戦火
焼けた土地で彼岸花なんかを摘んで、どうするのだろうか。
贈り物としては不謹慎すぎるきらいがあると思う。私は、弟を眺めて何も言わないでおく。
墓には供えられないよ。
私は裸足の弟が土をけるのを見た。慌てて後を追う。私の心もあなたの抱いた彼岸花とともに揺れている。あなたは浅い川を渡っていくのだ。早く捕まえなくては。
だめ。
絶対。
行かないで。
あなたまで、行かないで。
私を一人にしないで。
私は弟を抱きとめる。水の中で私を押しのけようと抵抗する。幼い手から彼岸花が離れていく。川へ流れていく。
おぼろげな瞳。向こう岸の火に照らされた消えてしまいそうな儚い輪郭。私を見ると青い空を映した瞳が揺れている。
「おとんと、おかんは? 空になんかいない」
あなたは断言する。
私は指を結ぶようにつかんで、残っていた彼岸花も水面に離させた。
おとんと、おかんは、まだ家にいる……。
弟が溺れないように私が抱えて向こう岸まで泳ぎきる。
灰の積もった陸に上がる。
巻きあがった熱風が私たち二人の顔をいさめる。これ以上前に進むなと。
私より弟の方が現実を見ていた。墓にもまだ入れられない。空にもいかない。
私達の家は燃え続ける。焼け落ちた大黒柱の周りに私の箪笥も焦げ落ちている。弟のおもちゃも、もう焦げてしまった敷布団も。鼻から入って喉を焼く臭いが涙腺を刺激する。ここが、住まい。
火の粉をくぐってゆくのだ。まだ火のついた我が家に。
弟の丸っこい頭を抱き寄せる。
ゆこう。二人で。
さぁ、ゆこう。川から上がったその濡れた素足で火に赴く。
おとんと、おかんに会えますように。