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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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懐旧2

 深淵の魔女は私の攻撃を全て読んでいるようであり、当時の私より確実に強かった。魔術は数世紀先の魔術をいくような魔術で、一撃一撃が計算された攻撃をして来た。


攻撃を加えるのすら至難の業だったが、グレイストの援護によって少しずつ削っていった。


場所を少しずつ移動しながら、狂気と混乱の災禍に呑まれる街中で私達は戦っていた。


長いこと戦闘を続け、段々と住民が減って来たためか静かになっていた。


突然、魔女が動きを止めた。朝霧は容赦なく魔女に攻撃した。


その瞬間、魔女の目の前に幼い少女が現れた。彼女は咄嗟に攻撃の軌道を逸らした。


少女は口を縛られて言葉を発せないようだが、涙を流して怖がっていた。


「ははは、やっぱり、攻撃出来ないよね」魔女は笑った。


グレイストは幼い子供を人質にする魔女に心の底から腹を立てた。

「子供には何の罪も無い......! その子を放せ!」


「......そう? じゃあ解放してあげるよ」魔女は少女を空中へ放り投げた。


グレイストは少女を助けようと咄嗟に動き、何とかキャッチした。


 その直後、グレイストに向かって魔女の深赤色の光線が放たれた。




魔女は笑った。

「君ならそうすると思ったよ」


グレイスト達を庇い、朝霧は"致命傷"を負った。


朝霧は腹に風穴が開き、血を吐き出して地面に倒れた。


「ミスティファさん......!」グレイストは叫び、朝霧に駆け寄った。


その直後、グレイストの片足が魔女の放った光線で吹き飛んだ。グレイストは地面に倒れ、這いずりながら朝霧に近づいた。



「こんな卑怯な手を使うとは、余裕そうに見えて、実は追い詰められていたのかな?」と朝霧が苦し紛れに笑った。


「卑怯などでは無いさ。私はやろうと思えば君たちなんていつでも殺せた。けれど、誰かを庇って死んだ方が、綺麗な終わり方だろ?」魔女は嘲笑うように言った。


グレイストは朝霧のすぐ近くまで来て、回復魔術を使用したが、まるで効果は無かった。


「俺のせいで、すいません......」


(どうやら、私はもうダメだな。だったら.....最後に、.やるしか無い)



朝霧は魔法を発動させた。

炎環えんかんほむら



朝霧の腕の周りに五重の炎の環が現れ、環の周囲から放たれる火花が集結し、巨大なプロミネンスの如き焔が放たれた。


魔女は緋色の炎に呑まれ、灰すら残さずに消え去った。


本当にあっけなく、魔女は死んだ。



私は全力で魔法を使ったことで体の半身が焼け焦げた。とは言え、すでに致命傷を負っているためもはや関係はなかった。


「すまない、グレイスト......私はここで死ぬようだ。まだ教えられていないことが沢山あるのに、本当にすまない」朝霧は掠れゆく意識の中で告げた。


その時、グレイストは何か決心をしたような顔をしていた。



「............ミスティファさん。貴方はきっと将来、俺なんかよりも多くの人を助けます......貴方は、ここで死ぬべきじゃ無い」グレイストは朝霧の傷口に手を触れた。


「何を......?」朝霧は微かな声で言った。


「ミスティファさん、今まで、ありがとうございました」


朝霧はグレイストの表情を見て何かを感じたり、焦った声で言った。

「待て、やめろ!」


グレイストは朝霧すら聞いたことの無い、力ある言葉を唱えた。


その瞬間、朝霧の体が虹色の光で包まれ、腹に空いた傷と、魔法による火傷が時間を戻しているかのように綺麗に消えていった。


一瞬にして、朝霧の体の傷は全て癒え、痛みが無くなった。まさしく人智を超えた奇跡だった。



「......グレイスト.......」


 その反動故か、グレイストの体は幽霊のように透けており、体の端が虹色の光の粒子となり消えかけていた。


「どうやら、もう時期消えるみたいです。はは......」グレイストは下手に笑った。


朝霧はグレイストを抱擁した。

「馬鹿野郎。私なんかのために......」


朝霧は涙を流していた。


「......ミスティファさんはすごい人ですよ。貴方ならきっと、予言の厄災すら退けられる......頼みましたよ。未来を......!」


「......ああ、任せろ。お前の分......いや、それ以上の命を救ってみせる」


朝霧の言葉を聞くと、グレイストは最期に笑って消滅した。


グレイストを包んでいた腕の力が消え去り、そこには虹色の光の粒子群だけが残った。


朝霧は肩を落として座り込んだ。

「......私は、そんなに大した人間じゃ無い......お前の方が、もっと.............」朝霧は言いかけた言葉を胸にしまった。



「......まさか、そっちが死ぬとはね」と背後から声がした。


その声は幼い子供の声だった。私は振り返り、声の主を見た。それは先ほど庇った少女だった。


その少女の背後には先ほどは無かった、悍ましい無数の【眼】があった。


「深淵の魔女......」朝霧はつぶやいた。


「ふふふ、その通り。ミスティファ・シャール、君がやったこと、全て無駄になってしまったみたいだね。ははははは」魔女は嘲笑うように高らかに笑った。


朝霧は光を失った目で魔女を睨んだ。

「............なぜ生きている? お前は、死んだはずだ」朝霧は怒りに震える声で言った。


「教えないよ。ふふ、実に滑稽だね。庇ったはずの人間に救われ、挙句救ったはずの人間は私となってしまった。救いのない話だ。どうだい? 絶望したかい? 悲しいかい? 後悔したかい? ははははははははははははははははは」魔女は笑った。


