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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第1章 禁忌への入り口
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苦痛の証明

楽しんでいただけると嬉しいです

 夜のため辺りは暗いが、月明かりで男がどこにいるのか程度ならわかる。


男との距離は数秒もすれば拳が届く距離で、相手も満身創痍(まんしんそうい)、智也は『勝てる』と感じた。


 昏に遠くに逃げるように伝え、男の銃声と共に戦闘が始まった。



 智也は『不可視の衝撃』を放つ準備を始め、男は銃の引き金を引き、火花と共に銃弾が放たれた。


銃弾が放たれた音とほぼ同時に智也の体に銃弾が命中する......その寸前に防御魔術が発動し銃弾が防がれ、銃弾は潰れて地面に落ちた。


 智也はその間も魔術陣を展開する。


男は後ろに少し下がった後、銃に魔力を込めた。すると銃に刻まれた魔術陣が活性化したように輝き出し、男はその引き金を引いた。


二度、銃口から閃光が走る。先ほどまでの火花と違い、青い閃光だ。


それが見えた瞬間、智也の体に二度衝撃が走り、それからほんの少し遅れて発砲音が届いた。


先ほどよりも銃弾が速くなっており、それにより威力も上がっていたが、智也の防御魔術はそれも防いだ。


 

(この銃に刻まれた魔術は"加速かそく"。弾速が速くなることで威力もその分上がる。しかし、これが最も活きるのは......)男は鋭い目つきで智也を睨む。


「前兆、貴方の魔力量は常人よりとはるかに高く、その魔術の威力も私とは桁違い......まさしく才能というやつなのでしょうね」男は憎らしそうに笑った。


智也はそれを無言で見つめた。


「けれど、凡人の私でも貴方を倒すことは出来るのだと、今ここで証明しましょう」


 男はリボルバーを右手に持ち、左手のひらを上に向けて言葉を唱えた。

苦痛の証明(ペインバレット)


すると男の左手にあかい銃弾が現れ、男はその銃弾を銃に込めた。そして、リボルバーにも刻まれている加速の魔術を発動させた、智也に照準を合わせ引き金を引いた。


紫色の火花と共に弾丸が音速をゆうに超える速さで放たれ、それは一瞬にも満たない間に智也に接近した。


 避けようの無い攻撃、しかしその銃弾は防御魔術で防げるはずだった──



しかし、その銃弾に防御魔術は発動せずその銃弾は智也の腹部に命中した。しかしながら、それは外傷を負わせることはなく、智也の体の内に入ると消えた。


(怪我は......ない?)智也が相手の攻撃に困惑していると男が唱えた。


痛裂つうれつ


その瞬間、智也の腹部に内側から裂かれるような強い痛みが襲った。まるで体の内側が急激に膨らみ破裂させられるような激痛だ。


智也は地面に倒れ込み、あまりの痛みで息が急激に荒くなった。段々と息が苦しくなっていき、それが苦痛を加速させる。


「どうですか? これが私の"魔法"【苦痛の証明(ペインバレット)】魔弾を打ち込んだ相手に強烈な痛みを与える。大抵の人間は一瞬で失神しますよ」男は勝利したと言わんばかりの笑いをあげながら言った。


 しかし、智也は痛みでそんな話は聞こえなかった。


(とは言え、私も限界が違い......早いところ失神してくれると助かるのですが......)と男は思った。


 男は智也が苦しんでいる様子を傍観し、意識を失うのを待っていた。





(......立たないと......あいつを、倒さないと......!)智也は立ち上がるために足に力を入れた。


 しかし力が入らない。痛みで体が強張っている。それに力を入れるだけで痛みが増す。外傷は無いと言うのに、強烈な痛みという感覚で智也は立ち上がれなかった。


それでも、立ち上がるために渾身の力を足に込めた。裂くような痛みがさらに増して目から涙が出た。それでも立ち上がるのをやめず体中に力を込めた。


気合いを込めた雄叫びをあげ、ゆっくりと智也は立ち上がり、一歩前へと出た。


 男はその光景を見てと非常に驚いた。

(今までの人間にも僅かに耐えられた者はいましたが、そこから立ち上が者なんて......)

