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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第1章 禁忌への入り口
14/88

これからも

楽しんでいただけると嬉しいです。

 夢を見た。


その夢は草原、砂漠、森林といった世界中のバイオームがつぎはぎにされたような夢だった。


その夢の中では十数人ほどの人々がおり、彼らの人種や服装は全員違っていたが、そのほとんどは老人だった。その様子は、まるで本来別々の場所にいる人々がなぜなここに集められたようだった。


その人々は横一列の状態で立っており、そして一様(いちよう)に夜空を見上げていた。智也も彼らの横に並び、夜空を見てみるとそこには満天の星空が広がっていた。


 ある時、一筋の流れ星が見えた。すると、智也たちの目の前に神々しい(こうごうしい)光を放つ一人の人物が現れた。


その人物は中性的な見た目で、美しいと感じるような見た目をしていた。しかし抽象的なイメージは出来ても、具体的な表情などはなぜか思い出せない。


 そして、その人物は夜空を見上げる人々の前に立ち、その一人一人に何かを伝えていった。


やがて智也の目の前まできたその人物が何かを伝えようとした時、突然智也の背後に悪寒が走った。


 振り返ると、地平線の向こうから黒い何かが迫ってきており、夜空の星々は消えていっており、それがどんどんこちらに近づいて来ているのがわかった。


星も、大地も全てが真っ黒な闇に呑み込まれて消えていき、やがてその闇は智也のいる場所まで呑み込んだ。


地面が闇に呑まれて無くなり、智也は真っ暗闇に落下していった──




 そして気づくと智也は布団の上にいた。


「夢......だったのか」智也は思わず呟いた。


落下する感覚は鮮烈に残っており、高いところから落ちる悪夢を見たようだった。


 あの夢の中の人々は何だったのか、あの人物は何を伝えたかったのか......考えれば考えるほどわからない。


ふとスマホを見ると、時刻はⅤの男と戦った次の日の十三時だった。


「......待て、今日は月曜......ということは、寝坊している!」


急いで起きようと思ったのだが、もう今日は行かなくていいと思ったので、昨日の疲れを癒すために二度寝した。


 そして一時間後に目覚め、お腹が空いていたので二階から一階に降りて適当なものを食べることにした──



冷蔵庫を開くと中にはラップで包んだ米しか無く、オカズが何も無かった。仕方がないので智也は買い出しに行くことにした。


 彼が家を出ようと来た時、玄関のチャイムが鳴った。


扉を開けるとそこには紗由理がいた。智也は立ち話もあれだと思い、紗由理に家に入ってもらった。


「智也くん起きたんだね。昨日は本当にありがとう」と紗由理が言った。


「いえいえ......ところで、昏は学校に行ってますか?」


「うん。眠そうだったけど学校に行っていたよ。智也くんは......寝坊したみたいだね。ごめん」


「いえいえ、寝坊したのは自分のせいなので気にしないでください」


「そう言ってくれると嬉しいよ......ちなみにご飯はもう食べた?」と紗由理が言った。


「食べてないです」


「なら、昏が昨日の昼に作ったご飯がまだ残ってるから持って来るね」


「はい。ありがとうございます!」


 そしてしばらくすると紗由理は容器に入れられたアジフライを持ってきてくれた。


「鮮度は魔術を使って保ってあるから安心してね」と紗由理が言った。


「魔術ってそんなことも出来るんですね......今度教えてほしいです」


「いいよ、今度教えてあげる。さ、食べて。まあ私が作ったわけではないけど......」


 紗由理は料理が出来ないため、料理はほとんど昏がしている。



「ははは、それじゃあいただききます」


食レポは上手く出来ないが、美味しかったとだけは言える。あと一日ほど経っているのにサクサクぐあいが残っているので鮮度を保つ魔術の凄さがわかった。


 昼を食べてしばらくして紗由理が話を切り出した。

「昏から智也くんが魔術を知っていることとかを教えてもらっているたし、朝霧さんにも色々と事情を聞いたから大体のことはわかっている。けれど一つ聞かせて欲しい。どうして神と契約したの?」


 紗由理の表情は真剣だった。


「朝霧さんも何の神と契約したのかは知らなかった。多分だけど契約の内容で伝えられないことになっているのでしょう?」と紗由理が言った。


 智也は「......はい」と答えた。


「......どうして神が人間と契約すると思う?」と紗由理は言った。


「......気まぐれとかですか?」と智也は聞いた。


「確かにそれもあるけど、一番の理由は自分を強くするためだ」と紗由理は言った。



 神と契約した者は魂に神の一部を植え付けられ、その神の一部が魔法を使うごとに自身の魂と肉体をむしばんでいき、やがてその魂は神の一部となってしまうのだと。


「智也くん、神は人間のためなんかでは無く、自身の力を強くするためだけに人間を利用するの。神からすれば私たちは道具にすぎない。契約自体危険なんだ」紗由理が智也に強く言った。



