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#11 新鉱脈とフェルゼッタ


 セントリス銀山、第三坑道――。

 多くの作業員らの見守る中、フェルゼッタは岩塊除去の作業に没頭していた。


『掘削』


 スキルを発動し、視界を覆うように積み上がっている大量の岩塊へ、不可視の巨大ドリルを押し込んでゆく。

 飛び散る猛烈な火花、朦々たる粉塵漂うなか、けたたましい破砕音とともに、見る間に岩塊は粉砕され、崩れ落ちていった。


「できましたぁっ! あと、よろしくお願いします!」


 ――ここは、つい五日前、セリナ王女一行が落盤に見舞われた、坑道内の横穴である。

 事故が生じた原因は、横穴を補強する坑木の強度がもともと不十分であったことと、数ヶ月に渡って、いわば堀りっぱなしの状態で放置され、奥で落盤が生じていたことにさえ誰も気付かなかったという、現場側の管理ミスによる。


 その一方で、セリナ王女は、この横穴が新たな鉱脈へ通じていると『鑑定』していた。

 それも、相当に大規模な鉱脈であるという。


 それらの状況を踏まえ、採掘事務所の責任者たるホルーザ所長は、「この横穴を正式な新坑道とすべく、補強と再掘削を許可されたい」と、執政府へ上申した。

 執政官ハルケル子爵は、これを承認。採掘事務所は、ただちに計画書をまとめ、人員を選定して現場へ向かわせた――。


 まず真っ先に、横穴の再補強が行われた。第三坑道所属の全作業員を動員して、通常の二倍もの坑木を組み上げ、がっしりと天井を支えさせた。

 そのうえで、前方を覆う、おびただしい岩塊の除去にとりかかる。フェルゼッタも、この作業に参加していた。


 現在、フェルゼッタは採掘事務所の作業員としての登録はそのままに、セリナ王女の「セントリス魔物ハンター組合本部」において、見習いハンター契約を結んでいた。

 こちらはまだ最低のGランクであり、数日中に昇級試験を受けることになっている。試験官はセリナ王女が自ら務めるという。


 セリナ王女と採掘事務所側との話し合いにより、フェルゼッタが無事、試験に合格し、Fランクへ昇格した暁には、正式に鉱山作業員を退職し、晴れて職業ハンターとなることが、すでに取り決められていた。

 ただその前に――第三坑道の「新鉱脈」を探り当て、採掘可能な状態まで、掘削作業を進めておきたい、というのが、採掘事務所側の意向であった。


 ひとたび鉱脈の採掘が始まってしまえば、その後、フェルゼッタが現場を去ろうとも、あとの作業に大きな支障はないはず。それまで、フェルゼッタの力を貸してもらいたい――という採掘事務所側からの提案を、セリナは受け入れた。


 ――それゆえ、いまフェルゼッタは、いわば「最後のお勤め」として、新坑道の掘削と形成に力を尽くしていた。


 行手を塞ぐ岩盤を、不可視のドリルで砕き割る。

 左右や地面から張り出している岩塊を、不可視のカッターですっぱり切り取る。


 砕けた破片や土砂を、不可視の特大シャベルですくい上げ、どんどん後方の車台へと積み上げてゆく――。

 あらゆる障害物を、フェルゼッタが前面に立って除去する一方、作業員らは、積まれた土砂砕石を続々と一輪車で外へ運び出し、それと入れ替わるように大量の坑木を運び込んで、フェルゼッタが掘り進めたエリアの補強を施してゆく。


 そのようにして、ここ数日、作業はきわめて順調に進んでいた。

 ただ一点の懸念を除けば。


「やっぱり、あまり雰囲気を感じないんですよ」

「おまえもか……」

「カンダさん。これ、本当に大丈夫なんでしょうか?」


 第三坑道の責任者だったサイモン・ウィーゼルは、先日の事故の際、セリナをかばって落石を背に受け、重傷を負った。現在、セントリス医科大学病院にて治療中である。

 かわって、サイモンの補佐役であった、カンダという中年の作業員が、現場監督の任についている。


 そのカンダが、同年代の作業員らと、声をひそめてささやき合っていた。

 彼らはセントリス銀山において、二十年以上、銀の採掘に従事してきたベテランたち。


 長年の経験が、彼らに告げていた――この付近に、銀鉱脈の気配はない、と。

 可能性をいうならば、現在、作業を停止している最下層……先日まで掘り進めていたメインの坑道のほうが、よほど銀鉱脈に近いと、彼らは感じていた。


 理屈ではない。あくまで経験と勘がもたらす主観でしかないため、確証はないものの――この時点で、セリナ王女の『鑑定』とやらに、彼らが疑義を抱いていたことは確かであった。

