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(改訂統合版)2番目の魔法少女 〜次期女王になって優しくできる世界を作りたいのですが、天才少年は契約のキスをしないことに決めたようです〜  作者: 秋乃 透歌
第三巻 汚した手の価値

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(3-12)第三章 玖郎が知らない物語(2)

 椎名小学校の図書室裏には、一台のベンチが置いてあります。

 白い色をした木製で、小学生なら三人並んで座れるほどの大きさの、どこにでもある普通のベンチです。

 実は、このベンチがこの場所に設置されることになった経緯には、玖郎くんが大きく関わっているのです。

 私がこの地球世界に来る前の話だそうですが。

 生徒会の予算に関する難しい問題を、生徒会長が天才少年と名高い玖郎くんに相談し――玖郎くんが、その問題を解決する報酬として、設置を依頼したというものなのです。

 今よりもずっと人との距離を取ろうとしていた玖郎くんが、小学校で快適に一人になれる場所を確保しようと、手に入れたものなのです。

 そして、この場所は――。

 思い返せば、私が地平世界からこの世界にやってきて、椎名小学校に転入した初日に――玖郎くんに、私の〈騎士〉(ナイト)になってくれるように頼んだのもこの場所でした。

 あの時の玖郎くんは、私の話を疑いもせず聞いてくれました。私の覚悟が足りないばかりに、一度は断られてしまいましたが――突如始まった〈試練〉(トライアル)に巻き込まれる形で、協力者として力を貸してくれることになったのでした。

 それは、私と玖郎くんの大切な約束です。

 その舞台の一つが、この場所なのでした。

 他にも、王位継承試験の課題である〈試練〉(トライアル)〈仕事〉(タスク)の合間にも、この場所はよく使われていて――言わば私たちの拠点の一つなのです。

 ある時は、〈試練〉(トライアル)に勝利するため、次の重要な一手をこの場所で相談しました。またある時は、手分けしていくつもの〈仕事〉(タスク)を同時にこなしている合間の情報共有に利用しました。

 そうそう、向日葵ちゃんと協力して、学校中に吊るされたてるてる坊主の謎を追いかけたこともあり――まさにこの場所にも、てるてる坊主が吊るされていたのでした。

 この場所は、大切な想い出の場所なのです。

 そして。

 今日も――。

 女同士の大事な話があると言って、朝美ちゃんが私を呼び出した場所がこの場所なのでした。

 朝美ちゃんは、ランドセルと手提げかばんを少し乱暴にベンチに乗せました。


「さあ、話を始めようか」


 腕を組み、両足でぐっと地面を踏みしめて、朝美ちゃんは私に向かい立ちました。

 ――そう、今日、この場所で。

 私は、私の気持ちに決着をつけなくてはいけないのです。


「うん。――話って、玖郎くんのことだよね」


 私は、朝美ちゃんにならって自分の水色のランドセルをベンチに置きました。

 朝美ちゃんの前に、しっかりと立ちます。

 強めの秋風が吹き抜けて、私たちの上着を揺らしました。

 ああ、すぐにこの季節も終わり――冬になってしまうのですね。


「そう。半分正解。まずはそっちの話からね」


 朝美ちゃんはそう言うと、目を閉じ、すうっと息を吸いました。

 そして、目を開いて――。


「瑠璃は、小泉と――玖郎と付き合ってるの?」


 そう単刀直入に切り出しました。

 私は、その言葉を受けて、再度、地面を踏みしめてしっかりと立つように意識しました。

 やはり、その話ですよね。

 私が応えるわずかな時間に、朝美ちゃんの顔がみるみる赤くなって行きます。

 その問いを発すること自体が、自分自身の気持ちを明確に宣言していると、自覚しているのでしょう。

 そして、その問いに対する私の答えは――。


「ううん。付き合ってはいないよ」

「そ、そうなんだ……」


 私の言葉に、朝美ちゃんは一瞬気が抜けたように息をつきました。

 それでも、すぐに元の真剣な表情を取り戻します。


「じゃあ、瑠璃は、玖郎のことが好き?」


 ――。

 私は――。

 私の気持ちは――。

 私にとって、玖郎くんは――。

 王位継承試験の協力者。

 〈契約〉(コントラクト)をしていない、偽りの〈騎士〉(ナイト)

