8話 エルフのルワ
「は〜い、すぐ行きますよ〜」
どこか気抜けたような声が木の中から聞こえてきた。その声はどこか親しみやすく優しげな声であった。
一体どのような人物が出てくるのか気になったアツトはルクスに尋ねる。
「この声が知り合いの長老さん?」
「そうだよ! とっても優しくて賢くて、それに元気な人なの!」
「へぇ、すごいなぁ」
「でしょでしょ! あ、ほら! 出てきたよ!」
ルクスが指差す方に目を向けたアツトは腰が抜けてしまった。幹からすり抜けるように出てきた長老は身長は120cmほど、服は緑のワンピース、頭には花と葉で作られた輪っかをつけており、顔は18歳ぐらいの女性のようだ。
にわかにも“この人”を長老だと信じきれないアツトは再びルクスに小さな声で尋ねた。
「長老って本当にこの人? なんか若々しいんだけど!」
「あぁ、言い忘れてたね。この森のエルフ達は歳をとっても、その見た目はほとんど変わらないの」
「え、そうなの!? それで今何歳くらい?」
「ワシは2000歳じゃ!」
「うわ、びっくりした!」
長老はアツトに急に返答した。驚いたアツトはまたまた腰を抜かし、痛そうに尻を抑えている。その姿に長老は高笑いすると、ルクスに話しかけた。
「ルクスちゃん久しぶりじゃのう、こんなに大きくなって、元気だったかい!」
「うん! いつも通り元気!」
「ほっほっほ、それは良かった良かった。それで、今日は何の用じゃ?」
「うん、それなんだけどね……」
ルクスは長老の元を訪れたワケを説明した。今、街中で怪異《この世界の人間》が人間《アツトの世界の人間》に取り憑き、様々な事件を起こしていること。また、そんな悪者を退治するための旅に出ること。そして、そのための仲間が必要なこと。
ルクスのその真剣な眼差しを長老はじっと見て頷くと、ニコッと微笑んだ。
「ほっほっほ、そういうことかい。その目はホンモノなんじゃろうな。しかし、その怪異《この世界の人間》が人間《アツトの世界の人間》に取り憑くと、場合によっては本人達も手に負えないほどの力を持つ者もいるし、それは敵対者かもしれない。それは覚悟しているかい?」
「もちろんです! だよね、アツトくん!」
「え? あ、はい! 2人の相性、まるでご飯とカレーみたいです!」
「もう、カレーって何よ! 面白いなぁアツトくんは、ハハハ!」
(こ、この世界にはカレーが存在しないのか?)
「ほっほっほ、確かにアツトくんという少年も確かにいい目をしておる」
(ルクスちゃんとアツトくん。確かに魂の波長がかなり合っているように感じる……もしや、この2人が言い伝えの……!)
長老はしばらく目を閉じ、“何か”を考える素振りを魅せると、今度はゆっくりと目を開き話し始めた。
「では、本当に旅に出ることができるか確かめるぞい。まずはこの森を出てしばらく歩いたところにある洞窟に向かってほしい」
「洞窟かー! そこで何を?」
「そこにある銀色の丸い石、通称エギライトを取ってきてほしいんじゃ。泉の浄化に必要でのう」
(水槽みたいだな……)
「それを取ってくることができれば、エルフを1人紹介しようかのう。それもかなりの実力者を、じゃ」
「実力者だって! それは心強いよね、アツトくん!」
「そ、そうだね……」
「良ければ洞窟までその子を同伴させてもいいぞい」
「ぜ、ぜひお願いします! ほらアツトくんもお願いして」
「え、あ、お願いします!」
「ホッホッホ。それじゃ呼ぶぞい。ルワ〜、ルワ〜!」
長老はルワという名前を連呼した。その途端、それまでは自由気ままに森の中を飛び回っていた光が2つの列をビシッと作り出し、すると泉を挟んで長老の住む大樹から集落の入口への道が完成した。
そして……泉の中からホワァーンと光が浮かび上がり、小さな人間ほどの形に変化した。淡いエメラルドグリーンのサラサラロングヘアーに華奢な体つき。身長は90cm前後だろうか? ルクスとは対照的に、見るからに大人しそうだ。
「んぅぅ……眠いですぅ……」
「この子がルワ。この集落でも指折りの実力者じゃ」
「こ、この子が本当に……?」
アツトは人違いではないのかと疑っていた。しかしルクスは違った。どうやらルワの実力を既にある程度理解したらしい。ルクスは疑心暗鬼なアツトの肩をポンポンと叩き、誇らしげな顔でアツトに耳打ちする。
「この子、絶対すごいよ! だってオーラが違うもん」
「オ、オーラ……」
「ホッホッホ。ルワよ、2人にあいさつしなさい」
「はい! え、えっと、泉の中で盗み聞きしてました! 大塚さんの所に行くんですよね! 道中には危険なヤツらも多いので後ろから付いていきます、よろしくお願いします!」
(ワードセンス独特だな! それに大塚さんじゃなくて洞窟だよ……)
アツトはルワを心配していた。本当に実力者なのか? また、ルワが仲間になったとしても大丈夫なのか? と……




