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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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夏祭りの夜、星空の淵で

[2022年8月14日]


 この日の天気は晴れ。

日の暮れかかった町をオレンジ色の夕空ゆうぞらの光が辺りを包んでいる。



今日は智也の住んでいる深無町しんむまちで夏祭りが行われる。


その祭りは『時夜祭ときよまつり』と呼ばれており、黒戸神社とは別に、時の神を祭神として祀っている"時夜神社"が毎年八月のこの時期に行なっている祭りである。


 智也は毎年、昏と共にこの祭りに参加していた。


智也は自分の家を出て、昏の家の前まで来た。木製の扉を開こうと手を触れるが、一瞬、タイムリープ前の、あの光景がフラッシュバックして腕の動きが止まる。


少し、体が震えた。あの時も、ちょうど夕暮れ時だった。


智也は肩の力を抜いて、扉を開いた。


二条家の敷地に入った瞬間、家の扉が開いた。


「あ、智也! ちょうど行こうと思ってたんだよ!」と昏が元気な声を発し、智也に駆け寄った。


昏は水色の浴衣を着ており、サンダルを履いている。いつも通りの明るい印象だ。


「どう、似合う?」と昏がくるくるしながら言った。


「ポテチとコーヒーくらい似合ってる」智也が言った。


「何その例え......というか、ポテチにはコーラでしょ」


「ふ、まだまだお子様だな」


「えー......」昏は少し困惑した。



「こんばんは、智也くん」と家の中から紗由理が現れた。


「あ、紗由理さん、こんばんは」智也は返事を返した。


紗由理は黒い浴衣を着ていて、スレンダーな印象を受けた。


「お姉ちゃんも来たし、行こう!」


三人は時夜神社へ向かった──




普段は神域として静かな空間となっている神社がだが、今夜は太鼓や笛の音が鳴り響き、色鮮やかな浴衣姿の人々や子連れの家族など老若男女様々な人々で賑わっている。


リンゴ飴や焼きそば、お好み焼きなどの出店が立ち並び、歩く人々はみな笑顔だった。




(前まではこのレベルの人混みだと【眼】の数が多すぎて少し辛かっけど、僕は【眼】を見ないように出来るようになった)


