理想の職場への第一歩
なぜ人は働かなければならないのか。
この問いに対する答えは至極単純で一つしかない。
そう、生きていく為である。
誰もが、それこそ小学生でも分かる様な当たり前のことを、僕《瀬戸涼太》は真剣に考えていた。
勤労意欲の無い無職と勘違いされそうだが、少しだけ話を聞いて欲しい。
僕はもともと、働く事が好きだった。高校、大学に通っていた時はバイトを複数掛け持ちし、毎月の楽しみは給料日に、自身の貯金残高を見る事だった。
頑張って働いた分だけ自分へと返ってくる。働くってなんて素晴らしい事なんだろう!と、当時は本気で思っていた。
しかし大学卒業後、僕は現実を知った。
大学では情報学部を専攻していた為、入社したのは大手のIT企業。入社当初はやる気に満ち溢れており、どんどん成果を出して出世するぞ!と息巻いていたのだが、実際はそう甘くはなかった。
給料は能力制ではなく年功序列。大手だからと安心していたが、実際はサービス残業のオンパレード。
上司はパワハラ、セクハラやり放題の世紀末の様な会社だったのだ。
(なんでキモいおっさんにケツ触られないといけないんだよ!?)
最初のうちは我慢していたのだが、連日の残業に上司のパワハラ、セクハラのエスカレート。
次第に我慢の限界となり、僕は入社して3ヶ月で退職したのだった。
その後は他のIT企業にゲーム会社、アニメ制作会社など、様々な職に就いてみたのだが、長くは続かなかった。
どこも求人票には良いように書いているのに、実際は休みなし、サービス残業万歳、アットホームでは無い職場。嘘ばっかりである。
社会に絶望し、そこから僕の生活は一変した。
部屋に引きこもり、ゲームやネットサーフィンをする毎日。
自堕落な、ダメ人間まっしぐらな生活を半年程続けていた。
そんなこんなで現在へと至る。
前置きが長くなってしまったが、結論を言おう。
今の僕は、勤労意欲の無いただの無職だ。
社会に絶望したただの無職だ。
しかし、そんな自堕落な生活はいつまでも続くはずがない。
手元にある通帳の残高を確認すると、がっくりと項垂れてしまう。
残高 78200円
学生時代にコツコツと貯めていた貯金も残り僅かとなり、崖っぷちの状態だった。
家賃に公共料金、食費の事も考えると、早々に職に就き、お金を得なければならない。
(・・・・・・ハローワークに行って求人でも見てくるか。)
憂鬱な気持ちになりながらも、生活の為にはしょうがないと割り切り、準備を始める。
気を引き締めるべく、半年ぶりのスーツを着用して、いざ戦場へと僕は向かうのだった。
(願わくば、好条件の求人でもありますように。)
この願いを神様が叶えてくれたのか、はたまた偶然なのかはわからない。
しかし、この第一歩が僕の人生を大きく変えることになるのだった。