23話 謎の兵隊
「ちょっとまずいんじゃないのこれ! バレたら捕まるんじゃない!」
「うーるーさーい! バレたらアツトくんのせいだからね」
「えぇ……理不尽な……」
ルクス達は兵隊の後を着けていく。一体どこに向かい、何のために出動しているのかは不明だが、とにかく後を付けていく。
人混みをかき分け、どんどん兵隊を追いかけていく。なんせ5人も兵隊が出動しているのだ、それなりの騒ぎがあったのだろう。少し不安になる気持ちを抑え、到着したところは広場であった。よく見ると、複数人のゴブリンが馬車を取り囲んでいるではないか。
「オラオラオラァ! さっさと金持ってこんか、さもなくばこの馬車は永遠に動くまい!」
「さもなければ! 無理やり火山にでも連れてってやろうかぁ?」
「早くしろ、本当にやるからなー!」
「何あれ!? あのせいで馬車、来なかったんじゃない!?」
「うーん、それにしても一体なぜ……」
「ん!? よく見てください、何やら武器のようなものを持っていますよ!」
「ん? あ、ホントだ!」
ルワが指摘した通り、ゴブリン達はナイフを持って何やら騒いでいる。恐らく、強盗やハイジャックの類であろう。このままでは街の人達が危ないし、何より山へと進めない。
ルクスはアツトの顔をじっと見た。今から戦うよ、絶対にそういう意味だ。アツトもリュックを降ろしていざ戦うぞと決意した瞬間! 兵隊の中の1人が鎧をジャキジャキと脱ぎ捨てると、中から人間が現れた。
「えっ!? あれ普通の人間だよね!?」
「ええ。あれは怪異ではなく、アツトくんと同じ!」
「オイ、これってまさか!」
「……そんなはずねぇだろ! ほらさっさと金よこしやがれよ!」
「え、あれって人間?」
「聞いたことはあるけど、本当にいるとはな」
「うおっまじか、おふくろに報告しなきゃ」
兵隊の正体にゴブリン達もギャラリーも困惑している。初めて人間を見るのだろうか、だがそれも当たり前だろう。アツトにとってサキュバスやエルフが架空の存在であったように、こちらの世界では人間が架空……とまではいかなくとも、知る人ぞ知る程度の存在なのだから。
その男はニヤリと笑うと、指を口に咥えて高らかに口笛を吹いた。
その途端、ゴゴゴゴとどこからか地響きが起き、地面が揺れ始めた。
「キャッ、何これ! 地震!?」
「あの兵隊さん、とんでもないですー!」
「うおおっ、机の下に隠れなきゃ……」
ルクス達が慌てていると、すぐ側の畑の土がムクムクと隆起し始めた。何だ何だと皆がその畑に注目していると、そこから太い手が、足が、そして頭が生えてきた。そして口笛を吹いた兵隊が高らかに叫んだ。
「オレに憑依しろ、ジミー!」
「……承知」
畑から現れた《《何か》》が兵隊に取り憑いた。まるでアツトとルクス、ルワがそうしたように、茶色い繭の中から現れたのは岩と泥をまとった巨大な人間だ。
「グオオオオオオオオ! 平和を脅かすヤツは、オレが許さんっ!」
「おい、何だよコイツ! まさか、ニンゲンてやつか!?」
「まさか実在するとはな……野郎ども、アイツをぶちのめせぇ!」
「「「ラッシャー!」」」
ゴブリン達は一斉にナイフを掲げ、謎の男に向かって総攻撃を仕掛け始めた。街行くギャラリー達もその様子をざわめきながらも見守っている。
一方、謎の男は全く怖気づいていない。それどころか余裕すら感じ取れる。ニヤけを抑えきれずにいるその男は、ボソっと独り言を呟く。
「人間に憑依していない、純粋なゴブリン。流暢に話せ、意思疎通が容易だからこそ潰し甲斐がある」
その男は大きく息を吸い込み、その体を自ら地面に叩きつけるように勢いよく地面に伏せた。するとそこからパキパキと地面に敷かれたレンガが割れ、そのヒビがゴブリン達を円状に包み込んだ。
「悪よ、二度とその面見せんじゃねぇぞ!」
ヒューーーン、ドカアアアアン! 男がゴブリンを指差して宣言した瞬間、赤い光とともにゴブリンは空へと打ち上がり、爆発した。その姿はまるで、夏の夜空に舞い踊る打ち上げ花火のようだ。
「ひ、ひぇえーーーー!」
「お、覚えてろクソ野郎ォォォ!」
「……捨てゼリフ、紅き花火の、残響か……っと」
男はゴブリン達が弾け飛んでいくのを見終わると、指を鳴らして“ジミー”を引っ剥がした。ジミーは再び地面に潜っていくのを見送り、鎧と兜を着用し直し、他の兵隊達に並んで再びどこかへと歩いていった。
広場は歓声で溢れている。馬車についた窓にも、どこか安堵した表情の乗客が見える。ルクスはこれで馬車が動き出すことに一安心していたが、アツトは今の兵隊のことをかなり気にしていた。
「あの人、オレのように自由自在に怪異を憑依させて……」




