表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第1章 禁忌への入り口
7/88

ファーストエンド

楽しんでいただけたら嬉しいです。


 蒼白の化け物が魔術陣を作り出し、魔力の弾が智也たちに向けて放たれた。


 智也は昏を抱えて一緒に倒れ、それをなんとか回避した。


「智也......これ一体どういうこと?」昏は震える声で言った。


「わからないけど、昏を狙ってるのは確かだ。とりあえず逃げよう」



 智也は昏の手を取り、走り出した。


 二人は無我夢中で化け物から遠ざかるように走り続けた。しかし化け物はそれを追っては来なかった。


 そしてもう少しで三百メートルは距離をとれるといったところで、智也たちは再び化け物のところまで"戻っていた"。


「どうしてここに......?」逃げたはずの二人は元の位置に戻っていたのだ。


「あれ......私たちあいつから逃げたはず......なんで同じ場所に戻って......?」昏はこの不可解な出来事に驚いていた。


それは智也も同じだった。気づくとなぜか戻っている。そこで智也は仮説を立てた。


 化け物の周囲三百メートルくらいには見えない結界のようなものがあり、その結界に触れたタイミングで化け物のいる中心部分に瞬間移動されると智也は仮説立てた。


瞬間移動するタイミングでタイムリープの際の空間が歪むような感覚がしたためである。


 とは言え、最も重要なことは"逃げられない"ということだ、



(......こいつから逃げられない。なら......)



 智也は拳に魔力を込め、化け物に向かって走り出した。


(普通に攻撃しても無駄なら、魔力を込めれば......)


逃げられない以上ここで取る選択肢は相手を力づくで退けることのみだ。以前は相手の方が退いてくれたが、今は違う。先ほどの攻撃も完全に殺す気だったのだから。


 智也は拳の魔力を圧縮する。


 すると拳にまとった魔力が蒼く輝き、その拳を思い切り化け物にぶつけた──



 しかしその拳はまるで手応えがなく、化け物の体をすり抜けてしまった。



「......無理か」


 化け物は指先に魔法陣を出して魔力の塊を飛ばして来た。そしてその攻撃は智也に命中し、彼は後方へ吹き飛ばされた。


 この勝ち目が無く逃げられない戦いを一体どうやって切り抜けるか......智也は考えた。しかし何も思いつかない。  


 そこで頭に浮かぶ『無理』という言葉。その言葉が次第に頭を埋め尽くしていく。


 そんな時、昏が言った。


「あの化け物は私を狙ってる。智也だけなら逃げられるかもしれない。逃げて」昏は平気そうな顔で言うが、体が震えているのが見てわかった。


「そんなことするわけねえだろ......」


「無理だよ。智也の攻撃、あいつをすり抜けてたし、逃げた方がいい」


「......わかってる。無理だって頭ではわかってる。でも、逃げたく無い」


 智也は未来で逃げることしか出来なかったあの時のことを思い出して昏に言った。


智也は昏の制止する言葉を無視して再び化け物と対峙たいじした。


(未来で決めただろ、理不尽に抗うと。だから、最後までやってやる!)智也は決意を固めて足を踏み出した。



(考えろ、あいつに勝つ方法を.....!)



 化け物に勝つために、まずは"すり抜け"をどうにかしなければならない。ならばどうするか?


 パターン1

今見えているのは幻の実体なので攻撃がすり抜ける。近くに本体がいる可能性を考えて周囲を察知する。


 パターン2

智也が攻撃した部分をすり抜けさせている。可能性は少ないが、この場合なら蛇骨教の男にやったように全身を智也の魔力特性で攻撃すれば良いだろう。


 パターン3

そもそも実体が無いので効かない。この場合は魔力切れを狙う。それ以外方法も無いだろう......




 智也は自身の魔力を広げ、まずは幻覚を生み出す本体を探すことにした。まあ、これは"いれば"の話だが......



