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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
55/88

継承

重たいかもです。

 智也の祖父【彩島あやしま 翔時しょうじ】は脇腹に貫かれた痕があり、傷が塞がらないまま失血死を待つばかりであった。


しかし、奇跡としか言いようがないが、その傷は塞がり失血死を免れた。


次の日、すっかり回復した祖父のお見舞いのため、智也と流楽は深無病院の個室を訪れた。


「爺ちゃん、見舞いに来たよ」


そう智也が言うと、嬉しそうな翔時の声が聞こえた。

「おお、智也! それに流楽も来てくれたのか! ありがとうな」


「本当に、お爺ちゃんが生きてて良かったよ。あと数日もすれば退院できるらしいけど、回復が早いって先生も驚いてたよ」と流楽が嬉しそうに言った。


「ワシも、本当に不思議だよ。あの傷は絶対に治せないはずだったと言うのに、今じゃ傷が完全に塞がっている。ほんと、生きてるのが不思議だ」と翔時が言った。


「......爺ちゃん、聞きたいことがあるんだ」智也は改まって言った。


「......両親の、ことか?」


「うん」智也はうなずいた。


「......そうだな、話しておこう。流楽、お前にも関係ある話だ」と翔時は言った。


「......わかった」


 二人は真剣な面持おももちで翔時の言葉を聴いた。


◇◇◆◆◇◇


 二年前、智也が中学二年の頃、この町に一人の魔術師が訪れた。その名はグリフィン=ヒューラー。


男は自身の願い"思考を保ったまま魔物になること"を叶えるため深淵教団に加入し、そして五年ほどかけて神託をこなすことで遂に願いを叶えた。


そして、願いを叶えた深淵の神がグリフィンに対して新たな神託しんたくを送った。男はその神託に従い、もう一人の男と共にその町を訪れた。


神託の内容とは『前兆を殺す』ことであり、神への感謝を示すため、グリフィンは導きに従って智也の家を特定した。


 しかし、男にはもう一つやりたいことがあった。それは智也を魔物に変えることだ。なぜなら、魔力の多いものほど、魔物化する際により望んだ力を得ることが可能で、魔力が常人より遥かに多い前兆の魔物化した姿を見てみたかったのだ。


それならば前兆の自我を殺すことが出来るし、自分の望みも叶えられる。


 そして、グリフィンは、一家全員が寝静まった頃に智也の家へと侵入した。男の魔物を操る魔術にかかればそれも容易いことだったのだ。


 しかしながら、智也はちょうどその時起きてしまい、真夜中に家の中にいる男二人を見て叫んだ。


それによって智也の両親は起きてしまった。


元々、グリフィンは智也だけを連れ去ってから魔物化させる予定だったのだが、両親が起きてしまっては仕方がなかった。


グリフィンは一瞬にして智也の両親を殺害し、震える智也を連れ去ろうとした。


その時、相方の男が言った。

「おい、こいつ神と契約しているぞ。神の気配がする」


グリフィンは驚嘆した。神と契約しているということは、魔物化させようとしても、それは"眷属化"させることになるからだ。


「そんな、魔物化こそが魂の、肉体の解放だと言うのに! 眷属化しては神の形に縛られ、真に解放されない! ああ、素晴らしく最悪だ!」グリフィンは思わず叫んだ。


その時、突如として一人の老人がグリフィン達の背後に現れた。その老人は怒りの形相で言った。

「俺の家族に......何をした!」


次の瞬間、何かが歪むような感覚と共に相方が消えていた。


 グリフィンは目の前にいる老人の強さに驚愕し、すぐさま撤退した。撤退する途中で男の下半分は消滅した。


しかしながら、すでに魔物となっていたグリフィンの生命力は強靭であったため、命からがら家の外へ逃げ、窮地を脱することが出来た──



「ということがあったのですよ」とグリフィンが語りかけた。

その相手は月の神事件において裏で手を引いていた【智慧の魔女】であった。



この二人がいるのはグリフィンの所有する屋敷であり、彼らは紅茶を飲みながら話をしている。


「......彩島 翔時、彼はその時、神の力を使ったのでしょう」と魔女は言った。


「ほお、神の力.......魔法使いだったのですか.......しかし、昨日は惜しかった。我が神はちょうど良いところで私を呼び出してしまいましたから。このままでは前兆の怒りの度合いが下がってしまう......」グリフィンは残念そうに言った。


「怒りが冷めてはダメなのですか?」


「そうです。怒りというのは、その人物の本質を露わにする。感情が大きく出る時が、より魔物化した時の姿を素晴らしくするのですよ!」


「まあ、よくわかりませんが、頑張ってください」魔女がニコッと笑って言った。


「しかし、彩島 翔時、あまりにも弱くなりました。警戒していたのが馬鹿らしいほどに......老いとは怖いものですね......」


「そうですね。まあ、老い以外にも理由はあると思いますけど」魔女はニヤリと笑った。


「とはいえ、貴方の力があれば、前兆から神の力を取り払い、真なる魔物化をさせることが出来る! 素晴らしい! 私はその日が待ち遠しいですよ!」グリフィンはうるさい声で言った。


「ふふ、貴方の望みが叶うように私も祈っております」魔女は笑った──




◇◇◆◆◇◇


「二年前、この町に怪しい男がやって来た。どことなく、不気味な気配のする者たちだった。とは言え、そういう者は時々いる。だから多少警戒する程度に留めていた......それが、間違いだった」翔時は酷く後悔しているような表情をした。



「その日の深夜、ワシは不思議な声で目覚めた。その声は智也達に危機が迫っていると伝えて来た。ワシは飛び起きて、すぐに智也達の家に行った。だが、遅かった。既に智也の両親は殺されてしまっていた。その二人組のうち、一人は殺した。だが、もう一人は生きていた」翔時は悔しそうに語った。


