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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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誰かの記憶と彼の末路

 誰かの記憶。鮮明で、狂気的で、憎しみに満ちた恐ろしい記憶。


智也はその記憶を辿っていた。


 初めに見えたのは壊れた街並み、地面には巨大な亀裂が入り、空は暗くよどみ雨が降っている。


周囲は人間の血によって赤く染まり、肉片が飛び散っている。

上空に巨大な"骨の竜"が飛び、トグロを巻いて旋回している。


その光景に、"誰か"は絶望し、"彼"は血の涙を流して嘆きの絶叫をあげていた。



 次の記憶では、"彼"は憔悴しょうすいしきった顔で何かを求めて彷徨さまよっていた。


 そして、その次の光景で"彼"は笑っていた。狂ったような笑い声をあげてどこか遠くを見つめる"彼"の周りには血の海が出来ていた。


その光景に唖然とする"誰か"の足元には大量に血を流して倒れる宇佐寺うさでらの姿があった。


まるで初めの記憶のような地獄絵図の中心で彼は笑い、"誰か"は"彼"を殺した──



◇◇◆◆◇◇


記憶を辿り終えた智也は目を覚ました。


意識が戻って早々、純也の安堵したような声と表情が見えた。

「智也! 良かった、起きた!」


 智也はその顔を見た瞬間、戦慄して飛び起きた。味方の純也を見ただけだというのに、智也はその姿を見て冷や汗を流して少し震えていた。


「ごめん、驚かせたか」純也は軽く誤った。


「ああ、悪い。変な夢? 見てたから、純也の顔見たら驚いてしまって......」智也は言った。



 その時、ゴブリンの集落から響いていた戦闘音が鳴り止んだ。


「......ファングさんの戦闘が終わったんだ。行こう!」純也は真剣な表情で集落の方へ走った。


智也もそれにつられて駆け出した。


(あの記憶......)

