夜明け
智也が怪物を倒した時、宇佐寺と戦闘していたウィンダーの動きが止まった。
「そうか、母さんは負けたのか......」ウィンダーはそう呟き、自身の手を見つめた。
手に亀裂が入り、その亀裂は全身を巡っていった。
ウィンダーは壊れかけた体で最後までウィンダーに斬りかかった。
「......お前は最期まで、神の子であり続けるんだな」宇佐寺はそう言うとウィンダーを斜めに斬った。
宇佐寺はウィンダーを斜めに斬り、ウィンダーの体は宇佐寺に斬られた箇所から亀裂が入っていった。
ウィンダーは月に手を伸ばし、言った。
「............望まれた生き方が出来たんだ、ボクはそれで良い」
彼の体は白い砂粒となって消滅し、空へと昇って行った。
「......ウィンダー=ジェーン、安らかに眠れ」宇佐寺は空を見上げながら呟いた。
◇◇◆◆◇◇
智也は地面の上に仰向きで倒れ、空を見上げた。
満月が怒りに震えるように蠢いた気がした。
智也はそれを見て笑った。
そこに宇佐寺がやって来て、智也に回復魔導具を使い、彼のケガは段々と癒えていった。
「お前も無茶しやがって......だが助かったぜ、智也」宇佐寺は言った。
「お互い様ですよ」
智也と宇佐寺は笑った。
すると、空が少し明るくなり、太陽の光が地平線から顔を出した。辺りが暖かな光に照らされた。それはまるで恐ろしい夜を生き延びた彼らへの祝福のようだった。
智也はその光景を目を輝かせて見た。
「きれいですね」智也は言った。
「......もしかしたら、俺はこの日を見ることは出来なかったかもしれねえ。朝霧さんや智也がいたから俺はこの光景を見れたんだ。ありがとな」宇佐寺は言った。
智也はそれがとても嬉しかった。
「そういや、よく一人で亜様村を守り切れたな」と宇佐寺が智也に言った。
「いえ、一人じゃ無理でしたよ。増援が来てくれたんです。たぶん魔術連の人でしたね」と智也は言った。
(魔術連の連中が来たのか......?)宇佐寺は思った。
◇◇◆◆◇◇
亜様村で仲間と共に戦っていた『Ⅲ』は智也が怪物を倒したことで結晶の化け物たちが消えていくことに気づいた。
「化け物どもが消えていく......彼らがやったのか」Ⅲは呟いた。
十数分ほど撤収作業をして彼らは本拠地に戻ることにした。
「全員、帰還するぞ!」Ⅲはそう叫ぶと魔導具でゲートをつくり本拠点へと戻った。村の者たちは救世団の者たちに感謝を伝えた。
「感謝するなら、彼らにしてやってくれ」Ⅲは背後を指差すとゲートの向こうへ消えた。
Ⅲが指さした方向には智也たちがいた。村人たちは二人に駆け寄って感謝を伝えた。
「ありがとう」という言葉が重なった。
「いえいえ、そんな......」智也は照れくさそうに言い、宇佐寺もそれを見て微笑んだ。
──Ⅲが救世団の拠点に戻ると、そこにはノックスがいた。
「ノックス様......!」Ⅲたちは片膝をついた。
「ありがとうクリーア。お陰でこの事件による被害者を少なくできた」ノックスはⅢに感謝を伝えた。
「ありがたきお言葉です」Ⅲたちは深く礼をした──
◇◇◆◆◇◇
一方、朝霧の元には予期せぬ人物がいた。
黒髪に赫い瞳をした人物......智慧の魔女だ。
「月の神を退けるとは、流石ですね」魔女は言った。
「......この魔力層を壊す魔導具、お前が月食教団に渡した物だろう?」朝霧は魔女に言った。
「その通りです。その魔導具、手に入れるのに苦労したんですよ」魔女は言った。
「もしこれが起動していれば、死者は八百万人を超えた......お前はなぜこんなことをする?」朝霧は怒りの表情で言った。
「......いいじゃないですか。人がいくら死んだって。所詮は生物。いつか終わりが来る。それが早いか遅いかの問題でしか無い」魔女は答えた。
「どいつもこいつも、人の命をなんだと思っている......」朝霧は怒りを露わにした。
「万物は終わりを迎えるために存在する。生物の終わりが『死』であるならば、私は死こそが生物の目的だと思います」魔女は言った。
「死ぬために生きる人間はいない。馬鹿げた妄言だな」朝霧は嘲笑した。
「......じきにわかりますよ。それでは、私はこれで」魔女はそう言うと姿を消した。
(......智慧の魔女、お前の目的がなんであれ、私は止めてみせるぞ)朝霧は覚悟のこもった目をしていた──
◇◇◆◆◇◇
一週間後、智也たちはそれぞれの日常に戻った。
世間は近づく夏休みの話題で持ちきりだが、その裏で大事件が起きていたことは智也くらいしか知らない。
月の神の残した爪痕は大きく、最低でも魔術連の人間を十七名、亜様村の老人たちを三十三名、月食教団の人間、五百三十五名を吸収しており、殺害した人数がこれを更に上回るだろう。
とは言え、老人や神主以外の亜様村の住人は全員無事であり、彼らは守り抜いたのだ。
亜様村の住人は記憶処理をされ、今では結晶の化け物のことも、智也たちへの感謝も忘れているだろう。しかし、彼らが守った人間はしっかりと生きている。それだけで良いのかもしれない。
