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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第五章 氷雨の夜に
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黒戸様の秘密

 黒戸様と呼ばれる巫女姿の女性は、智也のいとこの流楽に顔立ちが似ているが、気配は人間というよりも神に近いもののように感じた。


初対面ながら久しぶりと言う彼女の声は、智慧の魔女、改め楓と名乗った彼女の声と同じだった。


どこか安心感を覚える穏やかな笑みとは裏腹に、底知れない深淵に似た赫い瞳の奥には数多の星が輝く宇宙が見えた気がした。



「お前が、黒戸様なのか?」


「そう。まさか、君とこの姿で話す時が来るとはね」


「え、知ってる人なの?」

昏は非常に驚いていた。


「その通りだとも。私と彩島智也はマブダチさ」


「違うわ!」

智也は楓の肩をサッと払って距離をとった。



智也は少し肝を冷やした。

(こいつ、いつの間に隣にいたんだ)


「瞬間移動って奴だよ。君も出来るだろ?」


心の声を読んでいるのか、楓は智也が心の中で思ったことに関する回答をした。

(......そういえば、心の声が読めるんだったな)


「いいや、そう言う訳じゃない。君が考えていることを推測しただけさ」


「は?」


智也は警戒心を強めたが、楓を頼らなければこの状況を打開できないことを理解していた。


「お前の知っていること、聞かせてくれないか?」


「......いいよ。ただし、条件がある」


「条件はなんだ?」


「......一体、成れの果てを殺してくれ」



 二人は楓から現状の話を聞いた。


先ほどの戦闘で智也は詠唱を中断したうえに、ゲートとの接続状態で蒼い魔力を使用したため、ゲートが暴走、空間に穴が開き、二人は空間の歪みに吸い込まれた。


そして、墓山町の樹海は時空流集中点と呼ばれる、神隠しが多発する場所であり、それも相まって時空間の穴が開きやすい状態だったようだ。そして、二人は歪みに吸い込まれて時空流の渦に投げ出された。


偶然に偶然が重なり、二人は過去の方向に流れ、運良く楓によって千年以上前の深無町に引っ張られたのだ。



楓はやれやれと言った表情をした。

「君たちは運が良かった。時空流に巻き込まれて生きているなんて、普通あり得ない。次元の神の加護でもない限りね」


楓は智也の方をニヤっとした目つきで見た。


「......助かった、本当にありがとう」

智也は楓に頭を下げた。


「私からも、ありがとうございます」

昏も頭を下げた。


楓はどこか満足げに笑った。



「それで、迷惑ついでに元の時間に変える方法を教えてくれないか?」



智也がそう尋ねると、楓は昏にしばらく部屋から出るように告げ、昏はしぶしぶその部屋を去った。



「過去に行くのは神の力がいるが、未来に行くならそこまでの力はいらない。私の力なら君たちを返すことも出来る」


「ただ、その前に条件を果たしてもらうよ」


「成れの果てを殺す、だったよな? 何をすればいいんだ? というか、過去の世界に干渉して平気なのか?」



「その成れの果ては、君が時間移動したのに合わせてこっちに来た。だから、タイムパラドックスを生じさせないためにも、君の手で倒せ」


「いや、ちょっと待て、僕がその『成れの果て』を連れて来たのか? てことは、そいつは次元の神関連なのか?」


「まあ、会えばわかる。明日の早朝、ここに来て。それまでは、私の弟子にここら辺の案内でもして貰え。ただし、目立つんじゃないよ」


智也は黒戸様の部屋を後にした──




部屋を出ると、黒戸様の弟子の少年がいた。


「お、話終わったみたいだな。お連れさんは部屋で休んでるよ。あ、そう言えば名前言ってなかったな。俺は理飛りひだ」


この時代に苗字は無いと思った智也は下の名前だけを言った。

「僕は智也です」


「智也か、よろしくな! お前も訳ありみたいだし、わかんないことがあったら何でも聞いてくれ」


智也はその言葉を聞いてすぐに訊ねた。

「.......それなら、黒戸様って一体何者なんですか?」


理飛が言うには、黒戸様はある日突然、この地に現れ、その知恵によって人々の生活を豊かにした聡明で慈愛に溢れる人物。

彼女は予言の能力を持ち、未来のことをピタリと言い当てる。それは明日の天気や、今年の作物の収穫量、飢饉の発生まで幅広い。


加えて突然現れるようになった異形の獣たちから、妖術を用いてこの地を守護する役目もになっているようだ。


ここまでがこの村の人々の抱く黒戸様像で、理飛個人の印象としては優しいが不気味なところもある不思議な人。しかし、決して悪い人には感じないとの話だった。




「俺は少し前から黒戸様の弟子になったんだが、それより前の記憶が無い。でも、あの人は見ず知らずで、記憶の無い俺を救ってくれた恩人だ。悪い人じゃ無い」

理飛は微笑んだ。


「......僕も、黒戸様が悪い人にはあまり思えない。以前、爺ちゃんを助けて貰ったから。ただ......怪し過ぎる。何を考えているのかを知りたい」


「俺もだ! あの人は何を考えてるのかわからない! 智也、一緒に探ってみないか?」


「おう、一緒に黒戸様の秘密を暴こう!」


男二人が盛り上がっていると、鈴の音のように高い声がした。

「それ、私も混ぜて!」


その声の主は昏だった。

彼女は屋敷内に余っていた巫女服を借りて着ていた。


智也は少し驚いた。

「え、お前も混ざるの!?」


「何よ、除け者扱いは酷いじゃん」


理飛はハイテンションだった。

「よし、じゃあ三人でやろう!」



こうして、黒戸様の秘密を暴くべく、三人が団結した。




しばらく後、智也も服を借りて過去の時代に相応しい服装に着替えた。


三人はひっそりと黒戸様の様子を物陰から観察した。黒戸様は縁側で空を見上げてもの思いにふけっているようだった。


理飛は小声で話した。

「黒戸様は、いつもここで妖術を使って何かをしているんだ。妖術使いのお前なら、何かわかるかもしれない」


しばらくすると、黒戸様は空中を指でなぞって魔術陣を描き始めた。

その魔術陣は智也には見覚えがあるもので、『空門ゲート』の術式だった。


少しの違いはあるものの、それは空間魔術のゲートを開くものであるのは間違いない。


じっと観察していると、黒戸様の目の前に小さなゲートが開き、彼女はゲートに向かって話しかけた。それと同時に、背後から黒戸様の声がした。

「君たち、何をしているんだい?」


智也達が一斉に振り返ると、背後に小さなゲートが開いており、そこから微笑んでいる黒戸様の顔が見えた。

「人がまったりしている姿をジロジロ見るのはやめたまえ」


智也はゲートの魔力を感知出来なかった。

熟達した魔力操作と魔術の技術の二つが伴わなければ、こんな芸当はできない。


朝霧にも匹敵するであろう魔術の技量と、うまく隠されている膨大な魔力、そして未来予知や時空間についての知識、黒戸様の想像以上の力を智也は少し恐れた。


「すいません」


三人は黒戸様の目の前まで移動した。


「君たちが私を不審がるのはわかるが、こそこそと隠れて観察しないでくれ。罰として、理飛と一緒にこの書簡をごんに渡して来てくれ」


「わかりました!」



こうして、三人は銀と呼ばれる人物の元へ向かうことになった──

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