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(改訂統合版)2番目の魔法少女 〜次期女王になって優しくできる世界を作りたいのですが、天才少年は契約のキスをしないことに決めたようです〜  作者: 秋乃 透歌
第一巻 約束の協力者

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(1-19)第三章 1番目の魔法少女(4)

【玖郎】


 西階段を降りきった瞬間、ほぼ同タイミングで一年二組の教室からハガネイカが飛び出して来た。

 弓道の的のような、例の印も付いている。

 間違いない。

 一呼吸の時間差の後、赤い人影が教室から飛び出してくる。現実離れした赤い衣装――茜だ。

 慌てて旋回するハガネイカの進行方向、一年二組の別の扉から珊瑚が飛び出した。

 ほぼ完璧なタイミングだ。

 ハガネイカが対処しきれずに、空中で動きを止めてしまうのも無理はない。


「珊瑚、一気にいくよ!」


 茜の声が挟撃のタイミングを合わせる。


「分かってる! ――〈生成〉(クリエイト)!」

〈生成〉(クリエイト)っ!」


 二人の魔法が唱和される。

 そして、その瞬間、僕は茜の横を走り抜けた。

 全く同時に、珊瑚の横を瑠璃が『飛び』抜けた。

 なんとか、間にあった。

 さあ、ここからが僕達の出番だ。

 ハガネイカを中心に、瑠璃と僕は急停止して転身、ハガネイカを庇うように、珊瑚と茜に向き合った。


「ナイスタイミングだ。〈盾〉(シールド)!」


 僕の偽の魔法と――。


〈操作〉(オペレート)!」


 瑠璃の魔法の、声が重なる。

 僕達の突然の乱入に驚きながらも、茜と珊瑚の〈生成〉(クリエイト)は止まらない。

 僕達の前後から炎が吹き上がる。

 業火と呼ぶに相応しい、灼熱と閃光をまとった炎。

 だが。

 同時に瑠璃の目の前で、水の壁が立ち上がる。

 『火』なら『水』で消せるはず――そんな物理的な原則は無視して、珊瑚が生み出す魔法の業火は瞬時に水を蒸発させ、消し去ってしまう。

 一体どれほどのエネルギーを持った炎だと言うのか。

 それでも――そう、それでも、炎は水の壁を破れない。

 なぜなら、その火力は想定済みだ。瑠璃は、その理不尽な火力に対処するため、〈操作〉(オペレート)で水道水を常時補給しながら壁を作っているのだ。そう簡単に突破されはしない。

 さらに。

 人の世界を魔法から守るための魔法――〈保護魔法〉(プロテクト)に守られた僕は、太陽もかくやという火の〈魔法少女〉(プリンセス)の炎の影響を一切受けない。

 全てかき消してしまう。

 僕は、茜までの二歩の距離を、吹き上がる炎を無視したまま走り寄る。

 炎を掻き分け姿を現した僕に、茜の表情が驚きで固まった。


「そんな――」

「悪いが、手加減なしでいくぞ」


 茜の驚きの声を遮って、僕は宣言する。同時に、構えた右手を彼女の額へと伸ばし――。

 炎が立てる轟音の中でも、びしっ、と響いた音が僕の耳まで届いた。


「――っ!?」


 僕のデコピンが、茜の額に炸裂した音だ。

 〈魔法少女〉(プリンセス)〈生成〉(クリエイト)が途絶えた。

 茜は、声もなく額を抑えてしゃがみ込んでしまう。


〈魔法少女〉(プリンセス)〈騎士〉(ナイト)も、揃って防御専門か? なら、これで――〈剣〉(ソード)っ!」


 水の壁が突破できないことに業を煮やした珊瑚が、方針を変える。

 〈騎士〉(ナイト)の攻撃魔法である〈剣〉(ソード)を使おうというのだ。詠唱に反応して、珊瑚の掌には一振りの炎の剣が現れる。全てを焼き切る、火炎の剣といったところか。

 だが。

 僕と瑠璃は、その一瞬の隙――攻撃方法を切り替えるために必ず生じる、炎が途切れる瞬間を待っていたのだ。


〈操作〉(オペレート)っ!」


 瑠璃の魔法で水が操られる。珊瑚の足を、後ろから掬い取る形で力をかける。

 面白いほど簡単に、珊瑚は両足を払われて、背中から廊下に落ちる。

 これは、台風などの大雨の時に、足元の流れに簡単に足を取られてしまう原理と同じだ。水のせいで地面と足の間の抵抗が少なくなるうえに、浮力のせいで足を地面に押し付ける力自体が弱くなってしまう。

