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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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一撃必殺

 明哲の魔人は【魂の空間固定】と呼ばれる魔術を用いている。それは古代魔術の中でも極めて高度なものであり、その効果は使用者の魂を一定の領域(空間)に封じ込め、同化させるものである。


そして、この魔術の真価は使用者を擬似的な不死にすることだ。

この魔術の使用者は魂と空間を混合させることになり、それによって空間から肉体を生み出し、その肉体に乗り移って操るということが可能になる。


異空間が意思を持った存在である神のように、この魔術を用いることで魔人は空間を本体とする不滅に近い存在になれた。


しかし、真の意味で神にはなれない。この魔術には弱点がある。それは、魂と同化させた空間とこちら側の空間を繋ぐ魔術陣が存在するからだ。


早い話、魔人を殺すためには向こう側とこちら側の魔術陣を同時に破壊しなければならないと言うことだ。


 とは言え、それが可能な人間などこの時代にいるはずは無いと魔人は考えていた──






(先ほど、奴の肉体を斬ったがなぜか奴は生きている。そして魔術陣の向こう側の空間から感じた、まるで空間そのものが奴であるかのような気配......)ファングは思考を巡らせ、あることを思い出した。


彼の家系、オーガー家には魔人討伐の記録が残されていた。その中にあった明哲の魔人の記述、ファングはそこで気づいた。


(そうか、奴を討つには魔術陣を表と裏側から破壊する必要があると言うことか!)


方針を決めたファングは精神を整え、スポーツ選手で言うゾーン状態に入った。


 次の瞬間、ファングと魔人が同時に動いた──


ファングは魔人の元まで全速力で駆け出し、魔人は不浄の魔を黒い鞭のようにして攻撃した。


その黒い鞭は変幻自在であり、逃げ場などほんの僅かなものだった。

加えて一撃一撃が致命傷となりうるようなものであるため、ファングはそれを避け続けて少しずつ魔人の元へと近づいていった。


魔人は不浄の魔を四つ首の龍のような形状に変化させ、その頭でファングに向けて攻撃した。


不浄の魔による連続攻撃によりファングは段々と魔人から遠ざかっていく。


(攻撃する隙が無い......技を見極め、隙を作らねば)ファングはそう考えていた。



(ファング・オーガー、人間にしては強いようだが、不浄の魔を完全に消せる攻撃は出来ないようだな。加えて、ワシは負のエネルギーを不浄の魔に食わせることで強化している。このまま力推しでも勝てるだろう)魔人は警戒を緩めはしないが、顔をニヤつかせていた。



 ファングは魔人から数十メートルほど離れ、不浄の魔の射程範囲外まで退却した。



そして、魔術を唱えた。


絶影シャドーステップ


 その瞬間、ファングの姿が忽然と消えた。

姿だけでは無い。気配や魔力まで完全に消え去った。


「その魔術、存在の隠匿いんとくに特化した魔術のようだな......どうやら足跡すらも残らないらしい。今の魔術師にしてはやるな」魔人はその金色の眼球を不気味に動かして周囲の僅かな機微きびを探した。



一方で、ファングは姿を消した状態で着実に魔術陣へと近づいた。


あと数歩で剣が届く、その時。魔術陣の中からどす黒い不浄の魔が溢れ出した。



「やはり、そこを狙うよな」と魔人は不気味な笑みを浮かべて笑った。


 ファングの体が黒い濁流に完全に呑み込まれる寸前、彼はでルークに力を込めて聖なる光を放ち、それを防いだ。


そして後方にニ、三歩とんだ。

 

 しかしながら、その体には大きな焼けただれた痕があり、さらには度重なる魔力消費と疲労によりファングは立っているのがやっとだった。



「お前さん、一撃で殺すことにこだわっているな。バカな男だ。そんな無駄な領持りょうじ捨てておけば、もう少しマシな戦いになっていたかもしれないというのに......」魔人は呆れた表情で言った。


「それは違うな......一撃にかけるからこそ、私の剣は重く、強くなる。これはプライドなどでは無い。これは流儀だ」


「そうか、くだらんな。なら、ワシはお前を惨たらしく、時間をかけて殺してやろう」魔人は拳に不浄の魔を纏わせて構えをとった。



 ファングはルークを構えて詠唱を始めた。


「ルークよ、光をもたらす剣よ、我が魂と力を糧として、その真の力を解放せよ」



「その詠唱、まさか......」魔人はこれに心当たりがあった。


それはルークの最大出力を解放するための詠唱である。



ファングがそう唱えると、ルークの輝きがいっそう増し、周囲は昼間のように明るくなった。

白夜ホワイト・ナイト


聖なる光が剣の周囲に溢れる。しかし、ファングはその光を剣に収束させた。その直後、彼は力強く地を蹴った。


魔人はファングを止めるために魔術陣との間に割って入り、黒い不浄に満ちた拳をファングに向けて放つ。



疾風ゲイル

 拳が当たる寸前でファングの体は加速し、それを回避した。

そして、ルークを魔術陣の中に目掛けて力強く投擲した。


投げられた剣は不浄の魔を貫いて魔術陣の中へと侵入し、魔術陣の周りにいた不浄の魔が消えた一瞬の間にファングは魔術陣へと近づいた。






 魔術陣に吸い込まれたルークは、向こうの空間で凄まじい閃光と暴風を発生させた。

聖剣から放たれる凄まじい波動が空間の中で響き、その空間にある"魔術陣を破壊"した。



(片側の魔術陣が破壊された!? まずい、魔術陣を再構築させるには時間がかかる!)魔人はここで初めて焦りの表情を見せた。



 ファングは続けざまに鈍色の鋼の剣を手に取り、魔術陣に切り掛かる。

魔人はそれを絶対に阻止すべく黒い拳を今までとは比べ物にならない速度で振りかざした。


ファングは回避を試みるも、魔人の拳はファングの腹に命中し、そのまま横腹まで抉り取った。


右側の腹に空洞が空き、焼けるような痛みがファングを襲った。


 生まれた時点で他を超越していた魔人は理解していなかった。手負いの獣というのが、最も恐ろしいと言うことを。



ファングは腹を抉り取られたのにも関わらず、全くひるむことなく剣を握りしめ、その鈍色の剣を揺らぎない剣筋で振るった。


この男はすでに、死の覚悟すら出来ている。



空断ち(スペースディバイド)


刹那、くうを断つ鈍色の斬撃が魔人の肉体もろとも魔術陣を切り裂いた。



魔人は自らが死んだことにすら気づかないような超高速の斬撃によって切断され、それから遅れて紫色の血が飛び出た。


 彼の放った刃は、痛みを感じさせる事もなく相手を即死させる、一撃必殺のものだった。



魔術陣が崩壊し、魔人の肉体が霧散していく。


「明哲の魔人よ、再び眠りにつけ」ファングは魔人の灰に向かって言った──


次回はたぶん明日です。

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