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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第1章 禁忌への入り口
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禁書

楽しんでいただけたら幸いです

 湖上の戦いの後、朝霧は黒布たちを縛った後に頭蓋骨ずがいこつだけになった教祖の男に地下を案内させた。


 そしていくつかの部屋を見た後に二人は保管庫ほかんこまでやって来た。


 保管庫には魔導書まどうしょが本棚を埋め尽くすほどに有り、魔術陣の刻まれた金属製の金庫もあった。


 朝霧は頭蓋骨を机の上にのせてから魔導書を一冊ずつ物色し始めた。 


「朝霧さん、何をしているんですか?」


「ここにある魔導書の内容を見て魔術連に送るんだよ。まあ、有益そうなのは私が貰うけどね」


「手伝いましょうか?」


「いや、いいよ。たまに危険な魔導書もあるからね......」



 朝霧がそう言ったので智也は部屋のすみで作業が終わるのを待つことにした。



(......そういえば、見えなくなっていた『眼』がまた見えるようになっている。戦っている時は見えなくなっていたのにな......)智也はそんなことを思いながら【眼】について考えていた。


(さっきは見えなくなったけど、あの時は朝霧さんの言葉を思い出していた。もしかしたら、恐れを忘れることが出来れば【眼】は見えなくなるのか......?)と智也は考えた──




 ふと気づくと、智也は本を回収している朝霧の近くにいた。いつのまにか彼は本のある方へ移動していたようで、手には一冊の魔導書を持っていた。


 朝霧は非常に焦っていた様子だった。


「あれ......」


 智也は突然の出来事に理解が追いつかなかった。気づいた時にはなぜか移動していて、朝霧さんが何やら深刻しんこくそうな表情をしていたからだ。


「智也くん、この魔導書をどうして手に取ったんだい?」朝霧は手に持っている魔導書を奪い取るようにして智也に尋ねた。


「い、いえ気がついたら手に取っていて.......僕にもよくわからないです」


「......そうか。やっぱりそうだよね」



 その魔導書のタイトルは【かみ】というものだった。



 朝霧は怖い形相ぎょうそうで教祖の男にその魔導書をどこで手に入れたのか問いただした。


 すると男は答えた。


 その本は六年前にこのカルトの信者の一人『豊峰とよみね がい』がどこかの"屋敷"から盗んできた物であり、あまりにも神の気配が強い物品だったので誰も読まないように封印して何かに使えるかもしれないと保管していたとのことだった。


 朝霧の推測ではこの魔導書の人を惹きつける特殊な魔力が智也の魔力量もあって強く影響したとのことだった。



「全く、お前らは断捨離だんしゃりも出来ないのか......」と朝霧が言った。


(それ朝霧さんが言う?)


「こういう魔導書は燃やしておくべきだよ」


 朝霧はそう言うと魔導書をライターの火で燃やした。


「ちなみに、その豊峰って奴は今どこに居る?」


男は「わからない」と答えた──



 その後、朝霧は金庫の前に移動した。


 どうやらその金庫には開けられないように魔術がかけられているようだ。


(金庫にかけられた魔術は頑強がんきょうだ。そう簡単に破ることは出来まい)教祖の男はそう考えていた。



 すると朝霧は金庫に向かって手のひらを向け魔術陣を展開した。


 そして朝霧が「術式崩壊マジックブレイク」と唱えると、その魔術を発動し、その瞬間に金庫にかけられていた魔術が破壊された。


(なんだあの魔術は! 術式そのものを破壊した? なぜそんなことが出来るのだ!)


 男は朝霧の魔術に驚愕(きょうがく)した。

智也にもそれは驚くべきことであり、二人はそれを軽々とやった朝霧に驚いた。



金庫を開けるとの中には数冊の魔導書と魔術陣の刻まれた鉄の板があった。


「蛇骨召喚のための魔導書に......これは魔力を知覚するための魔術陣か」朝霧はあきれた様子で言った。



(全く、あいつも使えない。魔力の多いやつを連れてこいと言ったが、まさかこんな化け物を連れてくるとはな......)男は智也たちをここまで連れて来た青年に心の中で愚痴ぐちをこぼした。