笑った。耳に焼きつくほど、笑った。


嘲笑あざわらった。


全て、無駄だった。





 しかし、心は折れなかった。いや、違う。折れることなど許されない。私はあいつに託されたのだ。たった数年の付き合い。けれど、私はあの馬鹿弟子を......あいつを......



朝霧は立ち上がり、言った。

「............あいつは、馬鹿だったが、本当に良い奴だった。困ってる人がいたら迷わず話しかけに行くし、ブレない芯のある奴だった」


「......何が言いたい?」魔女は言った。


朝霧は冷徹な瞳を見せた。

「そんな奴に、託されたんだ。この先の未来を......私は、お前のような、魔術を用いて人々に害をなす者たちから、もう、何も奪わせない。今度は私が、お前の全てを奪う」


「この私を殺そうとでも思っているのかも知れませんが、不可能ですよ。私は貴方に殺されるほど弱くありません」魔女は肉体を成人程度の大きさにした。


「それなら、試してみよう。いま、ここで」



燃え盛る業火に囲まれた円状の広場の中、朝霧と魔女は向き合った。



 二者の意識の収束、それと同時に攻撃が始まった。


魔女は深赤色の光線を無数に放ち、朝霧は全方位から迫る光線で逃げ場の無い状態だった。


次の瞬間、朝霧のいた場所に大量の光線が着弾し、赤い閃光と共に地面が爆ぜた。


 朝霧はその寸前に空間転移で攻撃を回避し、魔女の頭上を取っていた。


「おや、空間系統の魔術とは......多彩だね」魔女は朝霧の方を向いて笑った。



朝霧は激しく静かな怒りを魔術に込めて放った。

「古代魔術 紅蓮の凶星(インフェルノ)


魔術陣から荒ぶる嵐のような黒い巨大な炎が放たれた。



魔女は防御系統の魔術と結界を多重に張り、それを防ごうとした。

しかし、その結界にヒビが入り、黒い炎が結界の内側へ溢れ出して来た。


(何だ、この威力は......? もはや魔法の領域に達している!)


魔女は空間転移魔術を発動し、避けた。魔女の表情は僅かに余裕を欠いていた。



「お前なら、そこに転移すると思ったよ」魔女の背後から朝霧の声がした。


(なぜ、そこにいる......!?)魔女は振り返り、光線を放つ魔術を発動しようとした。


術式崩壊(マジックブレイク)


 赤い火花と共に魔女の構築した魔術陣がガラスを砕くように割れた。


「なんだ、その魔術は......!?」


魔女は瞬時に無数の魔術陣を展開した。

しかし、次の瞬間には全ての魔術陣が破壊された。


「それはもう見た」朝霧は淡々と告げた。


「はは、すごい魔術だ!」魔女は笑った。




「けれど.......」

魔女がニヤリと笑う。



朝霧の背後に魔術陣が現れ、そこから光線が放たれた。


反射鏡リフレクト


朝霧の背後に二枚のステンドグラスのような結界が現れ、その光線を反射させて魔女に光線を放った。


魔女はすんでの所でそれを防いだ。


「ああ、素晴らしよ。ミスティファ・シャール! もっと新たな魔術を見せてくれ!」魔女は笑った。



「なら、見せてやる」朝霧は言った。


(魔女は魔力の感知が人間の域を超えている。加えて得体の知れない方法で魔力が常に供給されている。消耗戦は無理。だからこそ......)朝霧は魔術を発動させた。



 空中に無数の魔術陣を展開し、そのから大量の熱線を放った。


(その攻撃はさっき見たが......)魔女は困惑していた。




(グレイスト、使わせてもらうぞ)


朝霧は周囲の水分を一箇所に集め、小さな水滴を生み出す魔術を発動させた。そして水滴にごく僅かな魔力を込めて、放つ。


それと同時に魔女の発動している防御魔術を『術式崩壊』で全て破壊する。


小さな水滴が魔女の左腕に銃弾のようにめり込んだ。



 その直後、魔女は全身の気怠さと出血により地面に伏した。


(なんだ、これは......)魔女は自身の体に起きたことを理解できていなかった。


「お前は魔力感知の精度が高いから、魔力による攻撃では無く、物質を用いて攻撃することで撹乱した。そして、その魔術の副次効果は硬水を軟水に変えるというもの。これは水のマグネシウムを減らすことで起きふ現象だ。要は、お前は今低マグネシウム血症になっているということだ」朝霧は言った。



