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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第五章 氷雨の夜に
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託される青

夜、蚊帳のひかれた室内で、智也と昏は同じ部屋で寝ることになった。


車の騒音も無く、風が植物を揺らす音だけが世界に響いているようだった。二人は眠れず、布団に入って意味もなく天井を見つめている。


智也は昏の方を見た。

「眠れないのか?」


「......うん」


「僕もだよ」



昏が智也に話しかけた。

「なんか、過去にいるって言う実感がまだあんまり無い。お姉ちゃんのことも気になるし......戻れるのかな」


「戻れる。黒戸様の力ならきっといけるはずだ」



昏は紗由理のことをずっと想像していて、悪い予感が頭をよぎるたびに暗い顔をしていた。


連れ去られる間際、紗由理に言われた『いつか必ず戻る』という言葉が智也の頭の中で響いた。



「絶対に戻って、紗由理さんを取り返そう!」



二人は紗由理についてしばらく話をしていた時、昏は突然会話を変えた。

「そう言えば、ずっと気になってたんだけど、智也は黒戸様に会ったことがあるの?」


智也は黒戸様について話そうか悩み、しばらく沈黙した。

「おかしな話に聞こえると思うけど、前に黒戸様の声を聞いたんだ。その時は爺ちゃんを助けて貰った」


「お爺さんを......!? でも、やっぱり、黒戸様はタイムトラベラーだよね」


「話を聞く感じ、そうとしか思えない。ただ、千年以上の長い時間を移動するのが出来ている理由がわからない。一年半移動するのが人間の限界なはず............あ、なんでも無い」

智也は慌てて取り繕った。


昏はその発言を怪しんだ。

「......智也は時空間移動について詳しいの?」


「いや、黒戸様にさっき教えてもらっただけだ」


智也は誤魔化し笑いをしてなんとかその場を切り抜けた。



「まあいいや。話は変わるけど、智也は時空門伝説って知ってる?」


「知ってる。黒戸神社の伝承の一つだろ?」


「そう。お姉ちゃんはなぜかこれについて調べていた。その中に鳥居から現れた未来人の話があった気がする」


「僕も黒戸様の正体は伝承の未来人だと思う。昏はどこでその話を聞いたんだ?」


「二条家の秘蔵書の中に、時空門伝説の本があるの。お姉ちゃんがそれを読んでいたから、私も読んでみたの」


昏が時空門伝説の中で見たものには『鳥居から現れた未来人』『時夜紅葉』『記録を映す神』『銀色の鍵』についての話が書かれていた。

いくつかのページは破られた跡があったが、彼女は大部分の内容は覚えている。


智也が昏から時空門伝説についての話を聞いていると、歩き回ったせいか眠気が襲ってきていつの間にか眠っていた。





早朝、智也は目を覚ました。

隣を見てみると、昏が寝息をたてて眠っているのが見えた。


「............いくか」



智也はすぐに身支度を整えて黒戸様の元へ向かった。そして黒戸様の部屋の扉開くと、黒戸様はちょうど朝食を食べていた。


「おや、早いね」


「早朝になったら来いって言われたので」


黒戸様の食べていたものは、現代の食事と比べると質素だが、今いる時代では豪華な食事である。


黒戸様は『食べる?』と尋ねるが智也は戦う前に飯を食いたく無いため断った。



黒戸様は飯をさっと食べ終わると立ち上がり、境内の裏の広い石畳に案内した。


「それじゃあ、君に倒して欲しい『成れの果て』をここに呼び出そうか」


「結局【成れの果て】って、一体なんなんだ?」


「......そうだね、言うなれば......"君の末路"だ」




智也が石畳の上で立っていた時、突然周囲が黒い闇で覆われて暗くなり、一人になった。


その瞬間、何か大きな気配を感じて智也は振り返った。

そこには青い狼の怪物がいた。

体毛のように見えるオーラは陽炎のようにゆらゆらと揺れ、憎しみを湛えるその青い瞳の奥には虹色の光が蠢いている。


遠崎純也を襲い、深淵教団の使徒の目二人を殺害した強大な次元の神の眷属が現れたのだ。


「青い、狼......」



真っ暗な空間の中に黒戸様の声が響いた。

「その狼は君を追ってこの時間までやって来た。さあ、その【成れの果て】を倒せ。安心しろ、そこなら全力で魔術を使っても構わない。倒せたら、私の教えられる全てを教えよう」


