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3話 フュージョン・イン・アナザーワールド

 朝日が登るとアツトは心地よい風と共に目覚めた。眠い目をこすりながらも昨晩ルクスから貰った地図を見ながら歩き始めた。


「ふむふむ。ここを道なりに進んで、美容室の見える交差点で右折、と……」


 地図の示すとおりに進むと、確かに美容室の看板が見えた。


“∂ξΔ∃◇ ◑☆”


「美容室、かぁ……って何で文字が読めるんだぁ!?」


 思い返せばおかしい。大体、ルクスの地図が読めること自体不自然だったのだ。“道なりに進んで右折”、日本語でも英語でもない、見たことも聞いたことものない言語の指示をスラスラと読めていたのだ。


 まさか自分も怪異”に移り変わっている最中なのだろうか? バクバクと高鳴る心臓を抑えつつアツトはルクスの家を訪ねた。インターホンを鳴らし、ドアをドンドンドンと何度もノックする。


「ねぇルクスさん! おかしいよ、文字読めるんだけど! オレ英語すら仮定法でつまづいてそのままなのに!」


 通行人に怪しい目で見られているのを物ともせずノックを続けていると、カランカランという湿った鐘の音と共にルクスが寝巻き姿で現れた。


「あぁ、キミかぁ。どうしたのよ」


「ねぇオレ文字読める! 怖いよ! 初めて見る言葉なのに!」


「いつまでドア叩いてるのよ、ほら恥ずかしいから入って入って」


「う、うん……」


 アツトは背中をポンポンと叩かれ、連れられるようにルクスの家へと入った。


「さて、私がキミをここに連れてきたのは他でもなく、この世界の統治者になってほしいから!」


「と、統治者?」


「うん。最近ね……」


 ルクスは急に深刻そうな顔で続けた。



「こちらの世界の人間……キミの世界で言う怪異とか魔物がキミの世界に行き、そこらの人に取り憑いたり操ったりして事件を起こすって事例が前からあったの。私達に取り憑かれた人間は心身両面で過剰な拒絶反応が起き、かなり攻撃的になったり、他にも普通ならしないこと、できないことをいとも簡単に行うようになったり……そんな存在がこちらの世界で犯罪行為をすることがかなり増えて、治安は最悪になった」


(治安悪いならなんで外に置いてけぼりにしたの……)


「そんな時だった。異世界がどうこう、みたいな書物をたくさん読んでるキミのことをおばあちゃんの占いで知った。だから人間世界に向かって、キミを連れてきた。こっちのこと理解してくれるの早そうだったからさ、それに黙って言うこと聞きそうだったし」


「そ、そういう理由で連れてきたんだ……」


「でも犯罪者たちもやることは同じだった。人間を金銭などで釣り、こちらの世界に連れてきて大暴れさせて。さっきも言ったけど、人間と私達の相性は水魚の交わりでね、人間たちの潜在的なものを引き出すことができる」


「オ、オレは犯罪しないよ」


「違う違う!キミに取り憑きはするけど、変なことはしない!ただキミのパワードスーツになるだけよ」


「取り憑く……ってさ、意識も奪われるのか?」


「私はしない。テレパシーで話しかけはするけど、体のコントロールはあなたに権利がある」


「へ、へぇ……」


 どうやらルクスはアツトに戦ってもらう気のようだ。しかしアツトは不安でいっぱいだった。なぜならアツトはかなりの運動オンチで、50m走も9秒代後半、ハンドボール投げも5m程度しか投げられず、また握力も25kgほどしかない。いくらパワードスーツを着用しようともポテンシャルなどたかが知れている、異世界転生系の小説読んでる運動神経いいヤツなんて探せば全然いるだろ! そんな気持ちだった。


 なんとか嘘ついて早く帰りたいなぁ、そんなことを考えていた矢先だった。外から何やら物が壊される音が何度も何度も響いてくるのだ。異変を感じたルクスとアツトはインターホンのカメラから外の様子を見ると、大きな尖った耳を垂らした深緑色の人間が斧で無差別的に住宅街で暴れていた。


「何だあれ? 人間ではなさそうだが」


「……あれが私が説明したばかりの、怪異に取り憑かれた人間よ。肌は深緑色、耳は鋭角な三角形、でも服装はキミみたいなものだし、髪の毛だって生えてる。ゴブリン族の誰かが人間に取り憑いたんでしょうね」


「あ、あんなのが蔓延しているのか……」


「ねぇキミ! 今からキミに取り憑く。だからあのゴブリン追っ払ってよ、この近くには幼い子どもたちだってたくさん住んでる!」


「い、意味分からないよ! いきなり追っ払えなんて……」


「いいから!」


 ルクスは思わず声を荒らげた。身勝手でありながらもフレンドリーでどこか親切な先程までのルクスとはまるで別人だ。その気迫に押されたアツトは思わず首を縦に振った。


「じゃあキミ、大の字に腕を開いて、あと目は瞑ってて!」


「こ、こう?」


 アツトは言われた通りのポーズを取った。すると後ろから何者かが抱きつき、絡まるような感覚を覚えた。熱い。まるで真夏のアイスクリームが徐々に溶けていくような感覚が全身を襲った。そして意識までもがとろんと溶けていき、それに合わせて全身の力も抜けていってしまった。


「ル、ルクスさん……パワードスーツを着るどころか、逆に力が抜けていくんだけど……」


「いいから私に任せて!“合体”の主導権は私、“その後の責任”はキミ! 今は黙って静かにしていなさい!」


(ここをこうして、このようにすれば……よし、うまくいったわ!)


 その瞬間、ルクスとアツトまばゆい光に包まれた。その光は窓から外にまで放たれ、ゴブリンも思わず目を塞いだ。


「グッ! 何ダ、コノ光!?」


 ゴブリンがやっと目を開けることができると、そこに立っていたのは1体の何かだった。先端は黒髪だが大部分はダークブラウンの髪に金のメッシュカラー、羽に尻尾、そして赤い角を蓄えた丸メガネの中性的な顔立ちの者だ。


「誰ダ、コイツハ!?」


「オレか? オレはこの世界の統治者となる異世界から舞い降りた男子高校生、アツト様だ!」

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