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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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魔者と勇者は相対する

 久しぶりに、懐かしい夢を見た。


九歳の頃、智也は両親とある秘境に行った。

そこは『星空湖ほしぞらこ』と呼ばれる秘湖だ。


夜空には無数の星が輝き、それが水面に反射している。さらにその湖に生息する透光虫(トウコウチュウ)(夜光虫の亜種で綺麗な湖に生息、現実にはいない)という発光するプランクトンによって幻想的に青く光る。



記憶の中の父は笑って言った。

「昔、お父さんはここでお母さんにプロポーズしたんだぞ」


智也はそれに興味を持って尋ねた。

「お母さん、お父さんはなんてプロポーズしたの?」


「ふふ、お父さんはね『君が百の人生を生きたとしても、この一回を一番幸せにしてみせる』って言ったのよ」と母は朗らかに笑った。


父は照れたように視線を泳がせ、智也はそれを見て微笑んだ。


「また、ここ来ようね」


智也は両親に言った。


「そうだね。また来よう」


二人は優しく笑った──



◇◇◆◆◇◇



 グリフィンとの決戦の日、智也は目を覚ました。


「......結局、あれから一度も行けてないな」智也はボソっと呟いた。



 智也は服を着替えて"迎え"が来る時間まで待った。

そして、チャイムが鳴った。


 玄関の扉を開けると、そこには以前見た配達員の男がいた。といっても、いま目の前にいるのは顔や背丈が同じなだけで、執事服を来た者だったが。



「初めまして。Mr.彩島、グリフィン様のめいにより貴方を我が屋敷へ招待しに来ました」男は言った。


「ああ、案内してくれ」智也が言った。


「承知いたしました」男は張り付けたような笑みを浮かべたまま言った。


 男はゲートを作り、智也は男と共にゲートの向こう側へ足を踏み入れた──




ゲートの向こう側は屋敷の食堂だった。そこは煌びやかな装飾に、壁には生物を模写したような絵画が飾られている。


そして、長いテーブルの先には仇敵きゅうてきであるグリフィン・ヒューラーが椅子に座って鎮座ちんざしていた。


グリフィンが目配せすると、智也を案内した男はそっと部屋の外へ出た。



「お久しぶりです、前兆よ。この一週間、私も準備をしていましてね、ここに招待するのに時間がかかってしまいました」とグリフィンは言った。


「ここは、お前の屋敷か?」と智也は訊ねた。


「そうですとも、私の実家です。そこに飾ってある絵は私が描いたものなのですよ」とグリフィンが言った。


「そうか、通りで気味が悪いと思ったよ」


「気味が悪いですか......私自身、人とは価値観がズレているのは認めますが、そう言われるのは傷つきますね......やはり、誰も理解してくれないようです」ファングは諦めたような、呆れたような表情で言った。


智也は言った。

「.......誰も理解出来ないのは、お前が他人を理解しようとしないからだろ」


ファングは眉を一瞬ピクリと動かした。

「私が"美しい"と感じるものは、他の者には醜いものや気味が悪いものばかりでした。美的価値観が根本的に合わない他人を、どう理解しろと?」


「それでも、歩み寄れたはずだ。歩み寄れているなら、人を殺すことだって、無かったはずだ。お前は、一人で美しさに酔うことしか出来ない」智也は言った。


「......そう言う者もいましたよ。『お前の価値観は人間のものでは無い、まるで怪物のようだ』とね。ふふ、しかし、そうですね。私は魔物です。あの人は何も間違ったことは言っていませでした......私はこうして魔物となったのですからね。ですが、私は自身の美を、芸術を素晴らしいものだと確信しています。これには、一点の疑いもありません。私の美こそ至高であり、最も気高いものであると! 故に、孤高ここう。誰も理解は出来ませんし、私も理解する必要など無い」

グリフィンは腕を広げて誇らしげに演説するように言った。


「......そうか、残念だよ......さっさとやろう」智也は言った。


「そうですか? 私は芸術には過程も大切だと思いますので、もっとお話しをしても良いのですよ」とグリフィンは言った。


御託ごたくはいい、さっさと始めるぞ」智也は言った。


「仕方ありません、では、始めましょう」

 グリフィンが手を二回叩くと、床にゲートが現れ、二人はそのゲートの中へと落ちた。


ゲートの先は広い石造りの部屋の中で、周囲には血痕がちらほらと見えた。その部屋の中にはいくつかの檻があり、その中に魔物が入れられ、中で暴れていた。


「ここは、私の鑑賞部屋です。地下深くにあるので、貴方が大規模破壊魔術を使えば生き埋めになりますよ」とグリフィンは言った。


「元から使う気は無い。お前から深淵教団の情報を得て、その後に殺す。ただそれだけだ」


「ほお、深淵教団の情報が欲しいのですか。しかし、私とて教団の幹部、口を割るはずが無いでしょう」グリフィンは言った。


「そうだろうな。だから、こうする」


智也は無詠唱で魔術を発動させた。

空風そらかぜ


 突然智也の姿が消え、その刹那、グリフィンの首元に鋭い痛みが走った。グリフィンが痛みのする箇所を見ると、首元に幾何学模様のナイフを突き刺す智也の姿があった。


(空間移動魔術、まさかこの短期間で習得していたとは!)グリフィンは人間を超えた腕力で強引に智也を突き離した。


「なんのマネですか? この程度では私を殺せないとわかっているでしょう?」グリフィンは言った。


「わかってるから、やってるんだよ」と智也は言った。


「なるほど、その魔導具、何か特別な効力があるようですね。でしたら、少し早いですがこちらをお見せしましょう」グリフィンがそう言うと、部屋に設置されていた檻が開いた。


そして、中から十数体の魔物が解き放たれた。その姿は人型で、体の一部が溶けているものや足や手が奇型なものが大半だった。


「その魔物達はみな元人間です。素晴らしいでしょう。人間は誰しも魂に"願いを叶える力"を持つ。魔物化によって魂の力が増したとしても、脆弱な人間では願いを完全に叶えることは出来ない。ですが、不完全でいびつな願いはこれほどまで美しい!」ファングは高揚した様子で言った。


「お前は、やっぱり魔物なんだな」智也はこの悪趣味で人間を弄ぶような芸術作品に怒りが湧いた。


「そうですとも、私は魔物です! 私が望んだ美を、自らの肉体で体現したのです! これほど素晴らしいことは無いでしょう!」グリフィンは大きな声で笑った。



人型の魔物は呻き声をあげて智也に向かって襲いかかる。


(せめて、苦しませずに......)智也は『流刃』を発動させ、魔物たちの命を一瞬で刈り取った。



(ほお、多少は躊躇ちゅうちょすると思いましたが、一週間で何かあったんですかね)グリフィンは思った。



(まだ、手が震える。覚悟はあるはずだったのに......でも、やるんだ)智也は覚悟を完全に決めた。


「グリフィン・ヒューラー、お前の奪ってきた命と尊厳、そして、お前が壊すかもしれない誰かの日常のために、ここでお前を殺す」

智也は宣言する。



 その時【眼】が閉じた──




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