 大切な約束を――私自身と引き換えに、私を助けると約束してくれた相手。

 転校初日にぶつかって、目から星が飛び出るほど痛いデコピンをしてきた、第一印象は最悪のクラスメート。

 琴子さんとの関係のような、他の学校の生徒には見せない一面を見せてくれる、天才少年というだけではない、男の子。

 私のために、アメリカの特殊な教育機関に行くことを断念するという、自分の将来に関わる決断をしてくれた人。

 思考を止めるな、目的を見失うなと、大切なことを教えてくれた人。

 優しい気遣いをしてくれる人。

 私が欲しいタイミングで、嬉しくなってしまう一言をくれる素敵な人。

 私の――。

 ――その答えは、私自身もきっと分かっているのです。

 それでも、その答えが、怖い。

 なぜなら、その気持ちを明確に自覚してしまったら、次に私は、その気持ちと決別しなくてはならず――。


「私は、玖郎くんのことが――っ――」


 その答えを言葉にできない私を見て、朝美ちゃんは口を開きました。


「瑠璃が答えないなら――先に私が言うわね。私は、玖郎のことが好きだよ」


 私は、弾かれたように、朝美ちゃんの顔を見ました。

 顔を赤くしながら、それでも眼鏡の向こうの瞳が、真剣に私を見返して来ます。

 ああ。

 いいなぁ。

 私も、それだけ素直に、自分の気持ちに正直に、そうやって言葉にできたら良いのに。

 私は――。


「ねえ、瑠璃。そんな、大好きな男の子が、休日明けに大きな湿布がいるくらい頬を腫らして来たのよ? しかも、瑠璃が――私じゃない別の女の子が、叩いたからだって言うんだよ?」


 私は、ぎゅっと目をつぶりました。

 もし、私と朝美ちゃんの立場が逆だったら。

 私の知らないところで玖郎くんにひどい傷ができていて、その原因が朝美ちゃんだと知ったなら――詳しい理由は教えられないなんて言われたら。

 私は――。

 私は、そんな想像だけで、自分の気持ちの奥底から沸き上がってくる、黒い嫌な感情を認識します。

 そうです。

 それは、間違いなく――。


「それでも、瑠璃は、私に事情を説明できないの?」


 本当は、すぐにでも説明したいのです。

 それでも。

 魔法。

 王位継承試験。

 地平世界――フラッタース王国。

 全て、秘密にしなければいけない、知られてはならないことで――。

 だから。


「ごめんなさい。それでも……そう、それでも、どうしても、説明できないの。ごめんなさい」


 私は、ただそう繰り返すしかなくて。

 そんな私に――。


「まだ答えを聞いていなかったっけ。瑠璃は、玖郎が好きなの?」


 私は――。

 その気持ちを認めてしまったら――。

 いいえ。

 朝美ちゃんは、自分の気持ちをまっすぐに私に伝えてくれました。

 昨日のことを説明できず、理由を伝えられず、私自身の気持ちすら誤魔化すなんて――。

 自分の気持ちに嘘をつくことも、隠し続けることも――できませんっ!。


「……私も、玖郎くんが好き――大好きです」


 呟くようにしか言えなかった言葉。

 それが、私の本心でした。

 心からの、偽りのない気持ちでした。

 ああ。

 そして。

 それを認めてしまった以上――。

 次に必要なのは、その気持ちと決別する覚悟です。

 だって。

 だって、私は、フラッタース王国へ帰らなければいけないから。

 あの世界の人たちを、あの世界の現状を、あの世界にある悲しみを――全部見なかったことにして、全部知らなかったことにして、私の理想を、願いを、捨ててしまうことなんて――できません。

