19話 謎のサキュバス・サーティン その2
「な、何する気なの?」
ルクスが怪訝になっていると、サーティンはいつの間にかアツトの後ろから腕を絡め、耳元で囁いた。
「目的のための憑き先はアンタに決めた。ウテ……ルクスちゃんと同じサキュバスだもん。きっと相性いいわよ、このコンビ」
「う、うわ……やっぱリアルのは違う……」
妖艶な吐息がいちいちアツトに襲いかかる。その度全身の力が抜けていって……アツトの腕は既にフラフラだ。それでもなお続けるサーティンと、それを止めようとするルクス。
「アツトくん、そいつからすぐに離れて! そうしな――」
「いいの、いいのよアツトちゃん。ほら、このまま楽になっちゃいましょ」
「うわぁ、もうダメ……ごめんなさい、ルクスさ……ん……」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!? よくわかんないけど……喰らえ、草魔法――」
「うるっさいわねぇクソエルフ!」
「きゃっ!」
アツトを助けようとしたルワはサーティンに蹴り飛ばされ、そのままぐったりとしてしまった。
「ル、ルワさん!」
「ル、ルワちゃん!」
「それじゃ。本番と行こうね、アツトちゃん……」
「や、やめてよ! う、うわああああああああああ!」
アツトの周りに紅く眩い光が煌めく。でもそれはどこか鮮やかというよりは恐ろしく、不気味なものだった。光の中からはアツトのもだえ苦しむ声が聞こえてくる。慌ててルクスも助けようと近寄るが……紅の光は他の者の接触を拒むかのように、まるで同じ極同士を近づけた磁石のようにルクスを弾き飛ばしてしまった。
「きゃあっ!」
紅の光はやがてどんどん萎み、そしてようやく中から1人の人間が姿を表した。
髪は紫と紺色のグラデーション、それはまるで天の川銀河のように美しい。角と羽、そして尾を生やした人間。ルクスが取り憑いた時とは少し違うアツトがそこにはいた。
「へ、へへへ……何故だか、邪悪な欲が浮かんできてしまうや……」
《キャハハハ! サキュバス族の本表発揮、ってところかしら? さてアツトちゃん、あのクソ共を始末しなさい!》
「……こ、こうやったら、いい、ですか……」
壊れたロボット玩具のようにギギギギと両腕を持ち上げ、ルクスとルワへと向ける。完全にアツトはサーディンの言いなりだ、このままでは間違い無くバッドエンドだ。
ルクスは立ち上がり、身を挺してアツトを助けようとする。
「強制離脱魔法をかければ……アツトくんとサーティンを助けられる! えいっ、リトープ!」
「うわ、何だこれ……力が、抜けていく……」
「な、何よこれ! 許さないわよウテグニス!」
不思議な色の光がアツトを包んだ瞬間、アツトとサーティンのもがくような声が中から響いてくる。ルクスはその様子を必死に見守る。
だんだん2人の手足や頭が現れる。そしてポンッという音と共に2人は分離、お互い倒れてしまった。
「やった! 成功したみたい!」
「痛てて……変な感じだったよホント……」
「くっそおおお! ウテグニス! やりやがったわね!」
「私魔法色々使えるの忘れたのかしら? 観念したらさっさと出ていくことね」
「……チッ! わかったわよ。だけど勘違いしないで! 絶対また現れるから」
サーティンは立ち上がり、足早にルクスの家を出ていこうとする。ドアを乱暴に開けて振り返り、最後にアツトに向かってメッセージを残した。
「ど〜お? アタシの憑依は。アタシならアツトちゃんの才能、もーっと引き出せると思うけどなぁ。それじゃあまた、今度会おうね、かわいいアツトちゃん」
「何よアイツ、色目使いすぎでしょ! アツトくん、これは忠告だけどアイツとは金輪際付き合っちゃだめよ! ろくなこと起きないんだから」
「え、あ、はい……」
ルクスの家に突如現れたもう1人のサキュバス、サーティン。彼女との邂逅が、後々大変なことを引き起こすなんて、この時は思いもしなかった。




