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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第3章 狂気の月と蒼い星
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月の侵蝕者

 クロロファルを倒した後、朝霧はビルを離れて智也達のいる亜様村へ向かった。


そして、亜様村の山中を月食教団の女を連れて歩き、智也たちのいる場所へ辿り着いた。


「朝霧さん! ......隣の人は誰ですか?」と智也が尋ねた。


「こいつは日善タワーのトップデッキにいた奴で、月食教団の人間だよ」


「そうですけど......手荒なことはしないでくださいよ......ちゃんとこっちの事情は話すんですから」と女は言った。



 早速、朝霧は女に尋ねた。

「なら聞こう。お前らの目的はなんだ? 【真の月光】というのが関係しているのか?」


「そうですよ。私たち......いや、月食教団の人たちの目的は真の月光......言い換えれば【狂気の月】を見ることです」と女は言った。


「狂気の月、とは何だ?」宇佐寺が訊いた。


「説明するとむずいんですけどね............なら、私たちの信仰対象は"月"だってことは知ってますか?」


「月か......まあ予想はあったな」と朝霧は言った。


「でも、その月って言うのは月であって月では無いんです」女は言った。


「どう言うことだ?」と朝霧が尋ねた。


「星蝕の神【イロウ=ギャレア】その神の特性は星に成り代わること......私たちがいつも見ている月は、はるか昔から神そのものになっているってことです」


◇◇◆◆◇◇


──二億年前、月に到達した『星蝕の神』は吸収と複製を繰り返し、はるか昔には完全に月へと成り変わった。太古から人類を照らし続けた月は神であったのだ。


月食教団は星蝕の神......その一部である月を信仰対象として来た教団であり、彼らは月のことを月の神【イロウ=ルナ】と呼ぶ。


【イロウ=ルナ】は星蝕の神と同様の神性を持ち、吸収すればするほど強大な力を得る。


 イロウ=ルナには主に四種類の神性があり、その女性の話をまとめると以下の通りだ。


イクリプス(吸収のこと)

球状に空間を削り取り、神の"世界"の中で記録する。食らえば食うほどこの神は強くなる。


複製クローン

神の中で記録された物体を完全に複製する。しかし月光が強くなる満月の日には複製体は白い結晶となり、それが生命体の場合は理性が吹き飛び暴れ回る怪物と化す。また複製体は一億年ほどの歳月を経るとイロウ=ギャレアの神性を得る。


結晶アダマンタイト

星蝕の神イロウ=ギャレアの真の姿は巨大な結晶であるとされ、結晶を生み出す能力を持つ。複製体は満月の夜になるとこの白い結晶が体外に露出する。この結晶は複製する際に多くの力を使ったものほど硬くなる。


狂気ルナティック

月の放つ光にはこの神性が含まれており、この光を浴びた生命は狂ったように全身を掻きむしりながら笑い、叫び、泣き、そして絶命する。


 しかしながら今現在、智也たちは月光を浴びてもこのように死ぬことはない。それは地球の上空を巨大な魔力の層が覆っているからである。


その魔力層はいわば魔力版のオゾン層のようなものであり、月食教団の者たちの目的は、その魔力層に"穴を開ける"ことである。


 朝霧の発見した鏡の魔導具はその為に用いられる物であり、成功すればこのS県全域に狂気の月光が降り注ぎ、想定八百五十万人の人間が狂い死ぬことになるだろう──



 三人はその被害規模の大きさに衝撃を受けた。


(たく、どうしてそんな馬鹿でかい規模のことやろうとするんだよ!)と宇佐寺は心の中で愚痴を溢した。


「それを止めるためにはどうすれば良い?」と朝霧は尋ねた。


「......魔導具の使い方を知ってるウィンダーさんを捕まえる......あとは魔導具を破壊するくらいしか無いですね。まあ、あの魔導具に張られている結界は壊せないですけど......」


 確かに、朝霧は魔導具に結界があるのをわかっていた。だからこそ先ほどのタイミングで魔導具を破壊しようとはしなかった。しかもその結界は魔法で作られたものなので魔術で破壊するのは不可能に近い。


「なら、ウィンダーを捕縛するくらいしか止める方法は無いか......ウィンダーが今どこにいるかわかるか?」と朝霧は尋ねたが女は首を横に振った。


「ただ、魔導具を発動する時......つまり満月の時は結界を外すと聞いてるので、その時なら壊せると思います」と女は言った。


 朝霧は考えていた。

もしトップデッキで鏡の魔導具を張っていたとしても、ウィンダーはおそらく来ないだろう。なぜなら補充の効く複製人間にトップデッキを見張らせておけばいいからだ。


 だとしたら満月の夜の直前にトップデッキへ移動してウィンダーを捕縛するほかない。おそらく何らかの対策は取られているだろうが、突破するほかない。



「その話で気になることがあったんですけど、いいですか?」と智也は言った。


「話してくれ」と朝霧は答えた。


「......まず気になったのは、イロウ=ルナによって複製された物は満月の夜には怪物になると言う話なら、いま亜様村にいる老人の複製体を放置しておくのはまずいですよね?」