智也が一度目を閉じ、深呼吸すると、先ほどまで見えていた【眼】が一時的ではあるが見えなくなっていた。


度重なる戦いにより、智也は【眼】が見える状態を意識的にオンオフ出来るようになったのだ。


「じゃあ、何から食べる?」と先頭を歩いていた昏が振り返り、目を輝かせて言った。


「なら、いつもの焼きそばでも食べるか?」智也は言った。


「賛成!」



 智也たちは毎年同じ場所で営業している塩焼きそばの出店を訪れた。


その出店には世紀末な髪型と刺々しい肩パッドをした強面の男性が調理していた。


「おう、嬢ちゃんたちか! 今年も来てくれて嬉しいぜ! ヒャッハー!」


(この人、やっぱりクセ強いな)と智也は内心思った。


昏はヒャッハーおじの前まで行って注文した。

「こんばんは、おじさん。あゆの塩焼きそばを三つお願い」


「オーケー、待ってな」


ヒャッハーおじはコテを持つと一気に雰囲気が豹変ひょうへんした。

「あたたたたたたたたたたたいたたたたたたたたたたたたたた、あたたたたたたたたーー!」


そのコテ捌きは残像を残すほどであり、とてつもない速さで動き続けるその腕はまるで腕が百本あるように見えるほどだ。



昏はその凄まじい光景を間近で見ていた。

「すごい、これが、コテ百裂拳!」


「それ拳じゃなく無い!?」



ヒャッハーおじはコテの動きをピタリと止める。そして素早く三つの塩焼きそばを容器に入れ、白い歯を見せてニカっと笑った。

「お前はもう、焼きそばだ......!」


「ちょっと何言ってるのかわかんないです!」

智也は思わず叫んだ。




 智也たちは塩焼きそばを受け取って少し離れた場所で食べた。


「いつも悪いね、私の食べるものに付き合ってくれて......」と紗由理が言った。


紗由理は牛や豚などの肉が食べられず、魚の肉しか食べられない。牛や豚の肉も頑張れば食べられるが、もどしてしまうのだ。



「私たちが食べたいから、塩焼きそばを頼んでるんだよ。だから気にしないで」と昏が言った。


智也も昏に続けて言った。

「そうですよ。あまり気にしないでください。僕はあの人の塩焼きそば好きですから」


「......ありがとう」紗由理が朗らかに笑った。



そうこうしているうちに三人は塩焼きそばを完食した。


「よし、じゃあ次の出店行こう!」と昏が扇動し、智也たちは再び歩き出した。




少し歩いていると、何やら見知った顔を見かけた。その二人の人物は金魚すくいをしていた。


「ああ、また破れた!」と純也が頭を抱えてつぶやいた。


そして、その横には黙々と金魚をすくい続けるファングの姿があった。そのポイ捌きは一流のそれだった。



智也は二人に近づいた。

「ファングさん、純也!!」


「え、智也! なんでここに!?」純也は非常に驚いていた。


「それはこっちのセリフだよ」と智也は言った。



「俺、この町の出身なんだよ。ここしばらくは帰れてなかったけど、あの狼の怪物がどこかへ行ったから、久しぶりに戻って来たんだ!」と純也は言った。


「まさか、純也がこの町出身とは......じゃあ以外とすれ違ったこととかあったのかもな......」


「いやー、まさか、こんな偶然あるんだなー、俺もびっくりだよ!」と純也は嬉しそうに言った。


ファングも金魚すくいを辞めて立ち上がった。

「智也、久しぶりだな。グリフィンを討ったと朝霧さんから伝え聞いている。よく頑張ったな」


「ありがとうございます。ファングさんから教わったことが役に立ちました」智也は言った。


「それは良かった...........」



そこで、昏と紗由理が智也を追いかけて来た。


「あれ、その二人って、知り合いの人?」と昏が智也に尋ねた。


「うん。この前とてもお世話になったんだ」


「へー......えっと、ナイストゥーミーチュー?」



 突然、ファングの鋭い眼光が紗由理を睨んだ。強いプレッシャーのようなもので、紗由理の体は鉛のように重くなった



「ファングさん......?」と純也が焦りの表情で彼を見つめた。


「何しているんですか!」と智也が困惑した様子で尋ねた。


ファングは周囲の様子を見ると、その覇気を消した。

「......すまない」


ファングは一言そう言い残すと、純也を連れてその場を去った。



「............一体、何だったんだ?」智也はこの状況に困惑していた。


「......ねえ、あの人は一体何なの?」と昏が智也に尋ねた。


「あの人は、魔術師だよ。でも、決して悪い人じゃないし......どうしてあんなことを......」智也が言った。



「............」紗由理は額に冷や汗をかき、しばらく放心状態だった。



「......ま、まあ、気を取り直して、いちご飴でも買いに行こ」と昏が言った。


「そう、だな......」