 例え、どれだけ玖郎くんのことが好きでも。

 全部投げ出して、玖郎くんと二人、ずっと一緒にいることを夢想してしまうほどの気持ちがここにあるとしても。

 それは――。

 許されない気持ちなのです。

 私は、なんとしても次の女王になりたい。

 二番目と言われ続けたこの場所を抜け出し、一番に――次の女王になって、地平世界を、誰もが誰もに優しくすることが許される世界に――。


「……ようやく言ったわね」


 朝美ちゃんが、呆れたと言いたげな口調で、そう言いました。

 そうです。

 今は、私の理想の話ではなく、朝美ちゃんと玖郎くんの話をしているのでした。


「それで、瑠璃はどうするの。玖郎に告白するの? 好きです、ってちゃんと伝えるの?」


 そんな。

 私は、ぶんぶんと音がなるほどに首を横に振りました。

 そんなことをして、一体何になると言うのです。

 そんなことをしても――。

 別れが――。

 遠くない未来に。

 避けられない最後の瞬間に。

 そう、すぐにでも訪れる別れの瞬間が、辛く悲しくなるだけではありませんか。

 もし。

 もしも。

 私だけでなく。

 玖郎くんも、そんな辛さや悲しさを味わうことになるのだとしたら――。

 それは――。

 そんなことは――。


「なんで? 良いと思うよ。玖郎だって嬉しいよ。瑠璃みたいないい子に好きだって言われたら――」

「っ――黙って下さい!」


 反射的に大声を出してしまっていました。

 ああ、この気持ちはダメです。

 後から後から沸き上がってくる黒い気持ちが、押さえられなくなってしまう。

 自制が利かなくなってしまいます。


「朝美ちゃんに何がわかるって言うの!? 人の気持ちも知らないで。何が告白よ。玖郎くんだって嬉しいだなんて、よくも――」


 感情に任せて言葉を放ちます。

 溢れだす感情が、これまでずっと、直視せずに蓋をして、見ないようにして、それでもずっと私の胸の中にあって育ってきたそれが、押さえきれずに叫びだしてしまいます。

 思考を放棄して、何も考えずに、ただ胸の中の黒々としたものだけに任せて――。


「私が、どんな立場かも知らないで――」

「知らないわよ!」


 今度は、朝美ちゃんが大声を上げる番でした。


「そんなの知る訳ないでしょ! じゃあ、好きにしなさいよ! そうやってうじうじしてれば良いのよ! どーせ瑠璃は、留学生なんだから、いつか自分の国に帰っちゃうんでしょう!」


 私の感情が、ヒヤリと冷たいものを感じ、次の瞬間、一気に灼熱の炎に転じます。

 どうせ、帰ってしまう。

 それこそが――。


「瑠璃がいなくなっても、私は玖郎の側にいられるんだから。これからもずっと、一緒に遊びに行ったりして、想い出を作って、いつか――こ、告白したり――むしろ玖郎から告白され――」