 それから保管庫にある魔術に関わる物を魔術連に『転送魔術』で届け、一部の魔導書を朝霧が拝借した。


蛇骨教の魔術に関係する人物たちは全員魔術連に引き渡し、魔術連本部の牢獄ろうごく投獄とうごくされた。


 その後、蛇骨教は解体。蛇骨を召喚する本を朝霧が押収おうしゅうし燃やしたので今後蛇骨が召喚されることはほぼ無いだろう──



蛇骨教での出来事が終わり、智也と朝霧さんは探偵事務所へと戻った。


「初仕事お疲れ。想定よりもハードなことになってしまったけど、智也くんならいけると思ってたよ」と朝霧は言った。


「そうですね。思いの外大変なことがありました......色々聞いてもいいですか?」智也は尋ねた。


かまわないよ」


「なら聞くんですけど、神はどうやって顕現するんですか? 蛇骨教の教祖は召喚すると言っていましたけど......?」


「神が顕現するには二種類ある。一つは召喚。呼び出したい神と強い繋がりを持つものと大量の魔力を用いて神を召喚するんだ。おそらく蛇骨教の連中はビルにいた人々の魔力を使ってそれを実行しようとしていたんだろうね」と朝霧は言った。


「なら、もう一つは何ですか?」


「もう一つは自然発生。莫大な超自然エネルギーの発生によって神が生まれるんだ。でも、この星で神が発生することは現時点では無いと言える。この星は魔力で満ちているから神が発生しないんだよ。詳しい話は面倒だからしないけど、とにかくそのあたりは心配いらない」と朝霧は言った。


(......つまり、未来で現れる神も召喚さえ阻止出来れば良いってことか)と智也は考えた。


「なら、もう一つ気になったことを聞かせてください。朝霧さんはあの青年が嘘をついていることをわかっていたんじゃないですか?」


「どうしてそう思うんだい?」


「初めて会った時に嘘が見破みやぶれるようなことを言っていたので......」



「......その通りだよ。あの青年が嘘を言っていることはわかっていた」


「なら、どうしてわざと付いて行ったんですか?」


 智也がそう尋ねると朝霧は言った。

「理由としては二つ。一つは事前に蛇骨教の調査を魔術連に依頼いらいされていたこと。もう一つは蛇骨教レベルの教団なら智也くんを連れて行っても死にはしないと思ったからかな」


 朝霧の言ったことは正しかった。あの男は智也を捕えようとはしたが殺そうとはしていなかったからである。


「まあ、流石に今回は悪かったね。あの教祖の魔法は想定外だったよ。でも智也くんなら平気だと確信していたのは事実だよ」


「......そう、ですか」


 智也は期待されて嬉しい気持ちと、少し不安な気持ちを覚えつつも、初仕事を終えた──


◇◇◆◆◇◇


 しばらく後、智也は事務所を出て家に帰った。


それを見送った朝霧は蛇骨教で発見した『神の眼』という魔導書のことを思い出していた。



「まさか、あの忌々(いまいま)しい本があんなところにもあったとはね......元凶げんきょうを見つけ出してこの『眼』の消し方を吐かせてやる」


 朝霧の視線の方向にはあかく燃えるような【眼】があった。それはまさしく智也が見えているものと同じだ──



【2022年 4月9日】


 桜舞う高校の入学式、智也は近頃は寝不足なので校長先生の話でウトウトしてしまっている。


 人生で二度目の高校の入学式というのはこれからの不安や緊張に欠けるように感じるものだ。とは言え、高校で出来た友達とまた同じような関係をきずけるかは不安だと智也は思ったが......


