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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第3章 狂気の月と蒼い星
33/88

亜様村の伝統

若い神主は智也達に向かって言った。

「このミイラ、何だと思いますか?」


 智也は怪訝けげんそうな顔をしつつもそれに答えた。

「......."霊媒"ですか?」


「......確かに、これは霊媒です。詳しい名前は、あなたに以前話した......【亜様】ですよ」


 "亜様"、この村の地名にもなっている神様の名だ。



「それが、神......?」智也は言った。


「......いいえ、これは神ではありません。醜悪で可哀想な"赤子の成れの果て"ですよ」若い神主は語り始めた。


◇◇◆◆◇◇


 千年以上前、この村の周辺には大量の魔物が発生し、村の者たちはそれに怯える日々が続いたそうだ。


 彼らはそんな状況を変えるべく、ある神職の男を頼った。


男はこの村に産まれた双子の赤子を使ってある儀式をした。


 男は双子を小さな木の箱に閉じ込めた。ご飯が無く、衰弱した双子に男は生きた魔物の血を飲ませた。


 ただ、魔物の肉体はいずれ霧散して消滅してまう。故に赤子の腹に溜まることはない。


 数日間、それを続けると、赤子には牙が生えてきた。やがて飢えた双子は互いに喰いあい、片方が喰われた。


 この蠱毒こどくまがいの生き残った片方の赤子に男は魔物の肉を与え続けた。


 奇妙なことに、腹に溜まらない魔物の血肉を赤子はしっかりと糧にして僅かながら成長をしていたそうだ。


 しかし、赤子は喰った魔物の体の一部が体から生え、異形の身体へと変化していった。



ある日、突然赤子は死んだ。魔物の血肉の影響か、体の変化に耐えられなかったのか......赤子は死後にかわいたミイラとなった。


 そして、そのミイラには"魔除け"の効果があり、ミイラの力で魔物は村の周辺には現れなくなった。


神職の男は村を救ったのだ。


 そして、この魔除けの力を持つ神とも言える存在を過去の亜様村の住民は、『亜人の守り神』......"亜様"と呼んだ。



◇◇◆◆◇◇


亜様という存在の悍ましい事実に智也は戦慄した。


「この村では、千年前から双子が生まれるたびにこの"亜様造り"を続けていました」若い神主は言った。


 智也と宇佐寺は黙ってその次の言葉を聞いていた。


「私の小さい頃に産まれた妹達は"双子"だった。皮肉な話ですよ。私の先祖が始めた亜様造りが、こうして自分の子孫を殺すことになったんですからね」神主は酷く疲れた目で言った。


「なら......その亜様は......」宇佐寺は聞いた。


「......私の"妹"です。まだ赤子だった」


「......そうか」宇佐寺は同情するように小さく言った。



「昔の私は、産まれてくる妹達の兄になるのだと喜んでいました。しかし、実際は老人連中のイかれた伝統によってこんなおぞましい姿にされてしまった......両親は嫌気がさしたのか村から出ていき、私は何とか亜様作りをとめようとしました。でも、出来なかった」神主は無念そうに語った。



「なら、あなたはウィンダーと何を取引したんですか?」と智也が言った。


神主は少し間を開けた後に言った。

「復讐......いや、ただの私怨による殺人ですかね」



◇◇◆◆◇◇


──数日前、この村を訪ねてきたウィンダーは何故かこの村に霊媒があると知っていた。


神主は"亜様"がその霊媒なのではないかと思い、ウィンダーに取引を持ちかけた。


 妹達を救えなかった罪悪感と強い憎しみ。長い間その感情を募らせてきた神主はウィンダーに『亜様(れいばい)を渡す代わりに、亜様造りに関与した老人たちを殺す』ことを提案した。