「止めて!」


 それ以上は聞いていられませんでした。

 私は衝動のままに、朝美ちゃんに掴み掛かります。

 朝美ちゃんの細い腕をとって、反対の手で彼女の頬を――。

 と思った瞬間、突き飛ばされたのは私の方でした。

 爆発する感情と、反撃された怒りで狭窄する視野の中で――倒れてしまったために、すぐ近くに地面が見えます。

 その向こうに、玖郎くんのベンチがあります。その下には、何かの時の備えとして、水を満たしたペットボトルが置いてあり――。


「止めないわよ! そうやって私と玖郎が幸せになるから、瑠璃なんか、何もいわずに自分の国に帰っちゃえば良いんだ!」

「うるさいうるさいっ!」


 反射的に耳を塞ぐかのように、私はペットボトルの蓋をねじり外していました。

 自分が何をしようとしているかも認識しないままに――。


〈操作〉(オペレート)っ!!」


 立ち上がり、朝美ちゃんへ掴み掛かりながら、魔法を使っていました。

 ペットボトル満タンの水が、瞬間的に圧縮され、空中に放たれます。

 私の黒い衝動を乗せて、ほとんど一瞬のうちに、朝美ちゃんの顔面を撃ち抜――。


「っ――!?」


 その直前に、まるで最初から水など存在していなかったかのように、消滅してしまいました。

 〈保護魔法〉(プロテクト)――地球世界の人間を、魔法から守るための魔法。

 それが、私の馬鹿げた魔法を一瞬のうちに消滅させてくれたのです。


「それが何なのよ!」


 朝美ちゃんの手が閃き、私の左頬がパンと音を立てました。

 叩かれました。

 私の顔を――。


「このっ――」


 私は、私の怒りと反射が命じるままに、朝美ちゃんの黒髪を掴みます。


「痛っ!」


 私の左手の爪が、朝美ちゃんの頬に赤い線を作り――。

 させまいと、朝美ちゃんが私の手を掴みます。

 私は朝美ちゃんの手を振りほどこうとがむしゃらに暴れて、結果として朝美ちゃんと掴み合いになってしまいます。

 双方身動きが取れなくなった状態で、朝美ちゃんが叫びました。


「馬鹿瑠璃!」


 ――っ。

 この後に及んでまだそんな――。


「玖郎が好きなら、まず私にそう言え! 好きな食べ物から好みのタイプまで、全部調べるからって、一番最初にそう言っただろ!」


 っ――。


「言えない、話せないって、瑠璃は秘密ばっかりだし、その秘密は玖郎とは共有してるし――玖ろっ――なんで! なんで玖郎なのよ! なんで、私に話してくれないのよ!?」


 ――。

 それって……。

 じゃあ、朝美ちゃんが、怒っている本当の理由は――。


「ゆっくり話す時間はちっともないし、遊びにもほとんど一緒に行けないし、それなのに留学生の子達とは仲良しだし」


 では、朝美ちゃんの用件のと言うのは――。

 玖郎くんへの想いではなく――。

 私――?


「瑠璃、馬鹿瑠璃! どうせすぐに、私を置いて自分の国に帰っちゃうくせに――なんで、いつまで待っても、こっちに来てくれないのよ――?」


 もう、朝美ちゃんの両手には力は入っていませんでした。

 ただ、力なく、私たちは互いの腕を掴んで、手を握りあっていました。


「朝美ちゃん――」


 私が呼ぶと、とうとう朝美ちゃんはぼろぼろと涙をこぼしはじめてしまいました。

 掴み合いの喧嘩の末、引っ掻き傷のできた頬に、ずれた眼鏡の奥で、涙がきらきらと輝いてました。

 私を想って泣いてくれる、大切な親友の涙。


「やっぱり全然分かってない! この馬鹿瑠璃! バカバカ! ……なんで、なんでいつまでも『朝美ちゃん』なのよぉ。あ、茜ちゃんのことは、『茜』って呼び捨てにするくせに」


