12話 エギライト発掘、その矢先
「ヒヒヒ……ヤハリ繰リ出シタカ」
オーク男は相変わらず至極色のボールを見つめ、まるで自身の体に命中するのを待っているかのようだ。流石にアツト達もその異変に気付いたが、あえて攻撃を中止したりというつもりはない。
ゆっくりと近づくそのボールはようやくオーク男にぶつかると、ゴブリン男の時と同じように本性を見せつけ始めた。全身をどんどんと包み込み、すぐさまオーク男をその中に閉じ込めてしまった。
「コノ技……ヒガン系統ノ技ハ、イツカオマエノ精神ヲ闇ニ染メテシマウ!」
「何が言いたい?」
「イツカ分カルサ……スベテハ、魔神サマノ導キ――グギャアアアアアアアアア!」
至極色のボールが消滅するとともにオーク男とその断末魔もどこかへと消え去ってしまった。それを見届けアツトの体からルクスが抜け出すと、アツトは疲労で地べたに手を付き酷く息切れした。
「ハァ……ハァ……ゴブリンとの戦いではこんなに疲れなかったのに」
「まぁ……ここは洞窟だから空気薄いのかもね」
「そういえばそうだ……ハァ……ハァ……」
「だ、大丈夫ですか? 私の魔法で回復させますね、えいっ」
ルワは指をアツトの方へ向けると、その先から何やら青い光がホタルのようにふわふわと飛び、アツトの胸のあたりに吸い込まれていった。するとたちまちアツトは息が回復して飛び上がるように立ち上がった。
「おおおお! 今のなんだ、すっごく元気になったぞ」
「これはニンニって魔法です。 効果はスタミナ回復、激しく動き回った後でも今のでバッチリ元気になります」
「ほへぇ、魔法ってすごいや」
「それじゃあまた進みましょう、もう少しで目的の石はありますので」
「よし、仕事の仕上げと行きますかぁ」
3人は荷物を片付けると、再び洞窟を進み出した。オーク男が現れた時の緊張感はもはや忘れたようで、ルワはまるでバスガイドのように洞窟内を案内している。しかしアツトとルクスの耳にその声はほとんど入ってこなかった。なぜなら、オーク男が消滅間際に放っていたある言葉が気になっていたからだ。
「なぁ、あいつが言ってた“魔神サマ”って何だろ?」
「うーん……何だろうね」
ルクスは見当がつかないや、と首を傾げた。ただのブラフには見えなかったが、かといって今考えてもその答えが出てくるワケではない。もしかすると“近頃街中で暴れまわる人が増えていること”が関係しているのではないかとアツトの脳裏に一瞬考えが浮かんだが、目の前の光景にそれはかき消された。くすみのない白銀色の拳ほどのサイズの石には、所々虹のような色と模様が浮かび上がっている。それでいてその向こうが水中グラスのように透けて見える。それを目の前にしてルワは興奮気味に話し始める。
「これが正真正銘エギライト。とってもキレイでしょう? それもそのはず、一部の国では宝石として扱われているんですから」
「確かにすごいや……こんな物、あっちの世界で見たことない。ルクスさんもそう思うでし――ちょっとどうしたの!?」
アツトがルクスに目を向けると、ルクスはその石を視界に入れないようにしているのだろうか、腕で顔を塞いでうずくまっている。それにどこか、小さく唸り声を上げているようにも見える。流石のルワも異変に気付き、ルクスの背中をさすりながら声をかけた。
「大丈夫ですか? それにしても一体どうしたんでしょうか……」
「その石……! なぜだかわからないけど、とても気持ちが悪いの……なぜかは本当にわからない!」
(もしかして、サキュバスだから……)
アツトはルクスが本能的に聖なるこの石を苦手としているのではないかと感じたが、あえてそれを口にすることはしなかった。ルワと2人体制でルクスを介護していると、洞窟の奥の方から何やら重たい足音が聞こえてきた。さらに、それが大きくなるたびに地面がドシンドシンと揺れる感覚もする。
「何だこれ……もしかして、結構やばくないか?」
「……そういえば、この洞窟って!」
「ど、洞窟に何かあるんですかルワさん!」
「この石を食べて生きている番犬、いいえドラゴンがいると聞いたことが……!」
ズシン、ズシン! その足音はますます大きくなっていく。
「ほ、本当にドラゴンいるのかよ! ぜってぇ勝てねぇ、こんな装備じゃ!」
「い、一旦逃げましょう! ルクスさんを何とか背負って……」
足音がかなり大きくなったと思ったのもつかの間、ランプやエギライトの輝きを黒くて大きな影が包み隠してしまった。そこに立っていたのは……巨大なドラゴンだ。その鱗は岩のように硬そうで、その牙はダイヤモンドすら噛み砕きそうだ。そしてその眼光は……3人の腸だ貫きそうなほどに鋭い。
「どうすんだよこれ……ルクスさんはダウンしててさっきみたいに取り憑いてもらえないし! でもオレが勝てっこないし……」
「……1つ、提案があります」
「提案? まさかルワさんがオレに?」
「そうです。一か八かやってみましょう!」
「えぇっ!? でも相性いいか分かんないよ!? たまたまルクスさんとはバッチシだったけれど!」
ドラゴンはよだれをダラダラ垂らしながらこちらに向かって歩いてくる。もはや迷ってる暇はない。アツトは首を縦に振り、ルワに向かって叫んだ。
「……いや、やるしかない! さぁオレに取り憑いて、今すぐに!」




