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現代知識×物理チートで始める箱庭帝国作り〜無能な貴族を科学で論破し、最強の相棒と新天地へバカンスに出かけます〜  作者: かもちゃん
第一章 

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第一話

意識が覚醒した瞬間、俺が感じたのは強烈な「不自由さ」だった。  

視界はぼやけ、色彩は混濁している。手足は重く、自分の意思で動かすことすらままならない。

何より、肺に流れ込む空気の感触が、記憶にある「死」の直前のものとは決定的に違っていた。


(……生きている、のか? あの爆発事故から)


 前世の記憶は鮮明だ。  

俺は、ある国立研究所で次世代エネルギーの理論構築に心血を注いでいた物理学者だった。

研究のテーマは「エネルギー変換効率の極限」。無駄を嫌い、合理性を愛し、宇宙の法則を数式で縛り上げることに快感を覚える――平たく言えば、救いようのない効率主義者エフィシェンシストだ。  実験装置の暴走、そして白い閃光。  理論上、俺の肉体は分子レベルで分解されたはずだった。


「おぎゃあ、おぎゃあ……!」

 

自分の口から漏れたのは、情けないほどに高い産声だ。  その振動が、鼓膜を通じて脳へと情報を運んでくる。  ――そして、俺は「それ」を見つけた。


(待て。なんだ、この『ノイズ』は?)

 

物理学者としての本能が、この空間の異常を察知する。  空気の揺らぎ、熱の伝導、重力の作用。

それら既知の物理現象の隙間に、明らかに「異質なエネルギー」が充満している。  

それは目に見えない微粒子のように、しかし確実に質量を持って俺の肌を撫で、肺を通り、全身の細胞へと浸透しようとしていた。


(熱力学第二法則を無視しているわけではない。だが、既存のエネルギー媒体とは明らかに挙動が異なる。……もしや、これがファンタジーに語られる『魔力』というやつか?)


 俺は赤ん坊の体という制限の中で、必死に思考を加速させた。  

周囲からは、何やらむせび泣く女性の声や、低く太い男性の歓喜の声が聞こえる。

おそらく今世の両親だろう。

だが、今の俺には彼らに構っている余裕はない。


 この「魔力」と呼ばれる未知のエネルギー。  

赤ん坊である俺の体内に、呼吸と共に無造作に流れ込んでは、何の役にも立たずに霧散している。  

あまりにも、効率が悪すぎる。


(この世界の住人は、このエネルギーを垂れ流しにしているのか? なんという資源の無駄遣いだ。……許容できない。私の肉体において、このようなエネルギーロスは断じて認められない)


 俺は、赤ん坊の未発達な神経系を無理やり駆動させた。  

前世で培った「エネルギー制御」の理論を、自分自身の肉体というミクロな回路に応用する。    

まず、呼吸から摂取した魔力を肺で散らさない。  

ヘモグロビンと結合させるようなイメージで、血流に乗せ、全身の毛細血管へと均等に分配する。  

次に、細胞の一つひとつを「蓄電器キャパシタ」に見立て、魔力を定着させるための磁場を脳内でシミュレートする。

 

脳裏にガウスの法則を浮かべ、魔力の電位分布を最適化していく。  

普通、赤ん坊が持つ魔力回路は、成長と共にゆっくりと形成されるものらしい。

だが、俺はそれを待つつもりはなかった。  建築途中の骨組みを無理やり解体し、最新鋭のナノマシン工場のような超高効率な回路へと「再構築」を開始する。


「……あ、ああ……アレン? 見て、あなた。この子の目が……」


 母親らしき女性が驚愕の声を上げた。  

当然だろう。生まれたばかりの赤ん坊の瞳が、内側から溢れ出す魔力の光によって、深みのある青色に発光し始めているのだから。

 痛覚が走る。  

発達な神経に強引に魔力を通せば、当然の報いだ。

だが、俺はこの痛みを「システム構築の必要コスト」として切り捨てた。  

効率を求めるなら、今、この瞬間が最も重要だ。  

赤ん坊の体は、可塑性に満ちている。今この瞬間に最強の基盤を作れば、後の十年は百年に匹敵する成果を生む。


(魔力密度、上昇。神経伝達速度、公称値の三〇〇パーセントを突破。……よし、第一段階完了だ)

 

俺は深い安堵と共に、意識を混濁させた。  

赤ん坊の脳には、今の演算負荷は少々重すぎたらしい。  

だが、俺の目的は達せられた。  

俺の体内では、今この瞬間も、周囲の魔力を自動的に吸収し、最適化された効率で肉体を強化し続ける「永久機関」が産声を上げていた。

    

