13話 ドラゴン
「そ、それではいきますよ! 目をつぶっていてください!」
アツトは言われた通りグッと目をつぶると、背中から何かが体内に入ってくる感覚がした。ルクスに憑依される時とはまた別の、体がふわっと軽くなると同時に秘境の澄んだ空気を吸ったときのような爽やかな感覚がアツトの眠気を誘う。
ホタルの光のような柔らかな光から現れたのは小柄でチョウのような鮮やかな羽にエメラルドグリーンの長髪。小顔になりかけていた眼鏡がずれ落ちそうになるのを慌てて手で止めながらアツトは構えを取った。
「さて……退治するといきますか、手加減はなしだ!」
「グルルル……グギャアアアアアアア!」
ドラゴンは間髪入れずに突進してきた。ヨダレを垂らし、鋭い牙をむき出しながらドシンドシンと音を立てている。アツトはヒラヒラと飛翔し、弓を引き絞るようなポーズを取った。するとかすかに緑色の弓矢が現れ、意識せずとも弓を引き絞って放つことができた。
ピカアアアンと不思議な音を鳴らしながら放たれた矢はドラゴンの胴に命中すると、そこから勢いよくツタが伸びてドラゴンを拘束した。
「グ、グルルル……グガァ!」
ドラゴンはその拘束から逃れようと必死に体を動かしているがツタは全く引きちぎられる様子がない。予想外の力に驚くアツトにルワはテレパシーを送った。
《それはエルフ族の伝統的な戦術です! 他にも魔法も使えるんですよ、やってみましょう!》
「確かルクスさんに取り憑かれた時は魔法をいきなり使えてその名前も……あれ、魔法ってどうするんだっけ!?」
《ちょっとこの状況で何をボケているんです――まさか、これが“代償”なのですか!?》
「だ、代償って何!? 怖いんだけど!」
憑依されることによって起こる悪い影響は戦闘本能が刺戟されることだけではなかったのだろうか? 思わずアツトは聞き返した。
《人間に怪異が取り憑くと……それは人それぞれですが、変な効果が出てしまうんです! カタコトになったり、今みたいにアホになったり!》
「アホ言うなや! てか、カタコトってあのオークみたいな感じか!?」
《恐らくそうです……今のアツトさんはかなり頭の回転が悪くなってるんです、ですから私の言う通りにしてください!》
「わ、分かったけど……ドラゴンがこっち向かってきてるよ!」
2人で話しているうちに、いつの間にかドラゴンは拘束を解いていた。言葉の通じない、知能を持たないドラゴンにも自分が攻撃を受けている、しかも時間稼ぎをされたことは流石にバレていたようで、怒りをあらわに更に勢い付けてドラゴンは突進してきた。
《雪魔法を教えます! 基本がシン、次にヤシン、ヒヤシンと続いて最後にヒヤシンスです!》
「や、やっぱり花の名前なのね……」
《いいからやってください、ほら腕を前に!》
「痛い痛い! ちょっと勝手に体動かさないでっ……てば!」
ソフビフィギュアのようにグギギギと腕を前に構え、アツトは一呼吸置いてまさに目の前にまで迫ったドラゴンに向かって叫んだ。
「シ、シンンンンンン!」
アツトが叫んだ瞬間、パキキキと何かが凍るような音が聞こえ始めた。そしてそれはどんどんと大きくなり、顔のサイズほどの大きな雪の結晶がドラゴンに高速回転しながら突き刺さり、そこから冷たい空気が吹き荒れた。
「う、うわぁ! 寒すぎる……」
もはやホワイトアウト状態の洞窟で、微かにドラゴンのうめき声が聞こえたかと思うと、ドシンドシンという足音が少しずつ奥の方へと響いていった。
《アツトさん凄いですよ、今の! シンなんてレベルじゃないです、ほぼヤシンですよ!》
「へへ、じゃあルワさんとも相性良さげだな」
《それじゃ抜け出しますね。ルクスさんにエギライトを見せないように、気をつけてエギライトを持って帰りましょう》
「そうだな、帰ってメシにしよう」
アツト達は鞄の奥にエギライトを詰めて他のものでそれをしっかりと多い、ルクスを介抱しながら出口へと歩き出した。