 とは言え、神と契約しなければ過去に戻ることだって出来なかった。仕方の無いこととも言える。けれど紗由理は智也のことを心配していると気持ちが伝わってくる。


「......確かに、神との契約は危険なことだと思います。でも、僕は神と契約してでも叶えたいことがあったんです......その決心は今も揺らいでいません」智也は真っ直ぐに紗由理を見つめた。


「......まあ、もうどうにもならない話だしね......智也くんが強い意志を持って契約したのはわかって良かったよ。ただ、その魔法がどんなものでも今後使わないでほしい」と紗由理は言った。


「そこは大丈夫です。一度しか使えない魔法なので」


「そう、なんだ......ちなみに体に変化とかは無いよね?」と紗由理が言った。


「無いですよ」智也は言った。


「そうか。それなら良かった。とりあえず、私は家に戻るよ」と言って紗由理さんは帰ろうとしたがふと思い出したように智也に言った。


「あと昨日やろうとしてた、たこパを今日やるって昏が言ってたから、後で家に来てね」


「わかりました!」


 そして紗由理は家を出た。


(そう言えばたこパして無かったな......)智也は思った──



 そして夕方になり、少しお腹も空いてきて頃僕は昏の家に行った。智也がチャイムを鳴らすと昏が出迎えた。


「さあ入って。具材は多めに買ったからたくさん食べていいよ。ということで、焼くのは任せた!」と昏が元気よく智也に言った。


「いつもの感じね。任せとけ!」と智也は返した。


「じゃあ、早速たこ焼きつくろうか。色々具材あるけどまずはどれがいい?」と紗由理が言った。


「じゃあ......ジャガイモ!」と昏が言った。


「いきなり変わり種選んだな!」智也は言った。



 紗由理は肉類は食べられ無いが魚介類は食べられるペスカタリアンなので、こうして肉類を使わないたこ焼きなどを一緒に食べている。


(そう言えば、未来のあの日もたこパしようとしていたな......結局出来なかったけど......)


 唐突に目頭めがしらが熱くなった。しかし二人がいるので涙が出ないようにこらえた。


「......智也、どうかした?」と昏が少し心配するように言った。


「どうもしてねえよ」智也は言った。


 しんみりするのは良くない。智也はこの時間を楽しむことにした。


「お姉ちゃん。たこ焼きにマシュマロ入れてみない?」と昏がマシュマロを手に言った。


「たこ焼きにマシュマロ......? そう言うものなの......? どちらかと言えばマシュマロ餃子とかの方が......」紗由理が言った。


「大丈夫。小さめにちぎって入れればいいよ。ということで、よろ!」と言って昏が智也にマシュマロの袋を渡した。


「丸投げかい! ちょっと待っててくれ」


 それから、たこ焼きのたこの代わりにマシュマロを入れてみたのだが、正直微妙だった......