「その通りだよ。だから最優先は亜様村にいる複製体の捕獲、もしくは......殺す」朝霧は言った。


 智也もその答えは覚悟していた。複製体、満月の夜には怪物になる......とは言え、記憶も姿形も人と変わらない存在を殺すことは智也にとって重いことである。


 それを察したのか、宇佐寺は言った。

「......まあ、何も殺す必要はねえかもしれませんぜ朝霧さん。ゲートでも使えば案外楽に捕獲出来るかもしれねえですから」


「......そうだね、殺すのは最終手段にしておこう。ただ突然、人が大勢も失踪したとなればニュースになってしまう。村人たちを捕獲するにしても満月の夜の前日くらいにした方がいい」と朝霧は言った。



「......了解しました。あともう一つ気になったことがあるんですけど......魔力層を壊すにしても、複製された人間ではそれを見ることはおろか理性の無い状況で真なる月を見てどうするつもりなんですか?」と智也は女に尋ねた。


「......その真なる月って言うのは、我々が見るためのものじゃないんです」と女は言った。


「どう言うことですか?」と智也が尋ねた。


「真なる月を見るのはウィンダーさん、ただ一人だけ。月の神が自分の子であるウィンダーさんに真なる月を見せるため、月食教団に色々と命じたんですよ」と女は言った。


「たった一人に恐ろしい月を見せるために、そんなことを......」と智也は呟いた。


「やっぱうちの教団はイカれてますよね。私としては早く抜け出したかったですよ」と女は言った。


「ならどうして入ったんだ?」と宇佐寺は尋ねた。


「うちの両親がこのカルトにどっぷりハマってしまいましてね......それでずっと月食教団に入ってましたよ」と女は言った。


 朝霧はその言葉が嘘では無いとわかった。

「......まあ、この一件が落ち着いたらその神とは無縁の生活を送れるように手配しておこう」と朝霧は言った。


「......いや、いいです。もう遅すぎた」と女は夜空を見上げながら言った。


「それってどう言う......」と智也が言おうとした時、突如として女の右手に亀裂が入った。


(まさか......!)朝霧は勘づいた。


 この女もすでに複製体であったことに。


宇佐寺たちから連絡を受け取った時点で複製体であることを少し考えていた。しかし、複製体であれば情報を言う前に神によって口封じされると朝霧は考えていた。


 けれど、それは違った。


「月の神は私に自身の情報を話させる役割を与えた。亜様村の神主も、クロロファルさんも、複製された人たちは全員、月の神の良いように扱われて、役目が終われば殺される......」女は語った。


「何か、助ける手段は無いんですか......?」と智也は尋ねたが、女は首を振った。


「私も、他の人たちも、すでに神の糧となり神の世界を構成する要素となってしまっている。だからもう戻ることは出来ないです」女がそう話していると、亀裂が首にまで達した。



「私はいつまでこんな人生を繰り返し続けるんですかね? ......必要な時に複製されて、生きて、必要ないなら殺されて......もう、疲れましたよ」女の瞳から涙が流れて頬を伝った。


 亀裂が頬を駆け上り、女の右目を裂いた。  


 智也は死にゆく複製体まがいものに対して覚悟を持って言った。

「......僕にあなたを救うことは出来ないけれど、もう二度とあなたが涙を流さないように、絶対に月の神を止めて見せます」



 女はそんなことは無理だと思った。人は神には勝てない。月の神の力を目の当たりにした彼女にはそれがわかっていた。しかし、智也の覚悟に満ちた瞳を、なぜだか彼女は信じたくなった。

「...........無理でしょうけど、期待してます......ありがとう」


 女がそう言うと、彼女の全身に亀裂が入り、真っ赤な血を飛び散らせながら爆散した。辺り一面に赤が広がり、それはすぐに白い砂となって消えていった。


 朝霧と宇佐寺は俯いて暗い表紙をしたが、こんな光景に慣れてしまったのか動揺は無かった。


 智也は震えた。人が死んだことに対してでは無い。そう、強いて言うなら激情だ。人を弄び使い捨てる神に対しての怒りだ。


 智也は拳を強く握り締め、夜空に浮かぶ月を見上げ睨んだ──


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