昏は紗由理の手を掴み、いちご飴の出店まで行った──




 いちご飴の出店に行くと、その隣にはリンゴ飴の出店もあった。出店の主はどちらも女性で、顔が瓜二つだった。


「ふん、どう? いちご飴の方が人気でしょ?」といちご飴の店主がリンゴ飴の店主に自慢げな表情で言った。


「そんなこと無い......! リンゴ飴の方が人気だよ! こんなにオシャレで美味しいですもの!」


「ふふん、負け惜しみね。どうやら売上勝負は私の勝ちみたいよ?」といちご飴の店主が言った。



「あ、あのー......」と昏が気まずそうにいちご飴の店主に話しかけた。


「ああ、ごめんなさいね。どれにします?」と店主が愛想よく尋ねた。


「えっと、これ.....」と昏はいちごが三つ刺さっている飴を選んだ。



それをリンゴ飴の店主が今にも泣きそうな顔で見ている。


(買いづらい......でもここのが一番美味しそうなんだよな......)と昏は心の中で思った。


「どうぞ」と店主が飴を渡した。


昏は礼を言ってそれを受け取った。


「お客さん、リンゴ飴もどうですか?」とリンゴ飴の店主が昏に言った。


「え、いやー、もういちご飴を三つも買ってしまいましたので......」


リンゴ飴の出店の主人は涙がうるうるしている。



 その時、狐のお面を被った白髪の青年がリンゴ飴の出店に近づいた。


「五つください」と彼はリンゴ飴の出店の主に言った。


「え、そんなに......!? ありがとう!」リンゴ飴の主人は先ほどの涙顔から一変して嬉しそうな表情になった。


「ありがとうございます」青年はビニール袋に入れられた飴を受け取り去っていく。


彼は去り際に智也の横を通った。

その時、お面の目の部分の穴からちらりと彼の瞳が見えた。その瞳は金色で、その中にいくつもの水色の星のような光があった。


一瞬、彼と目が合う。


しかし、何事も起こること無く、彼はそのまま去っていった──




 夜もけてきて、祭りもそろそろ終わりを迎える頃、智也たちは家へと帰った。


「色々あったけど、楽しかったね」と昏が言った。


「そうね。また来年も生きましょう」と紗由理が言った。


「そうですね.....みんなで、行きましょう」



 智也の表情は少し暗かった。


なぜなら来年、紗由理とは祭に行かないからだ。


紗由理は今年(2022年)の年末頃からめっきり顔を合わせなくなり、家に引き篭もるようになっていた。


なぜそうなったのか、理由はわからないのだが、タイムリープ前の昏からは紗由理が『誰にも会いたくない』と言っていたという話は聞いている。



(そう言えば、年末......クリスマスと近いよな......もしかして、霧の都事件が......いや、それは考えすぎか。でも、紗由理さんに何かあるなら、なんとかしないと)と智也は思った。



「そう言えば、紗由理さんって、ファングさんと会ったことあるんですか?」と智也は尋ねた。


「............ファング、さっき会った魔術連の幹部の人だよね.......無い、と思う」紗由理は歯切れ悪く言った。


(ファングさん、どうしてあんなこと......心当たりも無いし、今度会った時に聞いてみるしかないか、もしかしたら何かの手掛かりになるかもだし)と智也は思った──


◇◇◆◆◇◇


 しばらくして、紗由理は疲れたのか先に眠ることにしたようで、起きているのは昏と智也の二人だけになった。


時間は夜、暗い家の中に静寂が流れる。しかし、落ち着く静寂だ。



昏は智也に語りかけた。

「......智也の両親(ふたり)の葬儀、無事に終わったんだよね?」


「うん」


「二人の遺骨、智也が見つけたんだよね......でも、やっと二人がこの町に戻ってこられて良かった」


「そうだな......長い間、見つからなかったから、死んでいるかもとか生きているかも......とか、僕のことが嫌いになって家を出て行ったのかも、とか色々考えてたけど、やっと、わかってスッキリした」智也は言った。


「......」昏は静かに智也の話を聴いていた。


智也は静かに話し始めた。

「あの日、本当に些細ささいなことで喧嘩して、そのままふてくされて寝たんだ。そしたら、夜中に目が覚めて、それで............あいつらが来て、二人が僕を庇って、殺されてしまった。二人とも、僕を捨て身で守ってくれた......命がけで、助けてくれたんだ......」智也の声が少し涙声になっていた。



「二人とも、最期まで立派な人だったんだね......」昏が優しい声で言った。


「うん」智也は頷いた。



「命がけで、誰かを守ることって、きっと親子でも難しいことだと思う。それでも、二人は行動して、そのおかげで、智也は生きてる。それって、凄いことだよ。誰にでも出来ることじゃない。あの二人だから出来たんだよ」と昏は言った。