男は焦りを感じ始めたのか額から汗が流れた。


(なら、仕方がない......廃人はいじんにする可能性があったのでやりたくなかったのですがね......)男はそう考えた後、魔法を唱えた。

苦痛の証明(ペインバレット)深き探求(パースート)


 男がそう唱えると三つの赫い魔弾が男の手のひらに現れ、それを銃に込めると男は引き金を引いた。


三つの魔弾はそれぞれ智也の右手首と左足のすね、そして頭に命中した。先ほどと同じく外傷は無いが、その直後に強烈な痛みが智也を襲った。


右手首には血が沸騰するような痛みが生じ、左足の方には針で刺されるような強い痛み、そして頭が割れるような酷い痛みが智也に襲いかかった。



「ぐっがぁぁぁぁぁぁぁ!」潰れたような声が響き、智也は再び地に倒れ伏せた。


一刻も早く意識を失わなければ確実に自分が壊れてしまうと感じるほどの異常な痛みの数々が智也に襲いかかった。もはやその痛みは人間の許容の範疇(はんちゅう)を越えている。


 そこには希望は無く、ただ苦痛のみがあった。


意識を失えば楽になれる。段々と意識が消えかけたその時、ふと誰かの声がした。


 智也の名前を呼ぶ声だ。


「智也!」その声は近くから聞こえた。

そしてやっと気づいた。その声は昏のものだ。


 視界の端に昏の姿が映る。遠くに逃げるよう伝えていたのに、彼女はなぜか智也のそばにいた。


心配そうな声で智也の名前を呼ぶ彼女の表情は見えないが、想像は出来る。


 その時、智也は気がついた。苦痛から逃げようとしていたことに......苦痛の先にあるものを信じられず、目の前にあるはずの苦痛の向こうを掴む前に、諦めて楽になろうとしていたことに......



 智也は失いかけていた意識を取り戻し、苦痛の先のある"証明"のために再び立ち上がった。


 体中が言葉で言い表せないほどに痛んだ、楽になりたいという気持ちは未だに捨てきれない......けれど、もう倒れない。


 智也は拳を固めてゆっくりと男に向かって走り出した。あまりの痛みでろくに思考がまとまらない。故に魔術を使えるほどの余裕が無いのだ。智也はただ愚直に、真っ直ぐに走った。


男はそんな少年を化け物でも見るような目で見た。自分が見ているものが"絶対にあり得ないこと"だったからだろう。


(なぜ立てる? あり得ないだろう......?)男は無意識に一歩あとずさりする。

男は気がついた。自分が無意識に智也を恐怖したことに......



 男は震える手で智也に銃口を向け引き金を引いた。しかし、それは智也の真横を掠めただけで当たることは無かった。


「く、来るな!」男は情けない声で叫ぶ。


 智也はお構いなしに男に突っ込み、そして渾身の拳を男の頬に叩き込んだ。その拳は男の頬にめり込み、そのまま男は地面に勢いよく叩きつけられた。


土煙がバッと舞い、智也は男を見下ろすように立っていた。息を切らしながら、智也は言った。

「僕の......勝ちだ」




 すると、今まで感じていた痛みがスッと消えた。


智也は後ろに手をついて地面に座り込んだ。



男は言った。

「......なぜ、あの痛みに耐えられたのですか? 私の与えた痛みは人間を廃人にするレベルの痛みでした。だというのに、貴方は立って、私に一撃を入れた......なぜです?」


「......もしここで負けたら、僕は誰も守ることは出来ないと思った。だから意地でも立ち上がった。自分が人を守れると"証明"するために......お前は強かったし、ノックスって奴への忠義みたいなのもわかった。でも、お前は僕の友達に怖い思いをさせた。僕はお前を許さない」智也は男に言った。


男は諦めたように言った。

「......貴方のような人間を見ると、自分がちっぽけな存在だと自覚してしまう......だからこそ、大きな人間の役に立つことで自分の存在意義を認めたかった。けれど、それも失敗した......貴方も大きな人間だった......私の負けだ」


「......二度と、人に手を出すな。もっとも、お前たちは魔術連の人に捕らえてもらうけど......」言葉の途中、突然体がふらついた智也は野原に大の字になって倒れた。