 ああ――。


「わたっ、私たちは――」


 これが。

 これが、朝美ちゃんの――朝美の用件でした。


「――親友じゃないの!?」


 玖郎くんへの想いの影に隠した、それ以上に胸に秘めていた、気持ちでした。


「親友、なんでしょ。いつまで無理して、友達口調で喋るつもりなのよ? 本当は、玖郎と喋る時みたいに、丁寧に話す方が、話しやすいくせに」


 私は、朝美をぎゅうっと抱きしめました。

 両腕で、しっかりと。


「朝美、ごめんなさい」


 そして謝りました。

 私は、この世界で手に入れた初めての親友に対して――あまりにも不誠実でした。


「う、うわあああ――」


 朝美は声を上げて泣き出してしまいました。

 言葉にならない感情を、あふれだすままに叫びにして。


「ごめんなさい。それから――」


 私も、朝美と同じく、溢れて流れ落ちる涙なんて、全く気になりませんでした。

 私は、朝美の背中をぽんぽんと叩きながら、それでも込められる限りの気持ちを込めて言いました。


「――ありがとうございます」


 朝美を抱き締め、彼女の温もりを感じながら、私はようやく冷静に考えることができるようになってきたようです。

 ええ。

 認めましょう。

 私は、玖郎くんが好きです。

 間違いなく訪れる別れに、その気持ちを誤魔化して、直視したくないと思ってしまうほどに。

 その事実から目を逸らすために、気づかないようにするために、まっすぐに玖郎くんを好きだと言える朝美との関係を歪ませてしまっていたのでしょう。

 誠実に接していると信じて、少しも親友として接していなかったのです。

 朝美が怒ったとしても無理もない話でした。

 そして。

 今日、それに気がつくことができました。

 私は、朝美のことも大好きなのです。

 玖郎くんだけではなく、彼女との別れからも目を逸らしたくて――だから、距離を作ってしまっていた。

 全く。

 こんなことでは、地平世界を優しい世界にするだなんて――笑われてしまいますね。

 だから――。

 まずは、最初の一歩を踏み出しましょう。

 例え、別れることになるとしても。

 恐れず、歩み寄るための一歩を。

 その覚悟を。

 今日、ここから――。

 やがて、泣き止んだ朝美は、ぐじぐじと顔をハンカチで拭きながら、照れたような起こったような――それでいて、どこかすっきりした笑顔を見せてくれました。


「さあ、次は私の番ですね」


 二人でベンチに座ると、わたしはそう切り出しました。

 私の言葉に、朝美はちょっと嫌そうに表情を変えました。


「な、何よ? これだけお互いぶちまけて、まだ何かあるの?」


 ええ、その通りなのです。


「今度は私の話に付き合ってもらいます。朝美」


 私は、もうその決心を固めていました。

 彼女には――。


「全てを話します。私がなぜここにいるのか、何をしているのか、何を願っているのか。玖郎くんのことも含めて、全部です。聞いてくれますね?」

「そ、それはまぁ、瑠璃がどうしても聞いて欲しいって言うなら――」


 ふふ。

 朝美は、それを聞きたくて仕方がなかったはずなのに、そんな反応を返してきました。

 その反応が可愛くて、思わず笑ってもしまいます。


「な、何笑ってるのよ!」

「いいえ。それから、その後にお願いが一つ」


 ピッと人差し指を立てる私に、朝美はわざと頬を膨らませて見せます。


「あのね、私たち、一応さっきまで好きな男の子を巡って掴み合いのケンカをしてたのよ?」

「あら、本題はそんな話ではなかったような――?」

「うるさいっ。ともかく、その当日のうちにお願いなんて、私が聞くと思ってるの?」


 ふふふ。

 それは、秘策があるから大丈夫です。

 ああっ、今の私は、玖郎くんに似た例の悪い笑顔を浮かべてしまっているかもしれめせん。


「聞きたくなると思いますよ。これ、何だと思います?」


 私は、ランドセルの内ポケットから、大切にしまっていた『それ』を取り出しました。

 まだよく見えないように、手で隠しながらひらひら振って見せます。

 そう、親友だと言うのなら、こういう宝物を共有するのも必要だと思うのです。


「朝美は興味ありませんか? 玖郎くんのメイド服姿。怒った顔に見え隠れする恥じらいの表情は、なかなか他では見られないものですよ?」


 その時の朝美の表情の変化は、一見の価値ありでした。

 何を言い出したのか理解できないという、ぽかんとした表情から――写真の正体に理解が及んだ瞬間に、きゅぴん、と眼鏡の奥で瞳が光ったように見えました。


「……詳しく聞かせてもらおうかしら?」


 ええ。

 もとよりそのつもりです。


「もちろんです。全部話しますから、聞いてくださいね」

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