16話 森への帰還
アツト、ルクス、ルワの3人は森へと帰ってきた。エルフ達が泉の周りで遊び回っている中、アツトとルワが先頭に立ち長老を呼んだ。
「長老様〜、今帰りました! エギライト、たくさん採ってきましたよ!」
「ほいほい、今行きますよ〜」
長老はすぐに出てきてくれた。笑顔で3人を出迎えると、アツトの背負うリュックを見て口を開いた。
「ほう、そのカバンからかなりのエネルギーを感じるのぉ。それぞまさしくエギライトじゃ」
「それで……この石で泉をキレイにできるんですか?」
「その通りじゃ。それではルワ、よろしく頼むぞい」
「は、はい! 分かりました!」
ルワは少し手こずりながらもアツトのリュックを開け、中からエギライトを1つ持ち出し、泉の前に立った。そして深呼吸を2度行ったかと思うと、フワッと浮いて泉の真ん中まで移動した。すると何も触れていないはずの水面に波紋がフッと現れ、一定のリズムを刻むように何度も円を描き続けている。
「……し、神秘的だ」
アツトはあまりの美しさに言葉を失う。
「うぅ、やっぱり私、ダメみたい……」
一方、ルクスは少しアツトのリュックや泉から離れ、木にもたれかかって少しダルそうにしている。まるで車に酔ったかのように呆然と横の景色を見ている。
それから20秒ほど経過しただろうか、ルワは50cmほど浮き上がり、エギライトをゆっくりと丁寧に手から離した。すると不思議なことに、エギライトがまるでホタルの光のように発光し、タンポポの綿毛のようにゆっくり、ふわふわと泉に落下していく。明らかに物理法則に反するその現象にアツトが混乱したのもつかの間、泉はまばゆい光を放ち、森一面を包み込んでしまった。
「ひゃっ……! やっぱりこれ、何回見てもびっくりします……!」
「うわっ! 何だ、眩しすぎる!」
「うぅ……誰か助けて……」
周りからもエルフの驚く声が聞こえる。きっと何回見ても慣れないほどに眩しいのだろう。しかし、逆に言えばそれほどまでに凄まじい力を持つのがこのエギライトなのかもしれない。アツトは早く光よ止んでくれと心のなかで唱えると共に、これまでの日常では空想でしかなかった科学が、魔法が、そして世界が広がっていることに心を躍らせていた。
ようやく光が薄らぐと、そこには鏡のように美しい泉があった。さらには夏場のシャワーミストのように近くにいるだけで心地よさを感じられ、またその水面を見ているだけで怪我や邪気が消えていくような、それほどまでに美しい泉だ。元々美しく神秘的な泉であったが、浄化することでそれは何十倍にまで跳ね上がった。
それを見た長老は拍手しながらアツト達を褒め称えた。
「ホッホッホ。泉が本来の姿を取り戻せてよかったわい。それにアツトくんが持っているそのカバンの中にある大量のエギライト、それだけあれば数十年は安泰じゃろう」
「そうなんですね、よかったです」
「それじゃルクスちゃん、先程の旅の件じゃが……ルクスちゃん? ずっとぐったりして……まさか、そこまでエギライトが苦手じゃったか?」
長老の向く方にアツトたちも目を向けると、未だにぐったりとしているルクスが目に入った。泉のことで気を取られていたが、ルクスはエギライトの近くにいるとなぜか体調を悪くしてしまうのだ。あわててアツトはリュックを地べたに置き、ルワと一緒にルクスの方へと駆け寄る。
「大丈夫? ルクスさん」
「立てますか? まず体力回復させますね、えいっ」
ルワが魔法でルクスの体力を回復させると、ルクスはだいぶ楽になったようで申し訳無さと笑顔の混じった表情で呟いた。
「ごめんね……アツトくん、ルワちゃん」
「ルクスちゃん、すまんのぉ……まさか、ここまでエギライトを苦手としているとは思わなかったんじゃ」
声につられて振り返ると長老もルクスのことを心配して近寄ってきていた。その顔はかなりしょんぼりとした顔で、周りのエルフたちもその背中を悲しそうに見つめている。
「エギライトは一部の種族達の体力を奪ってしまう性質があるんじゃ……サキュバス族はその傾向が強いんじゃが、それでもほとんどの場合はほんの少し疲れる程度……」
「珍しいんですか? ルクスさんのケースって」
「かなりのレアケースじゃ……本当にすまんかったのぉ」
「いえいえ、大丈夫ですよ! 結構楽になってきましたし! ありがとルワちゃん、心強い味方ができてよかったわ」
「そ、そんなっ……! ありがとうございます」
ルワは照れながらニコっと笑った。それを見てルクスも微笑み返した。
回復が得意なルワ、ゲームでいうと「ヒーラー」に当たるのだろう。アツトもルワも、先程長老が言っていた“かなりの実力者”という言葉の意味をいつの間にか理解していたのであった。




