14話 心に咲いた“恋”という花
「んん……ここは、洞窟の外、かしら?」
「おっ、ようやく元気が出てきたみたいだな」
洞窟の外に出たところで、ルクスは元気を取り戻した。空気の薄い場所から抜け出したこともあるのだろうか、早速立ち上がってアツトとルワの背中をポンポンと叩いて話し始めた。
「それで、さっきの石を持ち運べばミッションクリア! って感じよね。ほら早速帰りましょ、私はあの石に触れたくないけど」
「そうですね。ただ帰りも油断禁物ですよ、さっきのドラゴンとまではいかないものの、魔物も潜んでますから」
「まぁその時はさ、俺とルワさんのコンビでバッチシよ」
「もー、ちょっとアツトくん! なんで私じゃないのよ!」
「だってさ、今ダウンしてたルクスさんを無理させたくないし。もちろんルクスさんのことは信頼してるよ?」
アツトはルクスの肩をポンと叩き、ニコッと笑った。ルクスは一瞬ぽかーんという顔になったが、その顔も次第に赤く染まっていき、終いにはアツトの頬をビンタしてしまった。
「う、うわぁっ!」
「な、何よ! カッコつけちゃって! ほら行くよ! エルフの皆も待ってるでしょうし」
「も、もう少し手加減してよ……結構ガチビンタだったじゃん……」
アツトは頬をさすりながらすたすたと歩き始めたルクスの後を追う。それを見てルワも少しニコッとした表情になり、少し後ろから2人の様子を観察するようにゆっくりと歩き始めた。
性格がかなり異なる2人。それなのに波長が合わないということもなく、憑依した・された時の相性も良く、さらにはお互いがお互いを大事なパートナーとして見ている。出会って間もないにも関わらず、既に形成された2人の関係。それにルワは感心していたのだ。
ルクスは相変わらずまるで地団駄を践むようにわざと音を立てながら歩いている。すると、木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。
「い、痛いっ!」
「痛っ……ちょ、どないしてくれんねん! 根がちょっと欠けたやないか!」
「もー、ルクスくんちょっとくらい心配してくれても……」
「ん? オレ今何も言ってないぞ?」
「え? じゃあ今の声は……」
「こっちやこっち! 上を見んかい!」
ルクスの頭上から声がした。そちらをゆっくりと見上げると、そこには木の幹に顔のような模様が入った“何か”がルクスを見下げていた。
「ひゃっ! これってまさか木のオバケってやつ!?」
「オバケって何やねん、失礼な! アンタさっきからドスドス歩いとったけどな、花どんだけ踏みつけるんや、ほら見てみ!」
言われた通りルクスが辺りを見渡すと、たしかに自分が歩いたところにはベターンと倒れた花がたくさんある。背の低い小さな花だったので気付かなかったが、色とりどりの花が元気を失いダウンしているように見える。
「す、すみません……まさか花を踏んでいたなんて」
「それだけやない、ワイの根っこ見てみ! 表面ちょっと削れてるやないかい!」
「ほ、本当にすみません……」
何度もルクスは頭を下げるが、オバケは全くルクスを許すつもりはなさそうだ。それを見かねたアツトはルワに耳打ちした。
「ねぇ、さっき取り憑かれた時にロツメクって魔法があること知ったんだけどさ、あれで何とかなるかな」
「地力回復魔法、のロツメクですね! あの短時間で魔法を盗むなんて……すごいです!」
「マジでオレ、転生してきた勇者ってヤツかもなぁ、ふへへ」
アツトは一呼吸起き、地面に向かってえいっと指を動かした。すると指から綺麗な光がふわっと飛び出し、倒れた花を包み始めた。
「ん? 何か地面が光り始めたで」
「アツトくん、これって……」
「ルワさんと一緒に戦ってる時に身に着けた。上手くいくかはわからないけどね」
綺麗で柔らかな光は倒れた花々を包み、そのまま持ち上げるように空へと上がっていく……かと思ったが、一瞬で消滅して再び花は地面に横たわってしまった。それを見たアツトはなぜか吐血してしまった。
「ごはぁっ!」
「ア、アツトくん大丈夫!? それにしても何故……」
「忘れてました……回復系の魔法は適正がないと自分に大きなダメージが返ってくるんです! 見方を変えれば、治すというよりは自分が無理やりダメージを吸収しているような形になるんです……」
「は、早く言ってよそれ……」
「兄ちゃんあんま無理せんときや……悪くないんやから君は」
「いや、やらせてくれ……花が可哀想だから……」
道端の花にさえ慈悲を抱くアツト。それには深い理由があった。これはアツトが3歳、物心がつく前の話だ。アツトの近所には同い年ぐらいの女の子が住んでいた。年齢も近い2人は近所付き合いで玄関先で親が話したりする時などに度々一緒に遊んでおり、幼いながらも仲のいい2人だった。
ある春先の日、2人は花摘みで遊んでいた。手先で不器用でなかなか花を摘めないアツトを見かねて、隣の女の子は自ら作った花飾りをアツトにプレゼントしてくれたのだ。
まだ恋愛という概念のない年齢ではあるが、何か心のなかで「好き」という感覚がその時芽生えたのだった。
今となっては何となくしかそれを覚えていないアツトだが、この出来事があったからか植物に対してとても優しく接するようになったのだ。
「ま、まだいけるんだ……ロツメ、ク……ふごぉ鼻から涙が」
「アツトくん……」
何度も何度もロツメクを詠唱して植物を助けようとするアツト。ルクスの心の中には、まさに一輪の花が開こうとしていた。




