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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第3章 狂気の月と蒼い星
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炎環

 月の神と朝霧は空中に浮かび対峙した。


金色に輝く狂気の光が周囲に満ち、朝霧の精神も少しずつ蝕まれている。


 地表には狂気に呑まれた結晶の化け物たちが朝霧に向かってえ、手を伸ばしている。


まさしく地獄絵図というべきこの光景でも朝霧の精神は屈することはなく、彼女はりんとしたたたずまいで浮かんでいた。




 月の神がパチン指を鳴らすと、突如として朝霧の右腕に痛みが走った。腕を見てみると、にの腕の部分に白い結晶がフジツボのように張り付いていた。


次の瞬間、結晶のある部分の痛みが激しくなった。


「その結晶はお前の体の内部に根のように食い込み、神経と絡まる。そして肉を裂き、お前は死ぬ。お前が私の見える範囲にいる以上、その結晶はいくらでも付着させられる。生きる希望など捨てておけ」神は言った。


 結晶は体に食い込んでいるため魔術で壊すそうとすればかえって体を傷つけてしまう。そうこうしているうちに、痛みが広がっていった。


「矮小な人間が、神に勝てるとでも思ったか? そのちっぽけな力が私に届くと思っていたのか? 自惚うぬぼれるな。お前は所詮しょせん下等生物だ」神は怒りを露わにした。


 朝霧の体をフジツボのような結晶が覆っていき、朝霧は結晶のある部分から血を流した。体中に激痛が走り、血は止まることなく流れ続ける。


(Ⅴの男と戦った時の智也くんは、こんな痛みに耐えていたのかな?)と朝霧は考えた。



朝霧の目はこの状況でなお神を静かににらんでいる。


「............どうやら、人の力だけでは神には勝てないな」朝霧は言った。


「やっとわかったか、人間が......」神は笑みを浮かべた。


「ああ、神には"神の力"をぶつけるしかないようだ」


 その瞬間、朝霧のつけていた黒手袋が結晶によって裂け、そこから美しい琥珀色の輝きを放つ紋様が見えた。


(この手の甲の印......どこかで......)月の神は思った。



 その印は次第に"熱"を発していき、琥珀色の輝きを増した。


「そうか、その紋様は"炎の神"との契約者の証......上位の神がお前と契約したというのか......!」月の神は目を見開いた。



──神も一様に同じ力なのではなく、神性の強さも発生要因となった超自然エネルギーの力によって変化する。


朝霧の契約した【炎の神 イズァール】は原初の炎とも呼ばれ、宇宙の中心に存在する上位の神格である。


彼の神は他の天体よりも遥かに巨大な炎の塊であるとされ、その姿は恒星のようだともされる。そして、巨大な炎のを持ち、燃やすべきものを燃やす"選別の炎"を持つ──



 朝霧の手の甲にある紋様が千度に近い熱を放ち、輝きを増した。



「炎環「えんかん》の神よ、原初より燃え続ける煌星こうせいの炎よ、その炎の一端を借り受ける──」


 その言葉と共に、印の熱と輝きが更に増し、朝霧は魔法を発動した。

原初の煌星(アルケデア・フレイム)


その瞬間、朝霧の頭上に小さな炎が現れた。その炎は琥珀色の輝きを放ち、小さいながらも太陽のように輝いた。


炎には緋色のがあり、その環は瞬く間に巨大なものとなった。


そして、その環の内部には万をゆうに越える熱があり、その熱によって結晶の化け物たちは一瞬にして灰燼かいじんと化した。


月の神がそれに驚く間もなく、神の結界は破壊され、神の肌が焼かれた。


(私よりも上位の神の炎......体が、焼かれる!)その時、神は敗北を悟った。


 しかし、朝霧は魔法を解いた。

炎が消えていき、熱が下がっていった。


「......なぜ、魔法を解いた? その炎の力なら私を殺せたはずだ」神は朝霧に言った。


「まあ、殺すことはできただろう。だが"神の力"でお前を殺したとしても、お前の心は折れない。だから"人の力"でお前を殺す。二度と人間に害を成さないように、徹底的にな」朝霧は冷徹に言った。


神は怒り、叫んだ。

「舐めるなよ、人間ふぜいが......!」



突然、神の肉体から巨大な白い結晶が飛び出し、瞬く間にその姿は変貌へんぼうしていった。


 その姿は完全に人の姿を捨て、六十五メートルはある巨大な結晶の姿となった。結晶の内部には黒い影のようなものがにじみ出て、そこに月のような球体が浮かんでいた。



「人間、お前には静かな死など無い。お前にあるのは苦しみにもがくむごたらしい死だ!」

神は無数の棘のついた白い鉱石の触手を振り回した。その結晶に触れたものは粉砕された。


 そして白い光のレーザーが朝霧に向かって放たれ、朝霧は触手による攻撃とレーザーを空中で華麗にかわし続けた。


魔法によって一度は無くなった結晶が、再び体中にまとわりつき、朝霧の肉を裂いた。


一度でも攻撃が当たれば即死するこの状況で、朝霧は攻撃を避け続けた。今の彼女に恐れは無い。あるのは勇気だけだ。


 その絶え間ない攻撃の中、ほんの一瞬、隙間が生まれた。朝霧はその一瞬の隙をつき、自身の使える最大の魔術を放った。


その魔術は周囲に満ちる魔力を集めてその魔力を一気に解き放つものであり、本来自身以外の魔力を扱うのはA型の人間にO型の血液を輸血するように非常に危険な行為だが、朝霧の魔術はそれをノーリスクで可能にしている。


 そして、月の神の魔力で満ちているこの空間ではその威力は跳ね上がる。


宵の明星(よいのみょうじょう)


 巨大な金色の光と黒い影が月の神に向かって放たれ、その一撃によって月の神の結晶は粒子レベルで分解された。


月の神は体のほとんどを破壊され、もはや二メートルにも満たない小さな結晶となった。

「バカな、この私が、人間ごときの魔術に......」月の神は今起きていることが信じられなかった。


分体とはいえ、強大な力を持つ自身が人間の魔術によって敗れることなど普通ならあり得ないのだから。


 結晶が壊れていく音と、ガラスを引っ掻いたような気持ちの悪い神の絶叫が響き渡り、やがて神は白い光の粒となって消えた──





 朝霧が気がつくと、そこは日善タワーのトップデッキだった。


朝霧の右腕はまるで炭のようになっており、魔法の負荷が重いことを感じさせた。


「久しぶりに魔法を使ったが、やはり反動が酷いな......」朝霧は仰向けで倒れた。


頭上には大きな満月が見える。


「ざまあみやがれ」朝霧はそう呟いた。




その時、「これで、終わると思うなよ」という声がした気がしたが、気のせいだろう。朝霧はしばしの眠りについた──


◇◇◆◆◇◇


[亜様村]

 

 突如、ウィンダーの動きが止まった。


ウィンダーには月の意思が聞こえていた。

(ウィンダー、我がいとしの子よ、お前に私の力を授けよう。そして、必ずやその二人を殺せ)


 

 その瞬間、ウィンダーの肉体に変化が生じた──


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