 バランスを一度崩せば、後は倒れるしかない。

 あ、珊瑚が頭をぶつけないように、瑠璃が〈操作〉(オペレート)を使った。わざわざ補給しておいたペットボトルの水を使ってしまったようだ。

 まったく。

 優しいのは美徳だが、この場では、文字通り自分の足元がすくわれかねない行為だ。

 でも、それで良いのだろう。

 瑠璃は優しくできる女王になりたいのだから。

 そして。

 そのために、ここに協力者がいるのだから。


「あ」


 瑠璃が何か言い掛けるのを最後まで聞かずに、珊瑚の額にデコピンを見舞う。

 びし。


「――っ、いってえぇ!」


 さて、次はハガネイカだ。


「ハガネイカ、やっぱり逃げてしまいましたね」

「問題ない。打ち合わせ通りの場所に向かうぞ」

「はい。珊瑚くん、茜も、ごめんなさい」


 瑠璃はそう声をかけてから、僕に並んで走り出す。目指すは、あの場所だ――。



【瑠璃】


 打ち合わせていた目的地は、椎名小学校の屋上です。

 玖郎くんの考えはこうです。

 ハガネイカは、小さい体を活かして教室に隠れる。一度見つかった後は、教室ではなく屋上に向かうのではないか。次も教室に隠れているはずという思い込みを逆手に取るのではないか。

 その根拠は、ジャッ爺の言葉だそうです。『屋上の上空も含めて、電撃で覆った』――つまり、屋上に移動する予定があると考えられる、と。

 考えてみれば、小さなハガネイカの体は、隠れるのにも向いていますが、何もない広い空間で逃げ回るのはもっと得意そうです。

 玖郎くんは、どうしてそんなことがすぐに分かってしまうのでしょうか。

 本当に、玖郎くんはすごいです。

 そんなことを考えながら、中央階段を駆け上がります。

 西階段、東階段はそれぞれ三階までで階段が終わりますが、中央階段だけはさらに先に延びていて屋上に出られるようになっています。


「扉が開いています。玖郎くん、当たりです」


 私は、思わず手を叩きたくなってしまいます。

 これだけ時間を稼ぐことができたのです、茜達が屋上だと気づく前に、ハガネイカを捕まえることができるはず。


「私が飛び込みますから、玖郎くんはすぐに扉を閉めて下さいね」

「いや、落ち着け瑠璃、一つ確認したいことが――」


 玖郎くんの言葉が終わるかどうかというところで、一歩先を飛んでいた私が、扉を開け放って屋上に飛びだします。

 瞬間的に明るくなって、目の前が白く染まります。

 さあ、ハガネイカはどこに――。


「くっ、そのパターンか。瑠璃――」


 後ろから、玖郎くんの声が聞こえました。同時に、ばしゃ、と水が床面に落ちる音も。

 私の背後で、玖郎くんがウィンドブレーカーからペットボトルを取り出して口を開け、中身を叩きつけるように床に流したのです。


〈操作〉(オペレート)だ! 防御!」


 その声に、私は反射的に魔法を使いました。

 状況が分からないままでも、その声だけに反応できました。まさに特訓の成果でした。

 玖郎くんと私を包み込むように、ペットボトルの水を展開します。その形は、半球状です。これで、どの方向からの危険が迫っても、対処できるのです。

 さらに、玖郎くんとの特訓で打ち合わせていた通り、その半球状の水に流れを作って、地球儀のようなイメージでグルグル回します。こうすることで、外から水に入ろうとする方向の力を、受け流すことができます。

 どどど、と数回音が響きました。何かが水のドームに弾き飛ばされのです。


「くっ、薄い。このままでは厳しい。瑠璃、これも防御に追加だ」


 ばしゃり、と水の気配。

 私は、玖郎くんの言葉のままに、それも〈操作〉(オペレート)で持ち上げると、防御の半球に加えました。

 ど、ど、ど、と音が続きますが、さっきより小さくなりました。防御が万全になったようです。

 そこでようやく、私は状況を認識しました。

 あれは。

 え――?


