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純一郎が「ガイアナ」と書いてあった看板に近づいた。多分この店が啓介との待ち合わせの場所だったはず。その時まで行ったことはなかったが、よく見ていた。外の見た目からすると、昔ながらの純喫茶で、とても歴史を感じた。入ってみると、中の奥のテーブルで、山路啓介が夢中で漫画を読んでいた。店内のほとんどのものがタバコの煙でひどく汚れており、かなり老けた老婆が一人で切り盛りしているようだった。
腰のひどく曲がった店員が、ほぼ実際の意味をとっくに忘れてきたかのように、永遠に「毎度毎度」を言い続けた。
純一郎が啓介のテーブルの席に座ると、彼は一瞬驚いて顔を上げ、純一郎であることに気づく。
「あ、思ったより早いね、、、ワンチャン来ないかと思った」
啓介は読んでいる漫画を閉じて、テーブルの上に置いておいた。表紙からすると、最近流行っているシュールなヤングジャンプ系だった。
「あぁ、そうだな、今日の授業は朝に1回しかなかったから、ちょっと暇だった」
「にゃーるほどね、いいじゃん、、、あ、ラッキー」
彼はそう言うと、派手な赤いコーチジャケットのポケットから古ぼけたタバコのパックを取り出しながら、ニヤリと笑った。彼は金髪で、前髪に赤い縁取りがあるが、すでに染料は落ち始めていて、元の黒褐色の髪が微かに垣間見えてくるようになっていた。ミディアムヘアーの髪がいろいろな方向に飛び出していて、厚くて青いフレームの眼鏡はフケとホコリでレンズが覆われていた。ジャケットの下に着ていたシャツにはローマ字で「VELY COOL OTAC」と書かれていた。タバコ1本を咥えて、ライターを付けることに数秒苦労した上で、火をつけた。
「けど、神崎ちゃんって本当に来てくれんの?ビビッて逃げない?」
「なめるなよ、、、逃げやしないよ」
純一郎は笑いながら言った。
「ま、ぶっちゃけ肝試しってやつに全然興味はないけど、論文の締め切りが近づいてるから、都市伝説の研究として当てはまるなんじゃないかなと
山路君もそんなに肝試しに興味ある感じの人に見えないけど、どうしたの?いきなりこんなことに誘ってきて」
「まぁな、どっちかというと、ネタ探しかな?なんか最近『ガランがんガン』とか『魔人税務署』みたいな、ちょっとシュールでオカルトな漫画色々流行っているじゃん?その辺のインスピレーションを探しているとも言えるかもな
後、ま、、、ちょっと好きな子ができて、彼女も一応誘ったけど、なんか二人きりだと分かりやすいしちょっと気まずいかなと」
純一郎は反射的に舌打ちしてしまった。
「出た、、、やっぱり単純に肝試ししたいって訳ないよね、、、ってか好きな子って誰?」
「この前の、ライブハウスで弾き語りした時って覚える?あの時対バンしたバンドの女性ギタリストのことよ。その時連絡先を交換したから、今回肝試しに誘ってみたら行きたいって言ってくれて!これってチャンスじゃん!」
啓介は相変わらずだなと純一郎は思った。
「じゃ、結局三人で放置されたショッピングモールに行って、見て回るって感じ?」
「そうだね、そういうことかな。まぁ、3人だけだとちょっと少ないかもしれないから、もし神崎ちゃんが誘ってみたい人いれば全然いいよ」
「いや、特にいないよ。ちなみに何時にする?」
啓介がタバコの灰を茶色いガラスの灰皿に落として、彼にしては少し真剣な表情になった。
「それはね、正しいタイミングがあるらしいよ」
「正しいタイミングって、、、?」
「そう、一応、真夜中じゃないとダメらしいし、あと近くにある神社から入る必要もあるみたい」
純一郎がゆっくりと頷きながら微かに眉をひそめた。
「ほう、、、そういうのもあるんだね。普通に都市伝説って感じで参考になりそうだよ」
啓介はニコニコ笑って、でしょうと言った。
「ま、じゃ、そしたら夜の11時に泉黄神社で集合しよう」
彼はそう言ってから、残っているコーヒーを一気に飲んで、タバコの火を消した。