 初めて会うというのに見慣みなれたメンバーとの自己紹介が済み、仲の良かった人たちに話しかけてからその日は帰ることにした。



 そして学校を出る時にちょうどこんと会ったため、智也たちは一緒に帰ることにした。


「智也はどう? 友達になれそうな人いた?」


「いたぞ」


「そっかあ。私は不安だな、友達できないかも......」


「気にしすぎだろ、昏なら大丈夫だよ」


「......ありがとね。頑張って色んな人に話しかけてみるよ!」


「おう! まあ気張りすぎんなよ」



 それから家までの道のりを一緒に歩いていると黒戸神社くろとじんじゃの近くまで来た。


「智也は今日も黒戸神社に行くの?」昏が尋ねた。


「......あっそうだ、最近忙しくて行くの忘れてた! 久しぶりに顔出さないと」


「なら私も行くよ」


 智也たちは黒戸神社に入って行った。



 階段を登り境内に入ると二人の人物がいた。一人は智也の祖父であり、もう一人は巫女姿みこすがたの女性だった。


その女性は智也のいとこの「天宮あまみや 流楽るら」という人物で、智也たちの一つ年上としうえの十六歳で黒髪に黒い目をした人物だ。



すると、流楽が智也たちに近寄ってきた。


「智也くんに昏ちゃん、久しぶり」


「お久しぶりです。珍しいですね、流楽さんが黒戸神社に居るなんて......」と智也は言った。


「実はこの町で予定が出来てね。今は黒戸神社の社務所に泊めさせてもらってるよ」


 智也は流楽と昔に何度も会ったことが有るが、ここ最近で会うのは久しぶりだった。


(流楽さん、なんか雰囲気変わったか?)智也は思った。



「そうだ! 昏ちゃん一緒にお茶でも飲まない?」


 流楽はそう言うとなか強引ごういんに昏を連れて社務所しゃむしょの中に入った。



「......それで、智也は今日入学式だったか、友達になれそうな子はいたか?」祖父が智也に話しかけた。


「うん。いたよ」


「そうか、それは良かったな」祖父は自分ごとのように嬉しそうにしていた。


「お煎餅せんべい、食べるか?」


「食べる......」


 こんな会話も智也には久しぶりに感じた。けれど一年半後にはこんな日常は全て消えてしまう......そんな思いが頭をよぎった。




 智也が黒戸神社に来たのは手伝いのためだが、もう一つ気になっていたことを聞くためでもある。


その気になることと言うのは、タイムリープの魔法を貰う前に起動させたあの"鳥居"と"鍵"についてだ。



「お爺ちゃん、あの鳥居って何か特別な力かあるとか知ってる? 例えば鳥居をくぐったら別の場所に行くとか......」


 智也が尋ねると彼の祖父は少し考えてからハッと何かを思い出したようで、それについて話してくれた。


それは【時空門伝説じくうもんでんせつ】と呼ばれる伝承のようなものだった。


『時空門伝説』というのは簡単に言うと、大昔この町に未来人が現れ、その未来人の知識によりこの町が栄えたという話だ。


 そしてあの鳥居はその人物が未来からやってきた"時空門"だと言われているらしい。


 智也の祖父はもう一つ気になる話をしてくれた。未来人はその鳥居をくぐる時に純白の鍵を使用していたが、その鍵は今は無くなってしまったという話だ。


 つまりはあの鳥居を起動させるための鍵が今ではどこにあるのかもわからないということであり、未来で朝霧がその鍵をどのように手に入れたのかが智也は気になった。


「なら、もう一つ聞いていい?」


「いいぞ」と智也の祖父は言った。


「この神社って何の神様をまつっているの?」


 智也がそう尋ねると彼の祖父は答えた。


「古い書物には時間やら空間を司る『次元じげん神様かみさま』を祀っていると書いてあったな。時空門伝説もあるし何か縁があるんじゃろう」


("次元の神"......そうか、僕が契約した神はそれだったんだ!)


タイムリープやあの不思議な空間からその神が【次元の神】だったと智也は直感的に感じたのだ。


「ありがとうお爺ちゃん」


「このくらいならいいんだよ」


「でも、ありがとう」智也は言った。


◇◇◆◆◇◇


 一方その頃、昏と流楽は一緒にお茶を飲んでいた。


「......」昏は少し気まずそうに向き合って座っていた。


「昏ちゃん、智也くんとは上手くいってる?」流楽が言った。


「は、はい......でも最近なんだか距離を感じる気がするんです。遊びに誘ってもあまり来てくれませんし......」昏はしどろもどろに言った。


「だったら、私がアドバイスしてあげるよ」


「本当ですか!」


「うん。まずは秘密を打ち明けてみるとかだね」と流楽は言った。


「秘密......一体何を話せば......」


 昏が頭を悩ませていると流楽は言った。


「君には大きな秘密があるだろ二条 昏。だって君は魔術師の──」と流楽は言った。


その言葉に昏は目を丸くした。

「何でそれを!」流楽の言葉に昏は非常に驚き、慌てた様子で言った。


「ふふ、何でだろうね? まあともかく、早いとこ秘密は打ち明けた方がいいよ。それに......いや、これ以上は言わないでおくね」流楽はいじわるそうに笑った。


「ちょっ......あなたは何がしたいんですか?」昏は困惑した様子で言う。


「君たちに幸せになってもらいたい。ただそれだけだよ。じゃあ、もうじき日も暮れるし外に出ようか」流楽はそういうと扉を開けて境内に出た。


 流楽は笑っているが昏は警戒したように流楽を見つめている。


(何かあったのかな......)と智也は思った。


◇◇◆◆◇◇


 それから日も暮れて来たので僕たちは家に帰ることにした。智也の祖父と流楽の見送りを受けて二人で家までの道を歩き始めた。


 

「......ねえ、智也」昏が言う。


「何だ?」


 智也がそう言うと昏は真剣な顔で言った。

「"魔術"を知ってる?」


「......今、魔術って......」


 智也が昏に聞き返そうとしたその時、不意に強烈な悪寒おかんが走った。それは背後からだった。


 智也は咄嗟とっさに振り向いて背後を見た。目の前いたのはあの蒼白の化け物だった。



 驚いたのもつか、蒼白の化け物はミイラのような人差し指を突き出し、魔法陣を作り出した。


(あれは魔術......!?)


 その瞬間、魔力の塊が魔法陣から放たれた──

読んでいただきありがとうございます。

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