「グリフィンって奴だよね」智也は言った。


「すまんな、名前まではわからない。だが、奴は見えない怪物を操る力を持っていた。そして昨日、ワシは見えない何かに襲われた。その何かの気配が、ワシの逃してしまった奴と同じだった......すまない、智也、ワシがあの時、もっと早く駆けつけていれば、奴を確実に殺せていれば......」翔時は涙を流していた。


「.......爺ちゃんのせいじゃ無いよ。それに、僕は爺ちゃんがいたから今生きてるんだよ。だから、謝らないで。爺ちゃんは僕のヒーローだよ」智也は翔時に優しく語りかけた。


「......ありがとう、智也......」翔時はまだ泣いていた。




「でも、いくつか気になることがある。どうして僕は、そのことについて忘れていたの? 二人が目の前で殺された記憶なんて無いし......」智也は言った。


「............実はな、ワシが記憶を消したんじゃ。お前にとって、あまりにも、辛い出来事だったから......」翔時は申し訳なさそうに言った。


「......そう、なんだ......その記憶って、戻せる?」智也は言った。


「......戻せはするが、あんな光景、思い出させるわけには......」


「それでも......両親《二人》は僕を守ってくれたはずだから、その最後を、忘れたく無い」智也は強い気持ちで言った。


翔時は悩んだが、智也の目を見て決心した。

「............わかった。だが、今は出来ない。退院した後で良いか?」


「うん」智也は頷いた。



「でも、待って、記憶を消すとか、人を、その、殺したとか、どうしてお爺ちゃんにそんなことが出来たの?」と流楽が尋ねた。


 智也は翔時の【眼】を見てみたが、その瞳孔は開いていなかった。


翔時は言った。

「......黒戸神社でまつっている神様、智也には昔、話したことがあったな」


「......次元の神様、だよね」

 

「そう。そして、千年以上前にワシらのご先祖はその次元の神様と契約した。代々信仰を続ける代わりに"神の力を借りる"と言う契約をな」


「つまり、爺ちゃんは神様の力を使えるの!?」智也は尋ねた。


しかし、翔時は言った。

「.......いや、今は使えない」


「えっ!?」


「一年前、ワシは力を"奪われた"」と翔時は言った。


「......誰に?」


「わからない。顔を、なぜか思い出せない。黒い髪の人物だったことは覚えているのだが......」


「黒髪か......当てはまる人が多すぎるな......」智也は難しそうな顔で言った。



「......お爺ちゃん、私のお父さんや叔母さんにはそのこと伝えているの?」流楽は尋ねた。


「......伝えてはいない。代々受け継ぐ神の力は、受け継ぐために信仰だけでなく、その力を持つ者を"殺す"必要がある。ワシも、老衰で死ぬ寸前だった爺様を殺して力を継承した」翔時は辛そうに語った。



「えっ......」


 流楽は先ほどから祖父に対して殺人に対する疑念を持っていた。その不審感と身内を殺したと言う発言が流楽には受け入れ難いものだった。


「......軽蔑、するよな、だから、こんなことを自分の子供にはさせられなかった。だから、次元の神様への信仰も、ワシの代で終わらせようと思っていた......」翔時は言った。


 二人は、翔時の悲しい姿に言葉が出なかった。その場には沈黙だけが流れ、時間だけが過ぎていった。


すると、ノックの音の後に看護師が入って来た。

「入りますよー」


(なに、このお通夜みたいな空気......)看護師は検査のために智也たちに退室をするよう促した。


「じゃあ、今日は予定があるから、また明日来るね」と智也は言った。


そして、二人はその部屋を去った──



◇◇◆◆◇◇


 智也と流楽は病院を出て黒戸神社に着いた。二人は社務所に入り、畳の部屋で向かい合って座った。


「......ねえ、智也くん、智也くんも何か知っているんだよね? お爺ちゃんみたいな力があったりするの?」と流楽は尋ねた。


 智也は悩んだ。流楽はあくまで一般人であるため魔術についてまで教えるのは良いのかと。そして悩んだ末、魔術のことは話さないことにした。


「......まあ、そういう力はあります。詳しくは話せませんけど」智也は答えた。


「............智也くんは、人を、殺したことはあるの?」流楽は恐る恐る尋ねた。



 智也は昔、自分が朝霧に対して尋ねた言葉を自らに投げかけられた。


「無い......とも言いきれないかもしれないです」


智也は人の形をした者を殺そうとした。しかし、常人ならば確実に殺しているはずだ。智也は明確な殺意を持って人であろう者を殺したのだ。


「......」流楽は無言で黙っていた。


「......昨日、僕の両親を殺した奴に出会ったんです。僕はそいつを、殺そうとしました。心臓を貫いたんです。でも、そいつは体が化け物だったみたいで、生きてて.......でも、もしそいつが本当に人だったなら、僕は殺していた」智也は言った。


「............別にね、私はお爺ちゃんを軽蔑した訳でも無いし、智也くんがもし本当にそいつを殺していたとしても、責めることは無い、と思う。でも、お爺ちゃんは人を殺したって話してた時、すごく悲しそうだった。だから、その、智也くんには、人を殺してほしくない」流楽は言った。



「............ありがとうございます。それに、僕は人を殺す気なんてありませんよ」智也は笑ってみせた。


「.......そっか。そう、だよね」流楽は微笑んだ。


「あ、そろそろ予定の時間なので、僕、帰りますね」


「あ、もうそんな時間か。じゃあ、また明日」流楽は手を振った。


「はい。また明日」智也はそう言うと黒戸神社を出た。



「僕は、人は殺しません。ただ、怪物を殺すだけだ」智也は自分にそう言い聞かせて予定の場所へ向かった──


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