第3話 死なないという異常
「……あれ?」
牙が食い込んだはずの腕を見て、思わず声が漏れた。
傷が――ない。
さっきまで確実に食いちぎられていたはずなのに、 何事もなかったように元に戻っている。
「グルル……?」
目の前の魔物も明らかに動揺していた。
(やっぱりそうか)
頭の中に浮かぶ。
《劣化再生》
《真価:不死級》
「……なるほどな」
理解した。これは――
(死なないってことか)
恐怖が消える、代わりに、確信があった。
「来いよ」
俺は一歩踏み出した、魔物が再び飛びかかる。
牙。爪。何度も体に食い込む、だが全部意味がない。
(全部治る)
だったら――
「捕まえた」
飛び込んできた魔物の首を掴む。
暴れる、爪が食い込む、血が流れる。
だが次の瞬間には、消えている。
「無駄だっての」
そのまま地面に叩きつけた、ドンッ、と鈍い音、魔物の体が跳ねる、さらにもう一度、叩きつける。動きが鈍くなる。
「終わりだ」
最後に全力で踏み抜いた。骨が砕ける感触。魔物は動かなくなった。
静寂。
そして――
「……倒した?」
誰かの声が震えていた。
周囲の人々が、呆然と俺を見ている。
「素手で……?」
「なんで死なないんだ……?」
ざわざわと広がる動揺、逃げていた人間たちがゆっくりと戻ってくる、誰もが俺から目を離さない。
(目立ったな……)
だがが悪くない。
むしろ――
(好都合か)
この世界は力がすべてだ、なら、見せつければいい、俺は軽く息を吐いた。
「終わりだ」
誰に言うでもなくそう呟く。その時だった。
「ちょっといいか」
低い声がかかった、振り向くとそこにいたのは鎧を着た男だった。剣を腰に下げ鋭い目でこちらを見ている。ただの通行人じゃない。
(強いな)
直感で分かる。
「今の、全部見てた」
男は一歩近づいた、周囲が少しだけ距離を取る。
「お前……何者だ?」
真っ直ぐな視線、試すような目。
少しだけ考えて――
「ただの底辺だよ」
そう答えた、男は一瞬だけ驚いた顔をし、すぐに笑った。
「面白い」
口元を歪める。
「普通じゃないのは確かだな」
そう言って腕を組む。
「その力、どうするつもりだ?」
どうする、か。そんなの決まっている。
「稼ぐ」
即答だった。
「このままじゃ終われないからな」
男は満足そうに頷く。
「いいな、その考え」
そしてこう続けた。
「冒険者になる気はあるか?」
一瞬、沈黙。
だが――
答えはもう決まっていた。
(成り上がるなら、ここだろ)
「ある」
短く答える。男は笑った。
「よし、決まりだ」
そう言って背を向ける。
「ついてこい。ギルドに案内してやる」
その背中を見ながら思う。
底辺だった俺が――
今変わろうとしている。
(行くしかないな)
一歩、踏み出す。
成り上がりの道は、もう始まっている。