 智也は精一杯魔力を拡張し、魔力から周囲の情報を読み取った。


しかし、本体らしきものは発見できなかった。


(パターン1は違う。なら次だ)

 

 智也は化け物の体全体を魔力で覆い、魔力を圧縮して攻撃した。智也は化け物に近づき、瞬時にその攻撃を行った。  


 しかしながら、効果は無かった。


(薄々《うすうす》気づいてはいたけど.....これは、パターン3だな......)最悪のパターンだ。


 こうなったら持久戦をする他ない。智也は出来る限り魔力を節約しつつ相手の魔力切れをする作戦に切り替えた。



「ちょ、智也! さっきから何してるの? 急にあいつに近づいたと思ったらすぐに離れたり......」昏は困惑したように言った。


「昏、とにかく今はあいつが帰るまで耐えるしか無いってわかった。だから協力してくれ!」


「わ、わかった.....でも、何すればいいの?」


「とにかくあいつが指先をこっちに向けたりしたらすぐに横に避けてくれ」


「わかった......」




 突如、蒼白の化け物の背後にいくつもの魔術陣が形成され、そこから無数の魔力弾が放たれた。


 その魔力弾は到底避けることなど出来ず、智也は昏を庇うように抱え、防御魔術で受けた。


 魔力弾の一つ一つが非常に強力であり、その攻撃をなんとか耐え切った頃には防御魔術の鎧は大きなヒビが入っていた。


(魔力の消耗が激しすぎる、これじゃ持たない......)智也は息を切らした。


 すると、突然蒼白い化け物が指先を動かし始めた。智也たちは警戒してその指先をじっと見つめた。


 しかし、警戒していたことは起きなかった。ただ、その指先の軌跡は何かの文字を描いていた。その文字は魔術言語で書かれており、智也と昏はそれを読むことが出来た。


「お前はなぜ昏を助ける?」



 化け物が言葉を使ったことにも驚いたが、智也はその言葉の意味にさらに驚いた。そして、彼は答えた。


「友達だからだ」と智也は言った。


 一瞬、化け物の指先が止まったが再び指先を動かし始めた。


「お前はどんな理由があっても、自分が死んだとしても、そいつを助けるか?」化け物は文字で尋ねた。


「助ける。絶対に」智也は真っ直ぐと覚悟を持った目で化け物を見た。


「......なら、二人まとめて楽にしてやる」

 すると、化け物は手のひらをこちらに向けて巨大な魔術陣を形成した。その魔術陣は一目見て高等な魔術だとわかるほど複雑なものだった。


その魔術陣から蒼白い魔力弾が放たれた。


その魔力弾は恐ろしいほど高エネルギーの魔力が圧縮されており、大気が震えるのがわかった。


 智也は昏の前に立ち、ヒビ割れた防御魔術とありったけの魔力を前方に集中させてそれを防ごうとした。



 しかし、その防御は一瞬にして貫通され、蒼白い魔力が大きく弾けた。まるで激流が押し寄せるように巨大な力が智也に放たれたのだ。



──周囲が蒼白い光で満たされ、光が収まった時に見えた光景は血だらけで倒れる智也の姿だった。



「智也! 智也!」昏が泣きそうな声で智也の名前を叫んだ。

 

(まずい......早く、立たないと......)


 智也立ちあがろうと体に力を込めようとるが力が入らなかった。


 智也は体中の骨が折れ、あるいは粉々になっており、体から血が流れ続けている。智也は虫の息で光の消えかけた目で昏の方を見た。



 昏は顔に擦り傷こそ有るものの、軽い傷で済んだようだった。



(ああ......昏に怪我させてしまった............くそ......)


 意識が次第しだいに遠のいていき、なんとか意識を保とうとするも、智也はすでに痛みさえ感じていないことに気づいた。



 『死』直感でそれを理解した。


(死ぬのか? こんなところで.....? だめだ......まだ何も出来ていない......このままじゃ未来は変わらない......)