智也が見たあの記憶の中で、"彼"......()()が起こした殺戮さつりくは、実際に起きたかのように鮮明だった。


純也に対して、不審感を感じつつも、智也は走った。




 ファングの狩りが終わったすぐ後、智也と純也がゴブリンの集落があった場所へと戻ってきた。


「ファングさん!」純也は彼のそばまで駆け寄り、その抉れた腹を見て戦慄した。


「お前たちは無事だったか。良かった......」ファングは安堵した表情を見せた。


「治します......」智也は懐から回復魔導具を取り出し、それをファングの近くで起動させた。


 腹に空いた傷はなぜか通常よりも再生が遅かったが、段々と傷は塞がっていき、やがて治った。



「これは、チェテン殿の回復魔導具か......まさかこれを持っているとは......ここで死ぬものと思っていたが、助かった。感謝する」ファングは深々と感謝した。


「いえ、治って本当に良かったです。体の調子はどうですか?」と智也は尋ねた。


「体は再生したようだが、まだ弱っているな。しばらくはまともに動けそうも無い」とファングは言った。


「ファングさん.......良かった! まだ俺、ファングさんに教えてもらいたいことが、いっぱいあって......!」純也は泣きながら言った。


「泣くな純也。私はもう大丈夫だ」ファングは純也の頭を撫でた。



(本当に、純也があんなことを......?)智也はあの記憶のことを疑っていた──




 夜が明け、朝日が差し込む。しかし彼らの消耗は激しく、ゲートでの移動も難しい。彼らはゴブリンの集落から少し離れた場所で野宿をすることにした。


テントを立て、三人は食事を取ることにした。


ファングは空間収納魔術から三人分の食料を取り出した。それはフォカッチャで挟まれたサンドイッチで、具材はベーコン、ミートボール、レタス、ポテトである。


「美味しそうですね!」と智也が目を輝かせて言った。


「ああ。栄養もだが、味も大事しな。任務の前には必ず作って持ってきている」とファングが少し嬉しそうに言った。


しかし、一つだけかなり焦げたサンドイッチがあった。


「それは純也が作ったものだ」ファングが言った。


「どうだ、すげえだろ! 生地から作ったんだぜ!」と純也が誇らしげに言った。


「すごいね。ちょっと、焦げてるけど美味しそう」


「だろ!」純也はそう言うと、そのまま自分のサンドイッチを頬張った。


それに続いて智也たちもを食べた。


「おいしいです!」智也は言った。


「それは良かった」とファングが微笑んでかえした。


「なんか、焦げ臭い......でもうまいぞ!」純也はあっという間に完食した──





 それからしばらく、ファングは疲労が溜まっているため先にテントの中で眠りにつき、智也と純也はテントの外で見張りをしていた。


「怪我とかは平気?」と智也は尋ねた。


「おう、大丈夫だ。それよりも、あの狼の怪物を倒してくれてありがとな、智也」と純也が言った。


「......僕も助けられたし、お互い様だよ」と智也は言った。


「ちなみに何だけど、どうして智也の攻撃はあの怪物に効いたんだ? 普通はすり抜けるのに......」と純也が言った。


「それは......僕にもわからないんだ。運が良かったのかも」


しかしながら、智也には心当たりがあった。それは『後天的に神との契約で手に入れた魔力特性』だ。


智也の魔力にはごく僅かながら【次元の神】との契約で『次元』の魔力特性があり、その魔力特性を【圧縮】によって魔力の濃度を高めることで引き出しているのだろう。

それゆえにその眷属であるあの怪物にも攻撃が出来る【次元】の魔力特性のある魔術を使用出来たのだと智也は考えている。


(もしかすると、あの蒼白の化け物も今なら倒せるかも)と智也は思った。




一度魔力特性の話を忘れ、智也は純也に尋ねた。

「聞きたいことがあるんだけど、あの狼の怪物に話しかけられたことってある?」


「え、無えよ。まさか、あの怪物は言語を話せたのか!?」純也は驚いていた。



「......うん。少し会話出来たけど、あの怪物は、激しい憎悪の塊みたいだった。まるで......"かたき"を取ろうとするような......」智也はグリフィンへ向けた殺意を思い出して言った。


「......仇......ファングさんの見立てではあの怪物は"魔法"によってかけられた呪いみたいなものって言ってたけど、魔法使いの仇になるようなことをした覚えは無いな」と純也は言った。


「そうか......」智也は歯切れの悪い様子で言った。



「......言いたくなかったら、言わなくていいんだけど......純也は、人を殺したことはある?」智也は言った。


「今のところは無い。ただ、成人する頃には俺もそっちの仕事をしないといけないかもな」と純也は言った。


「悪い、変なこと聞いた」智也は純也に謝った。


「気にすんな。智也も、色々あったんだろ」と純也が言った。



 二人は無言のまま森の方を見つめた。

霧が濃く、背の高い樹木によってほとんどの日光が遮断されており、暗い。



(あの記憶は、何なんだ、誰の? いつの記憶だ? もしかして、未来の......あり得なくは無い。あの怪物はおそらく次元の神の眷属。時間を超えているのかも......)智也は思考を巡らせた。



(宇佐寺さんは今も生きてるし、純也も人を殺すような奴には思えない。だとすれば、そうなる大きなキッカケがあるはずだ。それこそ、何かが狂ってしまうほどの......)



 その時、智也は記憶の中で見た荒廃した街とその上空を飛ぶ"骨の竜"のことを思い出した。


(もし、あの大規模破壊が現実で起こりうるとしたら.......それがキッカケで純也はおかしくなるかもしれない)智也はそう考えた。


荒廃した街並み、その中にはいくつか見覚えのある建築物もあった。


大きな時計塔に、観覧車......他にも見覚えのあるものがあった。それに加えて、荒廃した街並みから推察すると、その場所は"ロンドン"だ。


 そして、四ヶ月後にロンドンで起こる大事件【霧の都事件きりのみやこじけん】。関係無いと考える方が不思議だ。



【霧の都事件】とは、十二月の白昼にロンドン全域が突如発生した霧で覆われ、数時間後に霧が消えた時には街は崩壊し、死者・行方不明者が百万人を超えるという歴史上でも類を見ない原因不明の大災害だ。


当時からニュースでも大々的に報じられており、いくつか超常的な現象の証言や映像も散見されていた。そのため魔術連がその事件のことを完全に隠蔽しきれなかったのだと考えられる。



(【霧の都事件】が純也を変えてしまって、それによって宇佐寺さんや大勢の人を殺戮さつりくするのなら、僕が止めてみせる。純也を狼の怪物の言うような咎人とがひとにはさせない!)智也はまた一つ目標を決めた。


 霧がかった樹木の僅かな隙間から、微かに木漏れ日が漏れていた──


想定よりも休憩パートが長くなりそうなので、区切りよく終わらせるために二回投稿します。

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