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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第五章 氷雨の夜に
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フィッシャーマン海坊主

 水草と泥を纏った海坊主のような巨人が昏と紗由理を探しているのか体をねじらせてキョロキョロしている。


怪物はときおり耳がキーンとするほどの雄叫び声をあげて、奇妙に長い大きな腕を地面に叩きつける。それによって地面が揺れて昏と紗由理は恐怖にさらされる。


かつて封印されたこの怪物は狡猾かつ醜悪な魔物で、人間を自身の生み出した異空間に閉じ込めることが出来る。


昏は涙目で紗由理を見つめた。

「お姉ちゃん、この空間から出るにはどうすればいいの?」


「あの化け物を倒すしかない。でも、私たちには無理ね。智也くんを待つしか無いかも......」



怪物が再び咆哮をあげると、二人の視界に智也の姿が見えた。


「昏、紗由理さん! 良かった無事だったんだ!」

智也は二人の元へ近づくが、紗由理は警戒したまま昏と共に智也と距離を取った。


目の前にいる智也は足が遅く、少し距離を取った二人に追いつくことが出来ない。

やがて蜃気楼のように智也が消え去り、そこには白い光の糸が垂れていた。



昏が紗由理に尋ねた。

「あの糸に触っちゃダメって言ってたけど、触ったらどうなるの?」


「あの糸は言わば釣り糸、幻という餌で誘き寄せて、糸に触れた相手の魂を吊るし上げて殺す。あれは狡猾で悪趣味な殺し方が好きなのよ」



紗由理は以前、あの怪物について聞いたことがあった。かつては高名な魔術師であったある男が、古代魔術を精神が壊れるまで使用したことで魔物と化し、やむを得ず石碑に封印された。


その性格は魔物化前の彼とは真逆で狡猾かつ残虐。自分が勝てる相手のみを自らの造り出した異空間に閉じ込め、幻術を使って狩る。


この魔物はいま、二人を殺すことを楽しもうとしている。



 なかなか餌に食いつかない二人に痺れを切らし、怪物は長い巨椀を二人目掛けて振り下ろした。


紗由理は昏を抱えて素早い身のこなしでそれを避けた。元いた場所は怪物の巨椀が叩きつけられ、地響きと共に土煙が舞った。


昏は肝が冷える思いで、紗由理にしがみついた。


怪物はニタニタと黒い粘液を垂らしながら笑い、巨椀を縦横無尽に振るった。


一撃でも当たればまともに動けなくなるであろう猛攻に、紗由理は身をかわすので精一杯だ。


「霧の向こうに行ってみるのはどう?」

昏は湖の周囲に立ちこめる濃霧の奥へ進むことを紗由理に提案をした。


「あの霧は幻を見せる力があるから、迂闊に奥へ進むとかえって危険」  



怪物は攻撃をやめ、大きく空気を吸い込むと、今まで以上の咆哮をあげた。

二人は思わず目をつぶって耳を閉じ、轟音に耐えた。


次の瞬間、昏の目の前から紗由理の姿が無くなっていた。


「お姉ちゃん、どこ!」


大きな声を上げて呼びかけるが反応は無い。


すると、目の前の霧の中から人影がゆっくりと現れた。

それは長い黒い髪をした女性で、昏にはその人物に見覚えがあった。


「......お母さん............?」


優しげに微笑むその女性の口の形だけが鮮明に見えて、顔全体の表情はもやがかかったようにわからない。


顔のパーツはわかるのに、まとまらない。

まるで、顔が無いのでは無いかという錯覚に陥る。


「.......誰?」



昏は悪寒が止まらなかった。

動悸が激しくなり、体が震える。何かを拒絶している。目の前にいる何かとは、昔出会ったことがある気がする。


何かの瞳が"赫い光"を放っているように見えた。



昏はその場に膝から崩れ落ちた。

目から涙が溢れて来て止まらなかった。しかし、理由がわからない。



幻は消え去り、巨大な異形の腕が昏を叩き潰す目前まで迫っていた。


彼女の瞳に迫り来る異形の腕が映った。



 刹那、巨椀と昏の間の空間にヒビが入り、空間を突き破るようにして"蒼い光"を纏った少年が現れた。


「不可視の衝撃」


彼が一言呟くと、怪物の巨椀が一瞬にして吹き飛んだ。


彩島智也が現れたのだ。


智也は昏の方を見て、彼女が泣いていることに気づいた。


智也はポケットに入っていたハンカチを取り出して、彼女に手渡した。



「智也......! ありがとう」


彼女はハンカチを受け取った。


智也は怪物の方に向き直った。

「覚悟は出来てるよな?」


彼は鋭い眼光で魔物を睨み、大きな蒼い光が彼の周りから放たれる。

 

昏は彼の背中を見つめて安堵したような気持ちになった。



 怪物が咆哮を上げて智也に襲いかかる──


サブタイトルは適当です

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