 ウィンダーはその取引に応じた。


神主は"六体"あった亜様のうち、妹以外の亜様をウィンダーに渡した。


 それから、神主は村の老人たちを近くの森に集めた。


その日は真夜中で月が出ていた。

ウィンダーは黒い立方体の箱を手のひらの上に乗せていた。すると、月光を浴びたその箱が半分ほど開いた。


 その瞬間、半径十メートルほどの空間が削られ、その中にいた老人たちは一瞬で姿を消した。



今まで感じていた妹たちに対する罪悪感、老人達に対する鬱憤うっぷんが晴れた神主は笑った。


その時、突然声がした。鈴を鳴らしたような女性の声が黒い箱の中から聞こえた。

「お前の復讐はこれで終わりでいいのか?」


神主はその声に驚いた。


 ウィンダーはその箱の中にいる誰かを"母"と呼んでいた。


「お前はこの老人どもを殺しただけで満足出来るのか?」とその声は言った。


神主はこの村を、亜様に狂ったこの村を憎み、壊したかった。


そして何より恐ろしかった。だからこそ、彼は言った。

「......この村の伝統を捻じ曲げて完全に壊してやりたい」


声の主は笑うような声を挙げた。

「いいだろう。それなら、こんなのはどうだ?」



声の主の提案は奇妙なことだった。

死人を"生き返らせ、操る"とのことだったからだ。


 消えたはずの老人たちを、声の主は生き返らせた。


生き返った老人たちは自分たちが死んだことに気づいていなかった。そして、どういうことか声の主は生き返った老人たちを操ることができた。


◇◇◆◆◇◇


 老人たちは操られていることにも気づかず普段通りの生活をし、古い伝統を守っているつもりになっている。


しかし、その伝統は亜様信仰から"月食信仰"へと成り変わっている。老人たちは亜様を信仰する気持ちで全く別のものを信仰している。


 宇佐寺が見たのもその時の光景だろう。



 神主は『それは見ていて非常に面白い光景だった』と言った。きっと、守ってきた古い信仰が、全く知らない別の信仰に変わっているのを知らずに信仰する老人たちの姿を滑稽に思ったのだろう。




──しかし、そんな話をする神主の顔は笑っていなかった。



「......お前、後悔しているんだろ?」宇佐寺が神主に言った。



「後悔......?」神主は小さく言った。


「お前の目には、覚悟がねえ。人を殺して、その尊厳を汚す......その重さを耐える覚悟がねえ」宇佐寺は怒るような声色で言い放った。


「......そうですね。きっとそうなんでしょう。私はそんな覚悟も出来ないのに話に乗った愚かな人間ですよ。でも、やったことはもう取り返しがつかない......人が生き返るわけないですからね」と神主は呟いた。


「どう言うことですか?」智也は尋ねた。


「......箱の中にいた"何か"の持つ力は"吸収"と"複製"......と月食教団の人たちがこっそりと話しているのを聞きました。村の老人たちは吸収され、記憶も姿形も同じな別の存在として造られていたんですよ」と神主は言った。


