【眼】の秘密
楽しんでいただけたら嬉しいです。
智也の人生には生まれた時から不気味な【眼】が付き纏っていた。しかし、その正体が今わかるかもしれない。そのことに、智也は怖さと共に嬉しさを感じた。
「教えてください。【眼】について」智也は朝霧に向かって言った。
「わかった。私の知る限りのことを話そう」と朝霧は言った。
朝霧さんはまず、自分が【眼】が見えるようになった経緯から話し始めた。
「あれは私が二十三歳だった頃の話だ......私はある女から魔導書を渡された。当時の私は好奇心に負けてその魔導書を読んでしまった」
──その魔導書には現代ではほとんど伝えられていない『古代魔術』が数多く記載されていてとても高揚していたのを今でも覚えている
私は一ページ、また一ページと期待に胸を膨らませながら本をめくり続けていた。
そしてあるページを開いた時、私は本から突然現れた【眼】の奥を覗き込んでしまった。私はその時まで【眼】が見えていなかったので、一体何が起こったのかを理解する間も無かった。
そこからの記憶は無い。
ただ、心臓が今までに無いほど早い鼓動で脈うち、嫌な汗が全身から出て、体中が熱かった。
その時鮮明に残っていた"恐怖"の感情は今でも忘れられないほど頭に焼き付いている。まるで自分が別の何かになりかけていたような感覚、そんな漠然とした強い恐怖だ。
我に帰った私はすぐにその魔導書を燃やした。
そして、その燃やした魔導書こそが『神の眼』と呼ばれる魔導書だ──
僕は朝霧さんの話を聞いた後に言った。
「つまり、『神の眼』という魔導書を見たことで朝霧さんは後天的に【眼】が見えるようになって、さらにその魔導書には【眼】が封じられていたのでそれを覗き込んでしまったということですか?」
「そういうことだよ。でも智也くんは反応からして『神の眼』を読んだわけでは無いよね。ならどうして【眼】が見えるんだい?」と朝霧は智也に尋ねて来た。
「僕は生まれつき見えているので、なんでかはわからないです......」
「なるほど......生まれつき見えるタイプもいるんだね。ちなみに智也くんは【眼】についてどこまで知っているんだい?」と朝霧は言った。
智也は【眼】がほとんどの生物についていることと、恐ろしい出来事の前に笑うことについて話した。
朝霧はそれを聴き終わると智也に言った。
「ちなみに、智也くんは【眼】の奥を覗いたことはあるかい?」
「奥ですか? 【眼】に奥行きなんて無いと思いますけど......」と智也は答えた。
「実はね、【眼】には瞳孔があるんだよ。自分の【眼】を見てごらん」と朝霧が言ったので、智也は見てみることにした。
昔から【眼】が怖かったのであまり観察したことは無かったのだが、よく見てみると確かに瞳孔のようなものがあり、その隙間の奥には何かが見える。
「その瞳孔は実は誰でも開いているわけでは無くてね、"魔力を感知できる者"の【眼】だけ瞳孔が開いているんだ」
「......瞳孔の奥を覗き込んだら、どうなるんですか?」智也は尋ねた。
「その場合、【精神の同化】という事象が起こる」と朝霧は答えた。
「それは、一体なんですか?」
「精神の同化と言うのは、【眼】を覗いた者と覗かれた者の精神が混ざり合い、互いの記憶を観測する。そして、最悪の場合混ざり合った精神が同一化して"人格が崩壊する"」と朝霧は言った。
「人格の、崩壊......」智也はそれを恐ろしく感じた。
「まあ、【眼】を見れば魔術師を見分けるのが楽ではあるけど、気をつけないとそうなる可能性もあるからね。私も何度かなったことがあるし」
「......魔導書に込められていた【眼】もですか?」
朝霧はこくりと頷いた。
「あの【眼】は私の人格を何か別のモノに変えていた......と思う。これだけ長く生きていても、あれほどの恐怖を感じたことは無かったよ」
「朝霧さんはどうやって人格の崩壊を回避したんですか?」智也は訊いた。
「それはね。『記憶の転写』と言って、本に自身の記憶を移す魔術を使ったんだよ。当時は記憶を消す魔術が完成していなかったからね」
「なら、その記憶を封じた本ってどうしたんですか?」
「ああ、それなら実家で封印している。捨てようと思ったんだけど、何かに使えそうだったから......」
「朝霧さん......それは流石に捨てるか何かするべきじゃ......」
「......実を言うと、その本は戒めみたいなものなんだ。危うく死にかけたことへのね。だから残している。『神の眼』の元凶を見つけて消すまでは封印するつもりだ」
「神の眼の元凶探し、僕も協力しますよ」
「ありがとうね......でも、こうして【眼】のことを話せるなんて初めてだから嬉しいよ」と朝霧は笑った。
「僕もです。信じてくれる人がいましたけど、実際に見えている人と話すとまた違った感動があります」
「そうだよね」と朝霧はうなずいて言った。
しばらく談笑した後、朝霧が唐突に言った。
「そうだ、折角の機会だし、【眼】とは全く関係ないけど神についての話でもしようか」
智也としても神については詳しく知りたかったので聞くことにした。
朝霧は語り始めた。
「まず、神と聞いてイメージするのは人の姿をした後光がさしている感じの神様だろうけど、実際は違う」
「異形......ですよね?」
「その通り。神は私の知っている限りでは【予言の神】以外は全て異形だ......じゃあ智也くん。単刀直入に神の正体とは何だと思う?」と朝霧は言った。
「......非常に強力な魔物、とかですか?」
智也がそう言うと、朝霧はどこからか取り出したマルバツボタンでブッブーと音を鳴らした。
「残念不正解」
「どっから取り出したんですか......?」
「ああ、それは後で教えるよ。とりあえず、正解は"世界"だ」