智也は覚悟を決めて狼の怪物に向き直った。

「お前が何を憎んでいるのかわからないが、来い!」


狼の怪物は唸り声をあげて智也を睨んだ。


刹那、怪物の体が青く輝き、その光が口に収束されていく。空間に歪みが生じ、その歪みが怪物の咆哮と共に前方へ照射された。


青い歪みの光線が放たれ、智也に向かって接近する。直撃すれば体が捩れて弾け飛ぶのは目に見えていた。


しかし、智也は避けようとしなかった。


智也は人間大の大きな魔術陣を生み出し、大量の魔力を込めた。

「蒼星の雫!」


魔術陣から蒼い光線が放たれ、青の魔力を呑み込み怪物の体を貫いた。


怪物の巨体に風穴が開いたが、それでも怪物は動きを止めず、咆哮をあげた。

瞬間、怪物の姿が消えて智也の背後に現れた。巨大な鍵爪が振り下ろされ、智也はすかさず蒼い魔力を込めて『流刃』を放った。


しかし、それは空を切った。


周囲には青い霧が立ち込めており、怪物は空間転移を繰り返し、霧からの奇襲をしかけてくる。

空間の歪みを纏った牙と鉤爪は当たれば確実に深手を負うだろう。


(攻撃を避けきれない訳じゃない......相手も深手だ。耐えていれば......)




その時、智也の頭の中に怪物の断片的な記憶が流れ込んできた。


巨大な骨の竜に蹂躙され、無力さに打ちひしがれ、そこからはずっと失って、失って、結局何も救えなかった誰かの記憶。


仲間を殺した者を憎み、異形の怪物を憎み、何よりも、自身の無力さを憎んだ。


別の時間軸、しかし、同じだ。


(そうか、お前は......)



智也は右目に魔術陣を造り、そこに蒼い魔力を流し込んだ。

基本魔術『スコープ』本来の用途は虫眼鏡のように物を拡大して見えるようになるだけの魔術だ。


しかし、時間干渉の力を持つ智也の蒼い魔力を術式に流し込むとその効果は変化する。


『未来視』

智也の右目が蒼く光り、僅かに未来の光景を映している。


この状態ならば、狼の怪物の動きを捉えられる。



「成れの果て、お前は、別の時間軸の僕だ。怪物の蹂躙を止められず、みんなを殺されて、無力な自分を憎んで、自らも怪物の姿となった僕だ......」



智也の言葉に反応したのか、狼の怪物は小さく唸った。


怪物は青い霧の奥に消え、周囲の霧が智也に迫って来た。青い霧にも空間歪曲の力があるため、触れた箇所は空間ごと捻れる。


智也の指が霧に触れて小指と薬指があらぬ方向に折れ曲がった。


「蒼星の雫」


刹那、蒼い閃光と共に霧が晴れた。


目の前には青い狼の怪物がいる。

怪物の体が今までよりもさらに青く光り、その膨大な魔力で全身を覆った怪物は智也に向かって突進の構えをとった。


「お前は無力な僕自身を憎んだ。だから、もう一度、証明してやる。今度こそ、未来を変えられると!」



魔術の融合、新たな魔術を開発するのに最もよく使われる手法だ。ただ、異なる術式体系の魔術を統合するのは容易ではない。


しかし、一ヶ月の苦節の末に智也は遂にそれを成し遂げた。


「『蒼星の雫』・『流刃』」


二つの術式を合わせたこの魔術は膨大な魔力消費の代わりに、全てを切り刻む斬滅の刃を生み出す。


蒼天刃そうてんじん


その蒼の光は、まるで夜空に浮かぶ星空のように、黒い闇に覆われたこの空間で輝いた。空間をも切り裂く無数の蒼の斬撃が突進する怪物の肉体を細切れにした。


怪物は最後に口角を上げたような表情を見せると、空間の歪みが消え去り、青い魔力が花びらのように散った。


その瞬間、黒い闇が晴れて智也は元の石畳の上に戻っていた。



目の前には青い人魂のようなものが浮かんでおり、智也がそれに触れると青い光が智也の体に吸い込まれた。


それと同時に、断片的だった記憶が繋がり、鮮明になった。



黒戸様の声がした。

「無事、倒したようだね」


智也は黒戸様の方へ振り返った。

「............教えてくれ、お前の知ってる全てを」




遂に100話まで来ました。

読んでくれてありがとうございます。

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