数百年、この星で人間を害し続けた怪物を、智也たちは退け多くの人間を救えた。その達成感が彼らの心を満たすだろう。
また、月の神のカケラを破壊したことで吸収されていた人間も解放され、二度と複製されることも無いと朝霧は智也に言っていた。
消えた命は戻らないが、彼らは救われたのだと智也は信じた。
「乾杯〜!」朝霧の活気あふれる掛け声と共に、探偵事務所で慰労会が始まった。
そこには朝霧、智也、宇佐寺、咲の姿があった。
「いや〜、私なんもしてないのに呼ばれてびっくりっすよ〜」と咲が言った。
「いいじゃないか! 今日は思う存分飲んでくれ!」と朝霧がビール片手に言った。
「ほら智也、お前も飲め!」と宇佐寺が智也の肩を寄せて缶を片手に言った。
「いや、僕は未成年で......」智也はそう言って断ろうとしたが、宇佐寺の持っていたのはコーラだった。
「缶ジュースかい!」智也は思わず言った。
「おい咲! お前、未成年だろ!」朝霧が咲にダル絡みした。
「私もう二十三ですよ!」咲が言った。
「あれ? そうだっけ? もう会って五年は経つのか......」と朝霧が酔っ払いながら言った。
「もう、朝霧さん......一番お酒弱いのにそんな飲むから......」と咲が困ったように言った。
「ははは、賑やかでいいですね。こんな日常がずっと続けばいいな......」と智也が言った。
「それフラグなんでやめてください!」と咲が言った。
「おう見てろ智也!」宇佐寺が突然そう言うと謎のポーズをキメてから『変身!』と叫んだ。
その瞬間、白い煙が宇佐寺の周りに現れ、煙が晴れるとそこにはぴえんの顔をした三頭身の宇佐寺が立っていた。
智也は思わず飲んでいたものを吹き出した。
「どうよ、これが最近の若者の流行りだろ!」宇佐寺がぴえん顔でドヤ顔した。
「古いです!」智也は叫んだ。
「......!」宇佐寺はぴえん顔のまま智也をじっと見つめた──
──慰労会がほぼ終わり、朝霧と宇佐寺は眠ってしまった。
智也がベランダで夜空を見上げていると、咲がやって来た。
「二人とも寝ちゃったっすね」と咲が智也に言った。
「そうですね。二人ともぐっすりと.......」智也が言った。
「宇佐寺さん久々に会いましたけど、やっぱり少し老けてますね」と咲が言った。
(そうか、宇佐寺さんはもうかなりの歳だ。だけど朝霧さんは全然老いていない......)智也は寂しい気持ちになった。
「......そう言えば、朝霧さんは僕含めて五人弟子がいると言っていましたけど、あとの二人でどこにいるんですか?」と智也が尋ねた。
「......その二人はもう死んでいるらしいっす」と咲が言った。
「そう、なんですね......会ってみたかったので、残念です」智也は言った。
「......朝霧さん、昔言ってました『一番最初の弟子は自分を助けるために死んで、二番目の弟子は自分が殺したようなもの』って......それ以上は私も聞けて無いんですけどね......」と咲が言った。
智也は、なぜな悲しい気持ちになった。
「......朝霧さんがどうしてあんなに若い見た目なのか知っていますか?」と智也は咲に尋ねた。
「それは私もわからないです。でも、朝霧さんは自分を呪っているように見えました。呪縛から抜け出せなくなっている感じに......」咲は言った。
その時、背後に宇佐寺がいた。
「え、宇佐寺さん!」二人は驚いた。
「それは一番目の弟子が朝霧さんを助けるために使った力が残っているからだ」と宇佐寺は言った。
「あ、話聞いてたんですね......一番最初の弟子の力......どんなものなんですか?」智也は尋ねた。
「朝霧さんは昔、ある人を庇って致命傷を負った。その時、一番目の弟子『グレイスト』ってやつが朝霧さんを救うために【次元の神】の力を使って傷を治したらしい。そっから老化が止まったって聞いている」と宇佐寺は言った。
(朝霧さん......そんなことが......)智也は少しうつむいた。
「......俺は、朝霧さんが"不老"の力で何十年も苦しんでいるのを見てきた。だから、お前たちにもをその力を取り除く方法を探すのに協力して欲しい」宇佐寺は言った。
「もちろん、協力します!」智也と咲は同時に言った。
「......ありがとな」宇佐寺は言った。
こうして、三人には新たな目標が出来た。
しかし、世界の終焉も近づいている。智也は大きな目標が新たに出来たことに不安を感じつつも、智也たちは覚悟を決めた──
第三章これにて終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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また、次回から不定期投稿になると思います。ですが、未完で終わらせる気は無いので、今度もよろしくお願いします。