「なんか、あれだね......思ったより.....」と昏が少し渋い顔をして言った。


「ま、まあ。マシュマロはまだあるし普通に焼いてみようか」と紗由理が言った。


 こんな他愛もない会話にも、なぜか感動している自分がいた。それは過去に戻ってからずっと心の中にあったある思いをより強くした。


(この日常を守りたい)智也はそう強く思った。


◇◇◆◆◇◇


 時は流れてゴールデンウィークとなった頃、智也は探偵事務所で朝霧さんと会っていた。


「.....ついにこの時が来たか」と朝霧がふざけたように言った。


「な、何の話ですか......」智也は言った。


「言ってみたかったんだよ。まあ本当の話をするとゴールデンウィーク中に智也くんには『空門ゲート』を覚えて欲しくいんだ」と朝霧が言った。


「おお、ついに! でもどうしてゴールデンウィーク中なんですか?」智也は尋ねた。


空門ゲートは高等魔術だから覚えるのには時間がかかるんだ。だから時間があるうちに覚えて欲しくてね」


「なるほど」


「じゃあ、早速教えていくよ」


──それから智也は朝霧から空門ゲートを教わった。


 空門ゲートは自分の近くに自分の行きたい空間と繋がる穴をつくるというもので、日本古来の古代魔術から改良された空間魔術の一種だ。


魔術連はゲートの使用を制限する代わりに一目につかずゲートを繋げるための隠し場所を作っている。魔術師は基本的にはその場所にのみゲートを繋げることになっているのだ。


ちなみに魔術連のバッジを着けているとその場所がわかる。



 智也の適正魔術は空間魔術だったが習得にはそれなりの時間がかかった。それほど難しい魔術だったのだ。


とは言え時間はかかったものの習得は出来た。なので試しに空門ゲートを使うことになった。


「どこか行きたい場所とかあるの?」と朝霧が聞いた。


「うーん、そうですね......あ、決まりました」


 智也は魔術陣を展開して「空門ゲート」と唱えた。目の前にゲートが現れ智也たちはその中へと入った──



ゲートをくぐるとそこは山の中だった。困惑する朝霧を連れて少し歩くと大きな滝が見える位置まで来た。


「ここは......どこなんだい?」朝霧が言った。


「ここは日本三大秘境の一つ『天橋滝あまはしたき』です」


「秘境!?」と朝霧が驚いたような声で言った。


「実は秘境巡りが趣味でして......」


「思ったより渋い趣味してるね」


「よく言われます。昔はよく両親と秘境巡りをしていたんですけど、ここ最近はあんまり行けてないんですけどね......」智也は言った。


「そう、なんだ」


「この秘境が、両親と初めて来た秘境なんです。と言っても、小さい頃なのであんまり覚えて無いんですけどね......」


 そんな会話をしていると、滝に二重の虹がかかるのが見えた。


「おお、すごいね。虹が二重にかかるなんて」と朝霧が言った。


「すごいですよね。滝をまたぐように虹の橋が出来る.......秘境の神秘って感じですね。ちなみに運が良ければ三重も見えますよ」と智也は少し饒舌じょうぜつに話した。


「それは興味深いね」と朝霧が言った。


 それからしばらくの間、智也たちはその景色をぼーっと眺めていた。


そんな時、智也が言った。

「......朝霧さんには感謝しています。見ず知らずだった僕に魔術を教えてくれて、そのおかげで僕はあの男にも勝てましたから......」


 朝霧は智也の方を向いて言った。

「......最初はね、智也くんには魔術を教えるつもりは無かったんだ」


「えっ」智也は驚いた。


「いくら前兆とは言え、危険な魔術師の世界に引き込みたく無いと思ってね。けれど、初めて話した時に君の目から強い覚悟を感じた。諦めの悪い、抗おうと決意した目......だからこそ、私は君に魔術を教えようと思ったんだ」


「......」


「君には強い信念がある。覚悟は勇気となり、正義となり、みちしるべにもなる。だからこれからも、それを見失わないでくれ」朝霧は言った。


「......はい」


「ふふ、私のありがたい言葉にかしこまっちゃったかな?」朝霧は笑って言った。


「ははは、そうかもしれません。流石、大ベテランの魔術師ですね」


「ふっふっふ、そうだろう、そうだろう」朝霧は見るからに笑顔になった。


(朝霧さんってババアとかガキと呼ばれると怒るのに、ベテランとかは平気なんだよな......)と智也は思った。





「............朝霧さん、これからもよろしくお願いします」


「うん。よろしくね」





◇◇◆◆◇◇


 夜、ほとんどの人が寝静まる時間に一人のスーツ姿の男が夜道を歩いていた。


男は酔っ払っているのか千鳥足ちどりあしで歩いていて、ちょうどそこに巡回中の警官が近づいて来た。


「大丈夫ですか? 家の場所とかわかります?」と警官が男に尋ねる。


「ああ、家は、家は......家なんてあったっけ......?」と男はしどろもどろに答える。


「......お酒の飲みすぎですよ」


「酒......飲んで無い。食べた」と男は意味もわからない言葉を言うので警官は困った。


(......とりあえず署も近いし連れていくか......)と警官は少し考えて男に付いてくるよううながし署まで向かった。


(そう言えば、明日は休日だな。たまには家族と一緒に過ごすか......そう言えば、あの子は......)と警官が考えていた時、肩を貸していた男が突然立ち止まって動かなくなった。


警官は声をかけるが反応が無い。男は眠っているわけでは無く、立ちながらぼーっとしている。


「ほら、行きますよ!」と警官は言った。



すると男が「ご飯......いた......いただきます」と呟く。

男の体はまるでゲームで挙動がバグった時のようにブルブルと震え、そしてその目は男を睨むように見ていた。


この光景に驚いた警官は一歩後ろに下がるが、背後の何も無いところにぶつかった。警官が後ろを振り向くとそこにはおぞましい肉塊のような怪物がいた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」警官は驚きのあまり発砲許可を無視して拳銃を怪物に向けて撃った。


しかし、怪物には傷一つつかなかった。

怪物は巨大な口を開くと警官に向かって飛びかかり、赤黒い血飛沫ちしぶきが宙を舞った。


「ご、ごちそうさま.....?」男は不気味に笑い、その場を去った。


そこには警官の死体はおろか、血の一滴さえ残っていなかった──



読んでいただきありがとうございます。

今回で第1章が終わり、次回からは第二章になります。

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