25話 満月のおもいで
ユウヤ達は一旦近くの宿へと逃げ込んだ。ロビーで息を切らしていると、女将が心配そうに声をかけてきた。
「あらあら、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「すみません! なぜかギャグを言ったら、面白くなさすぎて運河が凍りつモゴ、モゴモゴモゴ!」
「ちょっと正直に言わないでよ! ……なんでも無いんです、ちょっと魔物に追われちゃって!」
ルクスは慌ててユウヤの口を塞いだが、時すでに遅し。確実に聞かれていただろう。罪人を匿っては女将まで処罰されることは想像に難くない、追い出されるのをルクスが覚悟したその時、女将は笑い出した。
「あー、あの運河なら心配いらないよ、ハハハ!」
「え、どういうことですか?」
「最近ねぇ、時々運河が凍る事件が多発してるの! どうやら魔物のせいみたいで、不思議よねぇ。火山のお陰で、運河の水は年中温かいはずなのにねぇ」
「そうだったんですね……」
ひとまず安堵した。良かった、これでアツトが裁かれることはない。3人が胸を撫で下ろしていると、女将が気を利かせてルームキーを渡してくれた。
「あんた達、見たところ旅人じゃろ? それも正義のヒーローってところ。お題はいらんよ、英気を養ってぜひ運河凍結事件を解決しておくれ」
「「「……ありがとうございます!」」」
言葉に甘えて、3人は部屋で休息をとることにした。時刻は13時、昼ごはんを食べるにもちょうどいい時間帯だ。
アツトは部屋に備え付けられているお品書きを眺めている。
「へぇ、ここのホテルって部屋にメニュー表が置いてあるんだねぇ」
「この世界ではそれが普通なんだ! アツトくんのところは違うの?」
「うーんそうだなぁ、ジュースとかお茶とかが置いてある時もある、ってぐらいかなぁ」
「そうなんだね! なら一回食べてみてよ、この世界の旅館では安価でグルメが楽しめる」
「うーん、じゃあどれにしようかなぁ……うーん」
アツトは悩んでいる。というより、困惑している。なぜなら、見たこともない料理名がズラリと並んでいたからだ。
中には牛丼とか味噌汁とか見慣れたものもあるが、「ホシニグサの魔法煮込み」とか、「ニンニをかけて育てた鶏のハーブ包み」とか、あまりイメージが湧かない料理がたくさんある。
ここは無難に行くべきか、それともこの世界にしか無さそうなものを頼むべきか……
ユウヤが決めかねていると、ルクスが勝手に注文を入れてしまった。
「すみませーん! メロンノナマハム、くださーい!」
「メ、メロンの生ハム!?」
ワケが分からない。“ハム”なんだから肉、せいぜい魚から作られているはずではないのか。確かに生ハムの食べ合わせとしてメロンって有名だけど、確実にルクスは「メロンと生ハム」ではなく「メロンの生ハム」と言っていた。
可能なのか、果物を生ハム化させるなんて。いや可能なのだろう、この世界においては。
心配するアツトをよそに、ウェイトレスがそのメロンの生ハムとやらを持ってきた。
「お待たせしました、メロンノナマハムです!」
「こ、これはあああああああ!」
登場したのは、アツトにとって何度も見たことのあるビジュアル。ご飯の上に茶色のルー、色とりどりの具材に何と言っても食欲をそそるあの匂い。カレーだったのだ。
「ル、ルクスさん。これってカレー……」
「だからカレーって何よ、もーっ! これはメロンノナマハムっていう、この城下町の名物料理なのよ」
「えぇ、そうなんだ……」
見た目が酷似しているだけで、味はなのだろうか? それとも、ネーミングだけが異なるだけだろうか。何はともあれ、いただきます!
「パクッ……え、これ美味しい! やっぱりカレーはどこで食べ――」
「これがメロンノナマハムなんですねー! ウワサには聞いていましたけど美味しいですねー!」
「でっしょー! 福神漬けも合うんだよねーこれ」
(ハハハ……まぁ、何でもいいや)
「「「ごちそーさま!」」」
カレー《メロンのナマハム》をたいらげた3人は風呂を済ましたり部屋で遊んだりしていると、すっかり夜になっていた。
「わー、アツトさんにルクスさん! あの月、キレイですよー!」
「わっ、ホントだ! アツトくんもおいでよ」
「え? あ、うんっ!」
ルワとルクスに呼ばれて窓から眺める景色。そのてっぺんには、丸くてきれいな月が浮かんでいたのだ。そんな中で、アツトがふと、つぶやく。
「……この世界でも、月ってあるんだね」
「うん、あるよ? どうしたのよ、アツトくん」
ルクスは不思議そうだ。どうして、そんな当たり前のことを言うのだろうと。だが、アツトはむしろ過去の思い出のことで頭がいっぱいだった。
「今はもう引っ越したんだけどね、昔幼馴染と近所だったんだ。花摘んだり追いかけっこしたりで遊んでたんだけど、ある日突然お別れになってさ」
「うん……それでその子がどうかしたの?」
「最後の思い出作りとして月を眺めたんだ。あの日はとても素晴らしい満月だった。それで約束したんだ。空を見上げて満月が浮かんでたら、時々お互いのこと、思い出そうって」
「えー! それ素敵すぎますよ、アツトさん!」
「なんだぁ、アツトくんも女の子との思い出、あるんじゃん! このこのー」
「や、やめてよっ……それに、ルクスさんとオレがあった日も満月だった。月は人と人の出会いと別れのシンボルなんだ、オレの中ではね」
「……かっこいいこと言うじゃん、たまには」
「た、たまには!?」
「ハハハハハ! やっぱり面白いんだから、アツトくんは!」
3人は月光の下で盛り上がっていた。これもまた、月が用意してくれたひと時なのかもしれない。