どうやら今までの疲れが来たようで、そのまま眠ってしまった──


◇◇◆◆◇◇



 目が覚めると、昏の顔が見えた。

そして頭には暖かい感触があり、智也は膝枕されていることに気づいた。


星空がよく見える。


「あ、智也! えっとこれは......」昏は少し恥ずかしそうにしていた。


「ああ......悪い、足痺あししびれてないか?」と言い、智也は起き上がった。


「う、うん......大丈夫......」昏の顔は少し赤かった。


(昏のやつ、急にどうかしたのか? 膝枕なんて......)智也も顔が少し熱かった。




 どうやらここは先ほどの草原のようで、入ってきたゲートもすでに閉じてしまっているうえ、携帯も圏外で繋がらないのでとりあえず朝を待ってから行動することにした。


「ごめんね......逃げるように言われてたのに戻ってきちゃって......なんか智也の危機って感じがして」と昏は言った。


「いや、おかげで助かった。昏がいなかったら多分、気を失ってた......僕もまだまだだよ」


「そんなことないよ。この前も、智也に助けられたし」


「......ありがとな。そう言ってくれると嬉しいよ」智也は照れくさそうに言った。


「こっちこそありがとう。こうして助かったのも智也のおかげだよ」


「まあ、僕のせいでこうなった訳ではあるがな......」と智也が言うと昏は少し怒った。


「それは違うよ。前にも言ったけど、私もその覚悟で智也と一緒にいるし、第一悪いのはあの男だから」と気絶している男を指差して言った。


男はどこから取ったのかわからない縄で縛られていた。


「まあ、一件落着だね。ここがどこかはわからないけど......」と昏が言った。


「そうだな......とりあえず、今日は野宿になるかな......」


「そうかも......」




 その時、近くでゲートが開き、二人に聞き馴染みのある声がした。


「昏、智也くん!」それは紗由理の声だった。


「え、お姉ちゃん!」


「二人とも無事かい?」と朝霧の声もした。


「朝霧さんも来てくれたんですか!」



「二人がいつまでも帰ってこないから探したんだよ。私だけじゃ探さないから朝霧さんにも来てもらったの」と紗由理は言った。


「でも良かった、怪我は無いみたいだね」と朝霧は安心したように言った。


(まあ、外傷は無いけど......)と智也は内心思った。


「そこに倒れているのが、誘拐の主犯だね。私はこいつらを魔術連に連れて行っておくよ。三人はこのゲートで家に帰ると良いよ」と朝霧は言った。


「朝霧さん、本当にありがとうございました。じゃあ二人とも行こうか」と紗由理は言った。



「あ、さっきその男が言っていたことなんですけど、この倒れている男の組織のリーダーがアルファスの短剣を持っていると言っていました」


「え、本当に?」と朝霧は驚いた。


「はい。でも、今は使えない状態だとこの男は言っていました」


「そうか......とりあえず、魔術連で尋問してみるよ。それじゃあね、智也くん」


「はい」


 三人はゲートをくぐり家への帰路に着いた。

智也は疲れからかベッドの上で横になるとすぐに寝てしまった。



 かくして、智也たちの長い一日は終わった。たこパを犠牲にして......



──これは数日後に聞いた話だが、男と黒服たちは全員、魔術連で拘束され尋問を受けたが口を割らず、さらに、体の中に特殊な魔導具を埋め込むことで情報の流出も不正でいたため新しく情報を得ることはできなかったらしい。


 そしてアルファスの短剣の話だが、現状は使用出来ないことや、所有している神を殺した人間ノックスを警戒し、現在のところは回収はしないとのことだった。




◇◇◆◆◇◇


 ステンドグラスがきらびやかに輝く教会のような場所で大柄で筋肉質な男と、一人の美しい青年が話していた。


 青年の胸元にはローマ数字の「Ⅰ」のバッジがあり、大柄な男の方にも「Ⅲ」のバッジがあった。


「Ⅰよ、Ⅴが魔術連に捕らえられました。いかがしますか?」と大柄な男が青年に向けて言った。


「Ⅴは私が救出に行くよ」と青年は言った。


「承知しました。して、Ⅰは前兆に災厄の阻止を任せても良いと思いますか?」と大柄な男が尋ねた。


「そうだね......前兆がⅤの魔法を破ったという話が本当なら、私的には前兆に災厄の阻止を任せても良いと思うよ。あれを耐えるにはかなりの精神力が必要だからね」


「なるほど......」


「さて、そろそろ僕たちも準備を始めようか。"魔術連"との戦いに向けてね」青年は男に向かってそう語った。


 その青年こそ救世団のリーダーであるノックス=ドーム。

彼の瞳は金色で、その瞳の中には夜空のように水色の光が浮かんでいる。人とは少し違うような異質な気配を持つ彼はアルファスの短剣を頭上に掲げた──



読んでいただきありがとうございます。 

今回は戦闘シーンになりましたが、描写がうまくいったのか少し心配です...それはさておき、設定解説していきます。

●神の眼

これは魔導書の一種で、物語でも重要なアイテムです。

この魔導書にはその本を読ませようとする力があり、主人公も危うく読んでしまうところでした。

朝霧はなぜかこの魔導書についてかなり詳しく知っており、加えて魔導書の呪いにもかかっています。

かなり難解な呪いですが、簡単に言うと【眼】に関する何かしらの呪いとその内容を伝えられなくする呪いにかかっています。

また【眼】に関することを言おうとした場合は【眼】が睨みつけて来るちょっとしたホラー展開になります。

             そんなところで以上です。

ちなみに蛇足ですが「証明」は英語で

ProofやCertificationです。  

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