彼方より来たるもの
数日後、智也は両親の遺骨を供養した。
大きな葬儀は行わず、家族や親戚で葬式を取り行った。
智也の祖父『彩島 翔時』や、いとこの『天宮 流楽』とその家族も参列した。
叔父や叔母とも少し言葉を交え、葬式は数時間ほどで終わった。
その後、智也達は黒戸神社へ戻った。
畳の部屋で煎餅の置かれた机を挟んで三人で座り、話した。
「まさか、二人の正式な葬儀が出来るとは思っていなかった」と翔時は朗らかな顔を浮かべた。
「うん......やっと、供養できて良かった」智也は長年の憂いが晴れたような表情をした。
「.......智也くん、この前は暗い表情だったけど、また元通りになって良かったよ」と流楽が言った。
「ああ、あの時は流楽さんにも心配かけましたね......でも、今は大丈夫ですよ」と智也は言った。
「......大変だったろうけど、ご両親も今の智也くんの表情見たら、きっと喜んでくれてると思う」と流楽は言った。
「......そうだと良いですね」智也は言った。
流楽はお茶を淹れに一度部屋を出た。
智也の祖父は彼に話しかけた。
「......これは、聞くべきか迷っていたんだが、あの男にまた会ったのか?」
「......殺した」智也は言った。
祖父は驚いた表情を見せ、しばらく沈黙した。どうやら言葉を選んでいる様子だ。
「......そうか......まあ、ワシがとやかく言えることでは無いし、あの男はもはや人では無かったのだろうからな......怪我は無いか?」
「無いよ。ピンピンしてる」智也は言った。
「......精神的に辛かったりはしないか?」
「......辛くは無い。あの男は最低な狂人だったし、僕としても復讐のためだけに戦ったわけじゃ無いから、後悔はして無い......まあ、それでも、少し思うところはあるかな」智也は言った。
「......こう言ったらあれだが、少し安心したよ。あの男は救いようの無いやつだったが、それでも、誰かを殺して何も感じ無くなった訳ではなくて......」と祖父は言った。
「......魔物も、多く殺してしまったけど、命を奪うのはわやっぱり慣れない。まあ、慣れる方が良く無いと思うけど」と智也は言った。
「すまんな、ワシがあの時もっと早く来れていたら......」と祖父は申し訳なさそうに言った。
「それはもう良いんだよ。前にも言ったけど、今僕がいるのは爺ちゃんのお陰なことは間違いないんだから」智也は言った。
智也は言った。
「......あ、そう言えば、忘れた記憶を戻すのって今できる?」
「出来るが......本当に大丈夫か? ワシは催眠術に近い方法であの時の記憶を忘れさせたが、それは智也自身が忘れたいと思っていたからだ。そうで無ければワシもそれは出来ないからな......」
「それでも、二人の最期を忘れるわけにはいかないって、思ったから」智也は言った。
「わかった......」祖父は複雑そうな顔で了承した。
智也と祖父は社務所を出て拝殿へ行き、祖父はお祓い棒を手に持っている。
「いいか、いくぞ!」
「うん」と智也は頷いた。
祖父はお祓い棒を手に取り不思議な言葉を唱える。古代魔術の呪文にも近いが、それとは違い禍々《まがまが》しさは感じない。
祝詞のようなものを唱え終えたのか、祖父は一瞬動きを止め、叫ぶ。
「破ぁぁぁぁぁぁぁ!」
その瞬間、智也の中にあった"忘れていた記憶"が蘇った──
◇◇◆◆◇◇
あれは暗い夜のことだった。智也は深夜だと言うのに目が覚めてしまい、一人寝室から出てリビングに行こうとした。
その時、階段を登る足音が聞こえて、二人の見知らぬ男が姿を現した。その一人はグリフィンである。
その場所は行き止まりで、逃げ場がなく、智也は少しずつ後ずさる。
智也は逃げ場が無いことを悟り、男達に言った。
「何で家の中に入って来たんだ?」
それに、グリフィンは答えた。
「貴方ですよ。貴方がいたから来たんです」
「え?」
その時、家の異変に気付いたのか、眠っていた智也の両親も起きて廊下に出た。
しかし、グリフィンは彼の両親のことなど気にも留めずに智也を狙って腕を触手状に変形させて伸ばした。