「えっ?」予想のななめ上の答えに僕は素っ頓狂な声が出た。
「どう言うことですか? 世界が神だって......」
「簡単に言えば、神とは超自然エネルギーより発生する"意思を持った世界"そのものなんだ。超広大な亜空間が固有の超能力を持っていて、しかも人間よりも高い知能を持っていると思うとその危険度がわかると思う」
朝霧の話から、神は亜空間そのもので、固有の特殊能力を持っている意思を持つ存在だと智也は解釈した。
「なるほど、確かに神が亜空間(世界)そのものだとするなら、殺すことはほぼ不可能ですね」と智也は言った。
「まあ、だからこそ神を殺せるアルファスの短剣は重要なんだ......あと、人間は神と契約すると魔法を得ることができるけれど、それは私たちの魂に神の"世界"を植え付けられることだ。だから多くの人間は神と契約しようとしない」と朝霧は言った。
「......なら、神はどう言った人間と契約するんですか?」と智也は尋ねた。
「主にその神の信仰者。あとは魔力の多い人間と好んで契約しようとするね。だから君のように魔力が多いと好んで契約されやすいってことだね」
「なるほど......」と智也は言った。
「そういえばこの前三柱の神について教えてくださった時に、【神性】という言葉を聞いたんですが、あれってどう言う意味なんですか?」
「ああ、神性というのは神の持つ固有の性質のことで、神性発生要因となった超自然エネルギーによって変わってね、それによって世界の殻......つまりは神の肉体の形もそれによって決まるんだ」と朝霧は言った。
神の発生要因となる超自然エネルギーの種類によって神の性質(神性)は変わり、それによって神の器である肉体も変化するということだほう。
「神というのは本当にスケールが大きいですね......」智也は言った。
それと同時に未来改変への不安が大きくなったような気がした。
「あ、そうそう」と朝霧さんは思い出したかのように呟くと、朝霧は「ちょっと私の右手をよく見ていて」と言った。
すると、朝霧さんの右手に突然Gが現れた。
「うわああああ! って、驚かせないでくださいよ!)
「ごめんごめん」と朝霧は笑って誤った。
「それ......何かの魔術ですか?」智也は言った。
「違うよ。これは神との契約時に自分の魂に植え付けられた神の世界の中にモノを収容、取り出しているんだ」と朝霧はフィギュアを出し入れしながら言った。
「もしかして、蛇骨教の教祖が使っていたやつですか?」
「多分それだよ。収容する時と取り出す時に少し魔力を使うけど便利だからやってみるといいよ」
「......どうやってやればいいんですか?」
「うーん、モノに触れて自分の中に招き入れるイメージをすればできるよ。出す時は入れたモノを外に出すイメージで」と朝霧は言った。
智也は近くにあったボールペンを手に取ってやってみることにした。
(あのアイテムボックス的なことが出来るってことだよな.....それなら出来たらすごい便利だ)と智也は思った。
言われた通りやってみると、触れていたボールペンが突然手元から消え、それからボールペンを外に出すイメージをしてやってみるとボールペンが再び手元に現れた。
しかし、そのボールペンは形状がグニャグニャに変化しており、まるで空間ごと歪められたのではないかと感じた。
「......こ、これは、収納とか以前になんかヤバいですね」と智也は驚いた。
「そうみたいだね......どうやら智也くんの中にある神の世界は相当に危険なものみたいだ」
少し残念だったが、自分にもできるということはわかった。
それから、時間も遅くなってきたので智也は家に帰ることになった。
「それでは、今日は帰りますね」
「うん。今日は色々と話せて嬉しかったよ。来週はここを休みにするつもりだから、また再来週に来てくれ」
「わかりました。それでは」智也はそう言い残し事務所を後にした──
「......さて、来週の間に【智慧の魔女】を探し出さないとね」朝霧はそう呟いた。
◇◇◆◆◇◇
とあるビルの屋上、一人の女性が街を見下ろしていた。
黒く長い髪に、赫い瞳を持つその女性は不気味に笑っている。
「気まぐれでやったに過ぎなかったけれど、思いのほか面白いことになった。まあ、少し干渉し過ぎてしまったけど......」
初めは気まぐれに過ぎなかった。
故流取という魔術師が面白い計画を立てていたのでせっかくならと、あの少女に首飾りを渡し、誠太という人物を身を挺して守ろうとするのか見てみた。
結果、彼女は身を挺して誠太を庇った。
私は感動した。人の思いの強さというのはこうも力を持つものだと。だからこそ、面白いのだと。
「さて、私もそろそろ暇潰しをしている場合じゃないか。ふふ、二ヶ月後の満月が楽しみだ」
彼女はそう呟くと夜空に浮かぶ月を眺めた。
月が一瞬、奇妙に蠢いた──
読んでいただきありがとうございます。
もしよくわからない点や設定について聞きたいことなどありましたら改善するので教えていただからと嬉しいです。
設定解説
●【眼】
主人公と朝霧にのみ見えている目のような赫い光。
恐ろしい出来事の前に笑うような動作をし、ほとんどの生物に付いている。
【眼】が見える人間は二パターンあり、先天的に見える者と、『神の眼』と呼ばれる魔導書を読み後天的に見えるようになった人間がいる。
この【眼】がどう言ったモノなのか、なぜ存在するのかは現在のところ不明。
また【眼】には瞳孔のような部分があり、魔術師のような"魔力を知覚できる人間"はその瞳孔が開いており、瞳孔部分に穴が空いている。その奥を覗き込むと覗かれた者の記憶を体験し、最悪の場合相手の人格と混ざり合い本来の人格が崩壊する危険性がある。 以上。




