だけでなく労働力も激減された。

そして、ボク達は作られた。

この世に生み出されたんだ、ロボットとして。


1945年6月13日。ボク達が最終チェックを済ませ、試運転をした日。

ボク達は難無く仕事をこなした。

ただひたすらに、人を"殺す"と言うことだけを覚え込ませるシュミレーション。

試験に合格したボク達は、最後に"陸軍大将"と言う人のメッセージを打ち込まれた。


"君達は、日本の誇る最後の軍人だ。心して、掛かるがよい。そして…何としてでも必ず、日本軍に勝利を収めさせるのだ"


機械的に入力された文字に、感嘆の声を漏らし涙を流す者は──誰1つ、いなかった。

だって、そんな感情は。ボク達には何1つ、与えられていないのだから。


1945年6月14日。検査後の翌日から、ボク達は第一戦線に送られることとなった──とは言っても、この頃の日本軍に第二、第三の戦線があったかどうかなんて、分からないけれど。

今思えば、あれも嘘の1つであろう。

ただ、あの頃気付くことが出来なかったのは。

まだボクに、心がなかったからであって。

だからそれは、誰にも責めようはないけれど。

でも、僕は…何時だってボクの軽率な行動を、悔やまずにはいられないんだ。


大型トラックの荷台で揺られていたボク達は、その日の夕方に戦線に着いた。

そこで出会ったのは、沢山の兵士達。

皆強そうで、"兵士"と言うよりは"戦士"だった。しかし彼等は同時に、家庭を持った"旦那"であり"父親"であり、そして"恋人"だった。

その中でも、特に印象に残っていたのは──、日系二世のウェンディと少将の浩二、そして最年少の、まだ15歳にも満たない(ひろし)だった。

何でも、父と兄を殺したアメリカ兵を倒すためにわざわざ年齢を詐称してまで入隊したらしい。

入隊試験の時、誰もが彼の年齢に目を向けただろう。

だって実際は14歳で、更に彼は童顔だったから。しかし兵力が欲しい日本軍は、これを黙認したと言う訳だ。

そんな日本を、誰もおかしいとは思わない。

何故なら皆、祖国に忠誠を誓った──まぁ、無理矢理誓わされた人も居るのだろうが──とにかく、共に忠誠を誓い合った仲間達だったから。


[よぉ、食べるかい?]浩二が自分の食事を差し出した。

[おいおい、ロボットは人間の食い物なんて食べないぜ?彼等に必要なのは機械油でさぁ]彼を見兼ねてウェンディが答える。

それを聞いて、弘が笑っていた。


何て穏やかな日々。

暖かくて、優しくて。

平凡の日常と何ら変わりのない生活に、ボク達は馴染んで行けるのだ──。


こんな優しい人達が、集まって戦う。

例え、勝ち目のない戦いでも。

その先に、未来を信じて。


だが、そのろうそくの灯火のような光など、爆風で掻き消されてしまうことは──米軍の兵力によって潰されてしまうことは、まだボク達ロボットには知らされていなかった。


1945年6月15日。ボク達は実際に、戦線で戦う人間の"同士"達を見学することにした。

皆は必死に戦っている。日本のために。

町の避難場所に置いて来た、家族のために。

きっと彼女達も毒や手榴弾を持たされて、死ぬ覚悟をしているのであろう。


それでも、皆は戦う。

国全体で、一致団結して。

例えそれが、米軍に押され気味であったとしても──。


1945年6月16日。そう、この日からボク達は、機関銃の備わった両腕で戦うことになったのだ。

弾が切れれば、体内から補充する。

両膝からは、ミサイルだ。

そして腹を割れば、中から大砲の発射台が出て来る。

ただしそれは、1発しか撃てないのだけれど。そんなこんなで、ボク達は戦うこととなった。


しばらくは、戦火が絶えなかった──。


そして、1週間後の1945年6月23日。ついに日本軍は消滅した。

いや、正しくは"生身の日本軍が"とでも言うべきだろうか。

そう、軍人達は死んだのだ。

皆殺しだった。

僅かなる日々を過ごした仲間達も。

浩二も、ウェンディも、そして…弘も。

彼等米軍にとってボク達日本人などは、ただの敵に過ぎないのだ。

ボク達日本軍にとって彼等米人などは、ただの敵に過ぎないのと同じように。

なのに…皆殺しだったのだ。


ボク達を、除いては。

そう、此処から先は──まだ誰も知らない、ボク達の伝えていない史実がある。


たった、1週間の史実が。


だが、ボク達にとっては重要な──史実が。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 背景が伝わってきます [一言] 中学の時に文化祭でした劇(ひめゆりの塔)を思い出しました。年代が同じ位ですね。良かったら仲良くして下さい。
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