「ははははははは、面白い魔術だ。そんなものまで作ったのかい?」


「......いいや、これは私の弟子が作ったものだ」朝霧は言った。


「ああ、なるほどね」魔女はニヤリと笑った。


朝霧は地にふせる魔女に向けて炎を出して燃やした。


「深淵の魔女、地獄でまた会おう」朝霧は魔女を燃やし尽くした──



魔女が燃え尽きて灰になる。その瞬間、空から雨が降り注ぐ。街の火が消えていき、絶叫や涙声を覆い隠す。


朝霧は暗い空を見上げた。



「......グレイスト、お前は私のことを買い被りすぎた......だが、お前はそんな私に託してくれた......必ず、守ってみせるよ。未来を、世界を......何人にも負けない魔術師として」





◇◇◆◆◇◇


[現在]


「一番初めのお弟子さんとはそんな別れ方をしたんですね......」



「まあ、良い別れ方では無いね。でも、あいつに貰った命で誇れることをしようと心掛けているよ」


「それにしても、深淵教団は昔からそんなことを......しかも智慧の魔女以外にも魔女がいたなんて」と智也は言った。


「実は、グリフィンの記憶の中にさっき話した【深淵の魔女】とおもしき人物がいたんだ。しかも、そいつも深淵教団の教祖と名乗っていた」と朝霧は言った。


「と言うことは、深淵の魔女は生きていると言うことですか!?」


「おそらくそうだ。やけにあっさりやられたと思っていたが、やはりまだ生きていたようだ。今度こそ息の根を止めてやる」と朝霧は言った。


智也は朝霧を無言で見つめた。


「はは、これじゃあ、グリフィンを殺した智也くんに何も言えないね。ごめん」




「......そう言えば、宇佐寺さんから聞いたんですけど、グレイストさんは、次元の神の力を使って朝霧さんを助けたんですよね? どうして神の力を使えたんですか? もしかして、"鍵"を持っていたんですか?」智也尋ねた。


「......宇佐寺がそんな話をしていたのか............まあ、次元の神の力を使ったと言うのは、後から調べてわかったんだ」



 朝霧の話では、グレイストの遺留品の中に次元の神に関する書物があったとのことだった。その書物には次元の神との接触方法について記述されていた。


その記述によると、この世界には時空流集中点という場所が点在し、その場所では"神隠し"が発生する。


大抵神隠しにあった者は強い衝撃と共に、広い宇宙のどこかに飛ばされてしまうため生存は不可能。しかし、ごく稀に次元の神の御前に飛ばされることがある。


グレイストはおそらく次元の神の御前に飛ばされ、何かの契約を果たしたのだと思われる。本当にそんなことが起きるのかは定かでは無いが、何か次元の神の元に招かれる性質があったのかもしれない。


ただ、彼が具体的にどんな契約をしたのかはわからない。


「次元の神には"鍵"を使う以外にも接触する方法があるんですね」と智也は言った。


「確かに時空流集中点で計画的に神隠しにあって、偶然、次元の神のいる領域に飛ばされれば、可能性はある。とは言え可能性としては少なすぎるけどね」



「......もしかして、グレイストさんも"鍵"を......」


「時空門の鍵のことだよね。でもそれは無いと思う。あの鍵は書物にも書かれていなかったし、二条家以外には完全に秘匿されていたのかも」と朝霧は言った。





「そう言えば、宇佐寺は智也くんに何の話をしていたの?」と朝霧が尋ねた。


智也は少し黙った後、宇佐寺から聞いたことを少し話した。



「なるほどね。あいつも世話焼きだな。そのことはもう諦めがついていると言うのに......」と朝霧が呆れたような、嬉しいような表情で笑った。



「............朝霧さんは、老化が止まって......怖くは、無いんですか?」



朝霧は諦めのついているような表情をした。

「正直言えば......少し怖いという思いはあるかな。ふとした瞬間、鏡に映る全く老けていない自分の顔が怖くなる。このまま、私の周りの人は段々と少なくなって、いつか、一人になるのかなって......でも、あいつから貰った命を無駄にしないように、生きようって思うんだ」


「......朝霧さんは、もう十分グレイスとさんの分まで頑張ったと思います。だから、僕は朝霧さんの老化しなくなる力を取り除きたいと思っています」


「............無理だよ。これは次元の神の力だ。最上位の神の力を使うのは不可能だ」と朝霧は言った。


(でも、僕が契約しているのも次元の神。グリフィンと戦った時の力を自由に使えれば......もしかしたら)と智也は思った。


「それにね、長生きは案外、悪いことじゃ無い。色々な出会いもあるし、何より魔術の探究も続けられる。だから、気にしないで」と朝霧は言った。


智也は言った。

「......本当、ですか?」


「本当だよ」

朝霧の表情は真実を言っているように見えた。しかしながら、どこか悲しかった。


智也はやるせ無い気持ちで拳を強く握った──


 


朝霧の初めの弟子、グレイスト。彼は一体どうやって次元の神の力を手に入れたのか、なぜ朝霧の弟子になったのか。


いつか、その答えを彼らは知ることになるだろう──


想像よりも書く量が多すぎて時間がかかってしまいました。(二回目)あと二話で第四章終了予定なので、おそらく明日か明後日には終わると思います。遅れて申し訳ないです。

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