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18話 謎のサキュバス・サーティン その1

「ねぇねぇ! いるのはわかってんのよ、ル、ク、ス、ちゃぁんっ!」


 ドアを叩く音の合間に聞こえる謎の女の声にルクスの目つきが鋭くなる。拳を固く握って腕を震わせ、ようやく小さな声でつぶやいた。


「……アイツが来た」


 アイツ? 一体何のことだろうか、全く状況を理解できないアツトとルワを置いてけぼりにしてルクスは玄関へと歩き出す。まさか喧嘩でもするのか? あわててアツトは引き止めようとする。


「おい、何事かわかんねぇけど手荒な真似はやめ――」


「黙ってて、アツトくんは!」


「ひ、ひぇっ!」


 ルクスは声を荒げた。いつものルクスからは想像できないその形相に思わずアツトは腰を抜かしてしまった。だが、決してルクスのことを信じられなくなったとかイメージが悪くなったとか、そういうことは決してなかった。なぜなら、一瞬見えたその瞳に、うっすらと涙が浮かんだように感じたからだ。

 ルクスはドアノブを掴み、ひと呼吸置くとバタンとドアを開けた。

その向こうに立っていたのは……何と、ルクスと同じく、角と尾をこしらえた女であった。

 服装はルクスと同じく黒いレオタードだが、髪は紫色と薄い水色のグラデーションを描いており、角の色も黒にかなり近い紺色だ。それに身長も一回りルクスより高く、全体的にスレンダーだ。その謎の女はルクスと目を合わせると、わざとらしく微笑んで手を横に振りながら口を開いた。


「あらぁ、久しぶりね。こんな家に住んじゃって、一般市民って感じねぇ」


「何でここにいること知ってるのよ、それにもう関係ないでしょ、アンタとは」


 ルクスの話し方はいつものそれとは真反対だ。いつもを太陽とするならば、今はまるで新月……。無愛想にしているが、その中で確実に相手に威圧感を放っている。


「あらもう、人の名前はしっかり読んであげるモノよぉ、ねえウテグニスちゃ……じゃなくてルクスちゃん!」


「チッ……いいから黙りなよ、サーティン」


「あら名前覚えてくれてんじゃん! このこの〜」



「何なんだ、あの人……」


 相変わらずアツトが混乱していると、サーティンという女がこちらを見ると、ニコッと笑って話しかけてきた。


「あらあら、ウテグ……ルクスちゃんのお友達? アタシはサーティン。ウテ……ルクスちゃんと同じサキュバス族なんだよ〜」


「えぇっ? あ、はい……」


「見たところかなり大人しそうね? でもアタシそんな子好きよ、だだって……」


「……え、ん、どこ行った――」


「アタシの思う通りに、色付けられるんだからっ! ほら、こんな風に……連続吐息、タァイム♡」


「ひ、ひゃっ!」


 いつの間にかアツトの背後に回っていたサーティンは、6発右耳に吐息を吹きかけた。ASMRのものよりもさらに全身がゾクゾクするその感覚に、またまたアツトは思わず腰を抜かしてしまった。流石のルクスも呆れ顔だ。


「もぉ、アツトくんは……」


「ふ、不意打ちに弱くて、ゴメン……」


「キャハハハ! まぁ、いいコンビなんじゃないの、この2人。世界を救う夢を見ることができるくらいには、ね」


「ちょっとアンタ! なぜアンタがそれを――」


(……え、どういうこと? なぜそのこと知ってるんだ?)


 流石にアツトもその違和感に気付いた。なぜ、久しぶりに再開したのだろう程度の知り合いがオレ達の旅の目的を知っているんだ? もしかすると黒幕の側近とかなのか? アツトは警戒心を強める。


「キャハハハ! 知りたい?」


「べ、別に! ただ邪魔するってなら考えがある」


「素直になりなよ、ウテ……ルクスちゃん。まぁ、アンタを始末するためにゴブリンを派遣したの。そいつが帰ってこないから、倒されたのかと思って現地に赴いたらルクスちゃん達がいたってこと」


「……まさか、後をつけていたのも!」


「そうっ! アタシがずっと監視していたの。何かしでかさないか気になったのもそうだけど……アンタを絶望させて始末するためにね」


 サーティンはまるで闇夜のように黒い翼を広げ、宙に浮かびだす。その漆黒の翼からは何ただならぬ恐怖を感じる。確実に只者ではない、確実に話が通用する相手ではない、と。


 突然雨が降り出し、ゴロロロと空が呻き始めた。森を出てから家につくまでは晴天の空だったはずなのに、いつの間にか天気は急変していた。


「さぁ、アタシに聞かせて。苦しみ悶え、そして泣き叫ぶ最高の音楽を!」


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