「確認が間に合わなかったな。ジャッジメントがなぜ一匹しかいないハガネイカに印をつけたのか気になっていたんだ。『サイズが変わっても』こいつが目標だと主張するため、か。――ハガネイカは、本当ならあれくらいのサイズがあるんだな」


 私と玖郎くんの視線の先、水の半球の外側に、大人の身長より大きいサイズになったハガネイカがいました。

 その大きさだと、イカよりもハガネの印象の方が強くなります。まるで機械でできているかのようです。光を反射する胴体はロボットめいていて、十本の腕は意思を持ってうごめく金属のワイヤーのようでした。

 その胴体には、黒い絵の具で描かれたような弓道の的に似た印があります。

 つまり、間違いなくあれが捕獲しなくてはいけない目標、ということです。


「そんな……。子どものハガネイカだと思ったのに。ジャッ爺が、大人のハガネイカを、魔法で小さく見せていたということですか?」


 私は呆然と呟いてしまいます。


「フーセンクラゲに比べて随分小さいと思ったが――その直感は正しかったか」


 玖郎くんが言いました。


「あのサイズだと、捕獲は難しい、か。瑠璃、水道から水を補給できるか?」


 玖郎くんの言葉に意識を研ぎ澄ませますが、ダメです。水の気配を感じることができません。

 私は、首を横に振りました。


「無理です。この防御の〈操作〉(オペレート)が邪魔で、水の気配を感じられません。それに、一階下の廊下の端ですから、遠すぎるのかもしれません」

「そうか。生半可な攻撃ではダメージは少なそうだな。と言って、捕獲も厳しい。となると――」


 水の半球に守られながら、玖郎くんは状況を打開するための考えを巡らせます。

 でも、玖郎くんが考えを口に出すのは珍しいことです。普段なら、言葉よりも遥かに早く、答えにたどり着いてしまうのですから。

 それが、非常に厳しい状況だと表しているようで、不安が大きくなります。


「ペットボトルの予備は? 僕の二リットルは、この防御に使い切ってしまった」

「ごめんなさい、さっき珊瑚くんを転倒させた時、頭から落ちそうだったので使ってしまいました。もうありません」


 つまり、追加できる水はないということです。この場にあるのは、防御に使っているこの水だけです。

 水のドームには、絶え間なくハガネイカの足が叩きつけられています。

 完全に攻撃対象だと認識されているようです。

 もしも防御の魔法を解いてしまえば、あの巨大な鋼の鞭が次々と降り注ぐ、と想像できます。


「秘密基地の時のように、僕だけが水を取りに行くこともできない」

「そう、ですね」


 玖郎くんが水のドームから出ようとすれば、魔法を一度解除する必要があります。

 玖郎くんが、無理やり水から飛び出したとしても、〈保護魔法〉(プロテクト)の効果で魔法は解除されてしまうでしょう。

 どちらにせよ、攻撃されてしまいます。

 あ、そうです。

 例え攻撃されたとしても――。


「玖郎くんはハガネイカの攻撃では傷つきません。私が少しの間、攻撃を我慢すれば――」

「確かに、僕だけ屋上を脱出して三階の蛇口までたどり着ければ、水は確保できる。しかし、おそらく無理だ。フーセンクラゲの時の委員長のように、触手に捕まって身動きが取れなくなる可能性がある。その場合、水の確保だけでなく、瑠璃の攻撃も制限されてしまう」


 ふむ、と玖郎くんは思案しています。


「とは言え、それ意外に方法はないか。ノーリスクは無理だが、駆け抜けるしかない。とすると最大の効果を得るためには――」


 玖郎くんは、無理やり納得するように頷きました。


「瑠璃、防御に使っている水を全部ハガネイカに叩きつける。ただし、方向は下から上だ。あいつを持ち上げて、屋上の上空に張っている電撃の魔法に叩きつける。うまく行けば、そのダメージで捕獲判定に持ち込めるかもしれない。結果を見ずに、二人で一時退却だ。防御手段がない以上、瑠璃も屋上に留まる意味はない」

「そうですね。わかりました」


 私は頷き、ハガネイカの動きに集中します。

 ハガネイカの十本の足は、複雑な起動を描きながら、色々な方向から水の半球を叩いています。どんなタイミングで〈操作〉(オペレート)を解いたとしても、振り下ろされた足が直撃しそうに見えます。

 いえ。

 よく見ると、複雑な動きですが一定のリズムがあります。ほら、右、右、下と、次の上の間に、わずかですが間があくのです。

 そこを狙って、防御を攻撃に変えるのです。


「玖郎くん、行きます」

「いつでも」

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