確かに、智也を救ったのは彼の祖父だが、智也の両親が身をていして守り、稼いだほんの僅かな時間が智也を生かしたのだ。



「......昏、少し行きたいところが出来てさ......一緒に付いてきてくれないか?」と智也が訊ねた。


昏は微笑んで言葉を返した。

「......いいよ」



 智也は庭にゲートを作り、二人はそれをくぐった。


ゲートをくぐった先は森の中だった。

智也は昏と手を繋いで目的の場所へと歩き出す。


少し歩くと、森がきれて視界がひらけた。




 星月の明かりが二人を優しく照らした。

夜空には満天の星々が無限の広がりを見せて輝いている。そんな夜空を現すならば、金や銀の砂粒を暗黒の空に散りばめたようだった。


 地上にあるのは森に囲まれた広い"みずうみ"。その名前は『星空湖ほしぞらこ』、森の中心部分に位置する秘湖だ。


透明度の高いその湖は夜になると星空を映す水鏡となり、神秘的な光景となる。



智也と昏はその湖に近づいた。


「綺麗」

昏は自然と呟いた。


昏はゆっくりと水面に近づき、水をすくおうと手を入れた。その瞬間、水面が幻想的に青く光りその光が波紋と共に湖全体に広がった。


「なにこれ......」昏は驚いた様子で呟いた。


「ここの湖には透光虫とうこうちゅうっていう発光するプランクトンがいるんだ。綺麗な湖にしか生息していないから、なかなかレアなんだよ」智也が解説した。


「そんなのがいるんだ。凄いね」

昏は落ちていた木の棒を拾って湖に入れてゆっくりかき混ぜてみると、そこを中心に青い光が湖に広がった。



「父さんから聞いた話だと、ここは秘境マニアには人気のデートスポットらしい。ここでプロポーズすると絶対結ばれるんだってさ」と智也は少し笑いながら言った。


「へー......」

昏は智也の方をちらりと見た。


「どうかしたか?」


「なんでもない......でも、どうしてここに来たの?」


「......昔、父さんと母さんとここに来たんだけど、それ以来一度と来てなくてさ、それでこの光景が久しぶりに見たくなったんだ」智也は昔を懐かしんでいるようだった。


「そっか、思い出の場所なんだね」


「といっても、僕は一度しか来たこと無いんだ。でも、昔、父さんがここで母さんにプロポーズしたらしい」


「へえ......プロポーズ大成功したってことだね」と昏が言った。


智也は軽く笑った。

「はは、そうだな......父さんはここで自分からプロポーズしたって言ってたよ」


「なんてプロポーズしたの?」と昏が尋ねた。


「確か......『君が百の人生を生きたとしても、この一回を一番幸せにしてみせる』だったかな。はは、よくこんな恥ずかしいこと言えたな......」智也は少し頬を赤らめていた。


「いいセリフじゃん」と昏が笑った。


「そうだな。はは、は.......くっ、ううっ.......」

智也の笑い声が僅かに嗚咽おえつが混じった。彼は咄嗟に昏の反対の方を向いた。


彼は目頭が熱くなっていて、中から溢れそうなものを堪えるのに必死だった。


突然顔を背けた智也を見た昏はゆっくりと彼に近づき、そっと背中をさすった。


「よく頑張りました。もう、いいんだよ」



 その言葉を聞いた瞬間、智也の中の何かが溢れ出した。


体の中から暖かな感覚が込み上げ、どっと外に溢れ出し、冷たい感覚が頬を伝った。


智也は嗚咽を漏らした。隠そうともせずに泣いてしまった。




 智也は誰かの前で泣くことが出来なかった。人に心配をかけたり、弱いところを見せるのを智也は避けていた。


だと言うのに、彼は人の前で......しかも、一番弱いところを見せたく無い者の前で堂々と泣いてしまった。


その瞬間、長い間自分一人の中で籠っていた感情がとめどなく溢れ出した。


 智也は吐露した。


「父さんは、母さんに百回の人生を生きるよりも、この一生を一番幸せにするって言っていた............グリフィンは僕がいたから家を襲った......僕が二人の子供として産まれたせいで、こんなに早く死んで......もし、僕が産まれなかったら、もっと幸せだったんじゃないかって......」


昏は彼の言葉に悲しげな表情をした。

「そんなこと無いよ。二人は、智也が自分の子供で、絶対に幸せだったよ。だって、二人はいつも自慢の息子だって言ってもの。だから、そんな悲しいこと言わないで。智也は智也だからいいんだよ」



 涙が、溢れて止まらなかった。溜まりに溜まった不安と寂しさが今になってやって来た。


星空ほしぞらふちで、彼の中にあった重たいものが流れ落ちていった──









◇◇◆◆◇◇







[???]


お面をつけた白髪の青年がリンゴ飴の入ったビニール袋を持ちながら廊下を歩いている。彼はある部屋で止まり、扉を開いた。


「みんな、そろっているようだね」青年は声を上げる。


その部屋には四人の男女が円卓に座っており、ローマ数字のⅡ〜Ⅴまでの数字が刻まれた紋章を身につけている。


「ノックス様、お帰りなさいませ」


「ただいま」青年はそう言うと、一瞬にして服を着替えた。


彼は純白のマントをつけた騎士のような服装をしていた。

その青年の名は【ノックス=ドーム】

第一の前兆アルファス=ドームの子孫にして、神殺し。そして、タイムリープ前に昏を殺害したであろう人物だ。


ノックスは円卓の前で宣言した。

「さあ、世界平和を始めよう!」



これにて第四章は終了です。

身勝手ではありますが、プライベートの都合で一年程度活動を休止しますが、失踪では無いです。

この物語を書けているのも、皆さんに読んでいただいているお陰ですので、今後も読んでいただけると嬉しいです。それでは、皆さんも体調に気をつけてお過ごしください。

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