 *

 


三年の月日が流れた。  

俺――アレン・ロランは、この世界の「不合理」を修正することに日々を費やしていた。  

この世界は、中世ヨーロッパを思わせる封建社会。

俺の生まれたロラン家は、王都から遠く離れた辺境の開拓村を治める騎士の家系だ。


 父・ゼノスは実直で勇敢な男だが、その武技はあまりにも「非科学的」だった。

「いいか、アレン。剣を振る時は気合だ。体内のマナを爆発させるように叩き込め」  庭で木剣を振る父を見ながら、俺は内心で溜息をつく。  

父の動きは力強いが、筋線維の動員効率が悪く、マナのロス率も六割を超えている。

あれでは、持っているポテンシャルの半分も発揮できていない。


(……教えたい。もっと重心移動と流体的なマナ運用を組み合わせれば、その三倍の威力は出る、と)

 

 だが、今の俺は言葉の拙い三歳児だ。

いきなり物理学に基づいた剣術理論をぶち上げれば、悪魔憑きとして教会の審問にかけられるのがオチだろう。  

俺は「天才児」という皮を被りながら、自分自身の肉体を淡々と作り変え続けた。  

三歳にして、俺の筋密度は成人男性のそれを上回り、魔力保有量は宮廷魔導師をも凌駕しつつある。

すべては「効率」の結果だ。

 

 そんなある日のことだった。  

生垣の向こうから、一人の少女がひょこりと顔を出した。


「ゼノスおじさま、こんにちは! アレン、遊ぼう!」


 輝くような金髪を二つに結び、春の陽だまりのような温かな瞳をした少女。  

隣の家に住む、エリナだ。  

彼女の家もまた代々の騎士家系であり、両親は共に国境を守る戦士だという。


「おお、エリナか。今日もアレンに会いに来たのか」


「うん! 今日はね、お花をたくさん摘んだから、アレンにプレゼントするの!」


 エリナがパタパタと駆け寄ってくる。  

その瞬間、俺の視界にある「魔力探知スペクトル」が、かつてない異常値を叩き出した。


(……なんだ、これは?)


 エリナが俺の小さな手を握った瞬間、俺の全身を激しい電気信号のような衝撃が駆け抜けた。  

彼女の体から溢れ出している魔力は、異常なほどに純度が高い。  

だが、その貴重なエネルギーが、全く制御されることなく周囲に放射されている。

まるで、穴の開いた高級な香水瓶のように、その芳醇な力は無意味に霧散していた。


(もったいない……!)


 物理学者としての、そして効率厨としての俺の魂が、激しく震えた。  

この才能を放置するのは、宇宙の法則に対する反逆だ。  

彼女の持つポテンシャルを、俺の構築した理論で「最適化」してやれば。  

俺が演算器プロセッサの役割を果たし、彼女が最高品質の燃料ソースとなれば――。


「……エリナ」


「なに? アレン」


 不思議そうに首を傾げるエリナ。  

俺は彼女の手を、今度は自分から強く握り返した。


「エリナ。明日から、俺と一緒に『特別な訓練』をしないか?」


「くんれん? お父様たちがやってる、こわいやつ?」


「いや、怖くない。むしろ、とても心地いいものだ。俺が君を、世界で一番強くて、世界で一番幸せな女の子にしてあげる」


 それは三歳児が口にするには、あまりにも傲慢で、独占欲に満ちた誘いだった。  

だが、エリナは頬を林檎のように赤く染め、満面の笑みで頷いた。


「アレンがそう言うなら、私、やる! アレンと一緒にいられるなら、なんだって楽しいもん!」


 この瞬間。  


 後に歴史書に「比翼の聖者」と記される二人の、文字通り「二人三脚」の無双ロードが幕を開けた。

俺の現代知識と、彼女の天賦の才。  

それらが噛み合った時、この世界の「魔法」の概念は根底から覆されることになる。


 俺は確信した。  


この不合理で、無駄だらけで、けれどこの愛おしい幼馴染がいる世界を。  

俺の数式で、最も効率的に、そして徹底的に幸せにしてやることを。


(まずは、エリナの魔力回路のハッキング……いや、最適化から始めるとしようか)


 俺はエリナの手を引いて、庭の隅へと向かった。  

それが、最強への、そして一途な愛への第一歩になるとも知らずに、エリナはただ嬉しそうに俺の隣を歩いていた。


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