「なら、今村にいる老人達は全員......複製された人間......偽物ってことですか?」智也は言った。


「その通りです」神主は答えた。


 神主は元から老人たちを殺すつもりではあった。ただ、彼らが生き返ったことでその罪悪感が薄れた。


しかしながら、その話を聞いた後、その罪悪感は本来よりも重く彼にのしかかった。人を殺すだけに飽き足らず、彼らの信仰、人格までも神主は愚弄ぐろうしたからだ。




「......私は、半端な覚悟で取り返しのつかないことをしてしまった......いや、覚悟はあった。でも揺らいでしまった」神主は絶望したように呟いた。



「なら、お前は何をする? 罪悪感を感じているだけで罪が許される訳じゃねえ。行動をしろ。お前が自分の罪を償う気があるのなら」と宇佐寺が言った。


 その場に長い沈黙が流れた。


「あなたにその意思があるのなら、教えてください。あなたの知って全てのことを」智也は神主に言った。


 宇佐寺と智也の言葉に、神主は重い口を開いた。

「......わかりました」




「ウィンダーはいつ儀式を始めるんだ?」と宇佐寺が聞いた。


「ウィンダーさんは次の満月に儀式を始めると言っていました」と神主は言った。


「次の満月は七月十四日の夜明け前......ちょうどスーパームーンの日か」と宇佐寺は呟いた。


「なるほど......黒い立方体の箱については何か知っていますか?」と智也は訊いた。


 神主の話をまとめるとこうだった。


 黒い立方体の箱は月食教団にとって信仰対象で、おそらく神に関係する何らかの物品であると考えられる。また、その箱は月光によって開き、満月になると完全に開く。


そして、その何かの持つ力【吸収】は最大で半径十メートルまでで、連続でやることは出来ない。また吸収の前にほんの僅かに空気が揺れる。【複製】は吸収した人・物の姿形や記憶を完全にコピー出来る。


 加えて、先ほど智也たちが戦闘した怪物たちは黒い箱の何かが生み出したもので、未知の鉱石で覆われた鉱石と生物の中間の存在だ。複製された生物や物はこの鉱石生命体と同じく死ぬと白い砂となって散る。


 

「吸収と複製......もしかしたら、いつの間にか自分もコピー人間になっているかもと思うと怖いですね」と智也は顔を強張らせて言った。


「そうだな。もしそれで操られたら色々と迷惑かけちまう」と宇佐寺は言った。


「それと、月食教団って名前だったり、黒い箱が月光で開いたりと"月"が何か関係していそうですね......もしかすると【月の神】とかを呼ぼうとしているのかも」と智也は言った。


「まあ、月食教団の奴らが信仰している神はわかっていないからな。ただ、月の神なんて名前は聞いたこともねえ」と宇佐寺は言った。



 それから、五体の亜様の現在地点をも尋ねると、現在は亜様村のある、S県の【日善市ひぜんし】にあるとのことで、そこは今朝けさウィンダーがゲートで移動した場所と同じだった



 すると神主が尋ねで来た。

「皆さんの話を聞いていて気になったのですが、ウィンダーさんの目的は"真の月光を浴びる"ことですよね? 人死にが出るような大事になるとは思えないのですし、ウィンダーさんは良い人ですよ?」



 【真の月光】という言葉も気になったが、宇佐寺が最も違和感を感じたのは神主がウィンダーを良い人と言ったことだ。実際にウィンダーと接触している宇佐寺からすると、あんな殺人者の目をした人間が良い人に見えるわけも無い。


そして、何よりこの神主はウィンダーに殺人を交換条件にしている。そんなことは良い人に頼むことでは無いし、何より儀式で人死にが出ると考えていないのも謎だ。この神主なら怪しいカルトの儀式なんて最も嫌うはずだからだ。



 宇佐寺は、ここで一つの結論に至った──



その時、智也たちの背後から銃声がした。

しかしそれは智也にも宇佐寺にも当たらず、"神主"の頭を撃ち抜いた。


 鮮血が舞い、神主は力なく倒れた。するとその体は"白い砂"となって霧散した。


 宇佐寺は確信した。

今まで自分たちと話していた神主は"複製人間"であったことに。



 智也たちの背後にいたのは......ウィンダー=ジェーンだった。



 智也は人が死ぬ瞬間を間近で見た。初めてでは無いものの、その衝撃と恐怖は計り知れないものだろう。一瞬、智也の体が硬直した。


 その一瞬のすきにウィンダーは銃を持っていない方の手のひらを智也の頭に向けて近づいた。

その時、わずかに空気が揺れた。


智也は防御魔術を使っている。故にダメージを喰らうことは無い。宇佐寺はそうは考えなかった。実際、どんなに硬い防御魔術でも破る方法はある。


 宇佐寺はウィンダーの行動に危険を感じ、咄嗟に智也を庇った。


その次の瞬間、宇佐寺の左肩が数センチほど削り取られた。


宇佐寺も防御魔術を発動していたが、その攻撃はそれを無視して宇佐寺の体をわずかに削った。もし宇佐寺が智也を庇っていなかったら頭を削り取られて即死していただろう。


 宇佐寺は何とか智也を連れてその場を離脱することに成功し、ウィンダーはそれを追っては来なかった──



読んでいただきありがとうございます。

次回は金曜の22:00です。



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