咄嗟に、智也の父はそれを庇い、軽く壁に打ち付けられ倒れてしまう。グリフィンはもう片方の腕を同じように伸ばすが、今度は智也の母が庇った。
「智也、逃げろ!」
「智也、早く行きなさい!」
と彼の両親は叫ぶ。
二人はグリフィンの怪力によって持ち上げられ、体をキツく締め付けられて苦痛の声をあげていた。
智也は恐怖のあまり周りが見えなくなり、向こう見ずにグリフィンに殴りかかった。
しかし、もう一人の男によって智也は拘束されて動けなくなってしまった。
すると、仲間の男がグリフィンに言った。
「おい、こいつ、神と契約しているぞ」
「前兆が、神と契約していると......?」グリフィンは信じられないような顔でそう訊ね、その後叫んだ。
そして、癇癪を起こしたのか、智也の両親の首を強く締め付けた。
ゴキっと骨が砕けるような鈍い音がした。
その後もグリフィンは叫ぶ。
その時、彼の祖父が突然男達の背後に現れた。
一瞬、空間が歪んだように見えると、一人の男は音もなく消滅し、グリフィンも下半身が吹き飛んだ。
しかし、男は智也の両親の亡骸を盾に逃走してしまった。その姿は非常に無様だった──
しかし、忘れていた記憶は"それだけでは無かった"もう一つ、智也には忘れていた記憶があった。
それを、思わぬタイミングで、両親の死の記憶と共に思い出してしまった。
◇◇◆◆◇◇
智也は思わず地面に伏せ、吐いてしまった。
「智也......!」祖父が心配そうに智也に駆け寄った。
「やはり、思い出すのは辛かったか......」祖父は心配そうに言った。
「そうだけど、違う......もう一つの、記憶......が......」智也は辛そうに体を起こした。
「もう一つの、記憶......? ワシは一度しか記憶を忘れさせたことは無い.......もしや、別の誰かに......!」祖父は言った。
◇◇◆◆◇◇
[もう一つの忘れていた記憶]
智也が見た記憶は、"世界が滅んだあの日の記憶"。タイムリープ前の2023年11月5日。智也が朝霧と初めて出会い、鍵をもらって時空門を開く少し前の記憶。
智也からしても不自然に記憶が抜け落ちていた部分だったが、今やっと何があったのか思い出した。
「昏と紗由理さんは、世界が滅ぶ直前に死ぬ......」智也は思わず言ってしまった。
彼が見た記憶は、二条家の屋敷で見るも無惨な姿となっていた紗由理と、刃物で心臓を貫かれ、血溜まりの上で倒れていた昏の姿。
そして、無人となったその屋敷から現れる人物。その人物は【ノックス・ドーム】救世団の長である青年だ。
彼は憔悴しきった虚な目をしており、手には血のついた短剣を握っていた。
智也は怒りのあまりノックスに襲いかかるが、突然金縛りのように体が動かなくなり、その瞬間、背後の影から現れた"もう一人"の手が伸びて彼の頭を掴んだ。
その瞬間、昏と紗由理の死に関する記憶が消され、彼は空間転移で別の場所にいた──
◇◇◆◆◇◇
少しして、智也は落ち着きを取り戻し、一度社務所に戻った。その間、祖父は汚れた境内を掃除している。
(一体、何があったんだ......もう、訳がわからなくなって来た)智也は頭を抱える。
すると、その部屋に流楽が入って来た。
「智也くん、何かあったの?」と流楽は緑茶を机の上に置いた。
「大丈夫です......心配かけてすいません」智也は言った。
すると突然、流楽の声色が変わった。
「......どうやら、忘れていた記憶を思い出したようだね」
「......!」智也が流楽の瞳を見ると、黒から赫色に変わっていた。
「......智慧の魔女......どうして、と言うか、名前が紛らわしい」と智也は言った。
「そうだね.......どうやらもう一人の智慧の魔女にも会ったようだし、これからは私のことは智慧の魔女では無く【楓】とでも呼んでくれ」と智慧の魔女もとい、楓は言った。
「わかった......それで、何で出てきたんだ?」智也は尋ねた。
「君の疑問にある程度は答えてあげようと思ってね」楓は不敵な笑みを浮かべながら言った──
明日、明後日は更新できないと思います。