 カンダらが見つめる先、坑道の最奥部では、フェルゼッタと若い作業員たちが、和気藹々と作業を進めている。


 一見、皆のんびり動いているようだが、実際には凄まじい勢いで進行しており、この二日間に限れば、通常の五倍以上もの掘削速度に達していた。


「よ、フェル嬢。そろそろ休憩にしないか?」

「そうですね。ここのでっかい岩だけ、どかしちゃいましょう。それが済んだら、お昼にしましょうか」


 ……そんなやりとりを眺めながら、カンダたちベテラン勢も、ぼちぼち昼の休憩に入るべく、うなずきあって、解散しようとした。

 その矢先。


 炸裂するフェルゼッタの『掘削』スキル――吼えるドリルの甲高い金属音、たちまち轟然と崩れ落つ大岩盤。

 続けて響く、フェルゼッタの奇声。


「ええーっ? な、なんですか、これ!」


 いきなりフェルゼッタが、素っ頓狂な声をあげた。

 作業員らも一斉に驚声を交わした。


「おいおい、なんだ? なにか出てきたのか?」


 と、解散しかけていたカンダらベテラン作業員らも、つられて坑道奥へ駆け寄せ、たちまち全員が眼を見張った。


「なっ、なんだぁ、こりゃあ……!」


 つい今しがた、フェルゼッタが崩した岩盤の向こう側。

 明らかに、他とは組成の異なる鉱脈が露出していた。


 石英と、自然銀のような金属とが入り混じった鉱脈だが、銀ではない。

 まるで星の瞬くように、きらきらと、自ら光り輝く、異様な金属鉱石が、そこにあった。


「こ、これっ……星銀(ミスリル)じゃないか!?」


 誰かが声をあげ、坑道は騒然たる気配に包まれた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 星銀(ミスリル)とは。

 大陸でもきわめて稀にしか採掘されないという、希少金属である。


 外見こそ銀に似ているものの、実際の性質はまるで異なる。

 常に強い魔力を帯びて微発光しており、この世界のあらゆる物質のなかで最高の硬度を誇る。


 星銀(ミスリル)鉱脈には必ず、比較的やわらかい石英や金鉱石が入り混じっているため、採掘自体は困難ではないが、精錬や加工に特殊な設備と高度な技術が必要とされる。

 その美しい外観から、主に宝飾品の素材として珍重される。また、硬度を活かした最高級の武器、防具等の素材として用いられることもある。


 現在、レクソール王国の国宝として、王宮の宝物庫に厳重に保管されている名剣「ヴェニュスパーク」も、刀身に星銀(ミスリル)が用いられ、決して錆びることなく、何をどれほど斬ろうと決して折れることも刃こぼれすることもないといわれている。

 星銀(ミスリル)原石の取引価格の相場は、同重量の黄金の五倍以上。それほど貴重な鉱物であった。


 その星銀(ミスリル)の大規模鉱脈が、セントリス銀山第三坑道にて発見された――。

 この一報は、ただちにセントリスの執政府や、セリナ王女の逗留するベルディス離宮にもたらされた。


 関係者一同、誰もが驚嘆を禁じえなかった。鉱脈の存在を予見していたはずのセリナ王女でさえも……。


「稀少金属の鉱脈だろうとは思っていましたが、まさか、星銀(ミスリル)が出るなんて」


 と、ひとかたならず驚いていたほどである。


 日暮れ頃。

 ベルディス離宮の庭園内に建つセントリス魔物ハンター組合本部執務室にて。


 第一発見者たるフェルゼッタが、採掘事務所の許可を得て、手ずから星銀(ミスリル)原石のサンプルを持ち帰り、組合長たるセリナ王女に提出していた。

 なお、フェルゼッタは、セリナ王女と契約を交わした直後から、離宮内に新設された組合宿舎に引き移り、そこで起居するようになっている。


 ……デスクに無造作に置かれた原石は、乳白色の晶石と、きらきら自己発光する星銀(ミスリル)がまだら模様に入り混じり、あちらこちら、砂金の粒がのぞいている。星銀(ミスリル)に限らないが、採掘直後の貴石の原石は、だいたいこのような状態である。


「凄いですね、これは……。わたしも、原石を見るのは初めてです」


 デスクの前で、さしものセリナも興奮気味のように見えた。頬には、かすかに朱がさしている。


「組成は、どういう感じなのでしょう」


 ……と、原石を『万象』にて、あらためて鑑定してみる――。

 ややあって、セリナは、衝撃に打たれたように、眼を見開いた。


「これは」


 ただの、興味本位からの鑑定だった。

 ……大きな発見があった。


 おそらくまだ世間には知られず、解明されてもいない星銀(ミスリル)の唯一無二の真価。

 それを『万象』が暴き出したのである。


 一刻も早く、この発見を子爵に告げねばならない、とセリナは判断した。


「どうしたんですか? 殿下」


 フェルゼッタが、きょとんとした目をセリナに向ける。


「なにか、問題でも?」

「いいえ。むしろ、素晴らしいことです。――この星銀(ミスリル)が、今後、わが国と魔物との戦いの結果を、大きく左右することになるかもしれません」

「そ、そうなんですか?」

「わたしはこれから、執政府へ出かけます。いますぐにでも、星銀(ミスリル)専用の精錬施設を立ち上げなければなりません。フェルゼッタ、あなたもついて来てください」


 そう告げるや、常日頃の落ち着きもどこへやら、セリナ王女は立ち上がって、執務室から廊下へと駆けだした。


「ああ、待ってください! そんなに急ぐと――」


 フェルゼッタが慌てて後を追う。

 案の定、というべきか。


 セリナはすぐに息を切らし、執務室からわずか数歩離れたところで、もう膝をついていた。


「……あの。フェルゼッタ」

「は、はい?」

「わたしを……背負ってください。馬車まで、連れて行ってください……」

「わ、わかりました。では」


 かくてセリナ王女は、フェルゼッタの背に小さな身体を預けて正門まで移動し、そのまま馬車に乗り込んだのであった。



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[良い点] 舞台背景、主人公達の個性や特徴もあらかた説明が終わり、いよいよ物語が大きく動き出しそう [気になる点] 続きが凄く気になる [一言] 筆者さん、お忙しいとは思いますが、無理せず頑張っていた…
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