 しかし、どう抗おうと『死』には抗えない。無情にも彼の意識は暗闇へと消えていった──


◇◇◆◆◇◇



 昏は倒れて動かなくなった智也を見て体を揺さぶりながら必死に声をかけ続けた。


しかし、それでも智也は動かなかった。


 突然、智也の体が昏の目の前から消えた。かと思うと、その体は蒼白の化け物の目の前に瞬間移動していた。



 化け物は智也に触れて何かをしようとしている。昏はそれを止めるために走り出すが近づけない。



 そして、化け物は智也の体に染み入るようにり《・》ん《・》だ《・》。


次第に智也の体は蒼白の化け物と同じような異形の姿へと変わっていった。


 なぜか智也に近づけるようになった昏は、化け物に変わっていく智也に近寄った。


 昏は目に光の無い無惨な智也の姿を見て何かの光景がフラッシュバックした。その光景は断片的でらよくわからないものであったが、何か鮮烈に、心の底の恐怖に深く刻まれたものだった。


「......お願い、死なないで......」昏は涙を流して智也の右手を強く握った──


◇◇◆◆◇◇


──死後の世界というのは信じていない。死んだら無になって終わり。今まで考えてきたこと、成してきたこと、それら全てを忘れて何も無くなってしまう。


 僕はそう思っている。


だからこそある意味ではそれが一番楽なのかもしれない。生きることの苦悩くのう苦痛くつうから、ある意味では解放されるのだから。



「でも、ここで死にたく無い」

そう思ったとしても残酷だが結果は同じだ。


 結局、抗うことなんて無駄だったのだろうか? 僕の人生は無意味だったのだろうか?

その答えすら見つからない。



 そんな時、夢か幻か真っ暗な意識の中に一筋の光が見えた。


 その光は瞬く間に大きくなり、暗闇をかき消すほどに輝いた。そして次の瞬間、その光は一本の大樹たいじゅのような形に成った。


 その大樹の幹や枝の表面はまるで宇宙のように美しい星のような光の粒子が浮かんでいた。


白い星、赫い星、そして蒼い星が輝いていた。


僕はその美しさに目を奪われてその大樹に近づきミイラのようになっている右手で触れた。



 そして僕が大樹に触れた瞬間、輝いていた大樹は輝きを失い、全てを飲み込むような漆黒しっこくへと変化した。


 その漆黒は僕が触れた箇所から広がっていき、やがて僕の右腕を伝ってつたい胸の辺りまで黒く染めると止まった───



◇◇◆◆◇◇


 智也は目を覚ました。


このあり得ない状況に智也は自身の体を見てみたが、傷一つ無く、ミイラのようにシワがれた手も元に戻っていた。


「生きてる......?」


 昏はそんな智也の様子を見てさらに泣いた。

「智也、うう、もう、ダメかと思った......」昏は智也を抱きしめた。



「......悪い、心配かけて......でも、僕はどうして生きてるんだ? 確実に致命傷だったはず......」と智也は言った。



「......わからない。急にミイラみたいな姿になって、急に元に戻ったら治っていた」と昏は言った。


「もしかして、夢みたいなので見たのは現実だったのか?」


「......夢?」と昏は尋ねた。


「ああ、急に大きな光る木が現れて、触れたら急に黒くなって......ちょっと怖かった」



「............そう、なんだ」昏は少し暗い顔をしたように見えた──


 そしてしばらく時間が経ち、智也は化け物のことについて話すことにした。


「実はあの化け物は僕を追って来ていたんだ。なのに昏にまで怪我させてしまって......ごめん。謝っても済まないかもしれないけど」


「いいんだよ。別に大した怪我じゃないし」


「............しばらくは昏と会わないようにする。もう危険な目に合わられない」


 智也がそう言うと昏は怒った。


「私はこれからも智也のそばにいるよ。それで怪我しても別に智也のせいじゃない。これは私が決めたこと。だからそんなこと言わないで」



「.............悪い」


 昏は微笑んだ。



 あの化け物がいつまで智也を襲うのかなんてわからない。もしかすると一生襲ってくる可能性もあるだろう。


だとすれば、昏と一生会わないと言っているようなものだし、そんなことは出来ない。


(もっと強くなろう。昏を無傷で守れるくらい)智也はそう決心した──


読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマークや感想等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