Day9、10 苦しみと忘却
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11月10日。
僕の思いなんて一時的だって分かっていた。
分かっているけど辞めれない。
様々な思いが渦巻き、様々な【疑問】が渦巻き、苦しい。
最近、常に頭の中に【疑問】が浮かんでくるようになった。
嫌いな歌手が歌っている部屋で、他の作業をしているような感覚。授業中も、野球の練習中も、音楽は流されたままだ。
秋の大会もベンチ入りできず、チームも三回戦で敗退。
新チームになってから、練習時間も長くなった。これまで午後八時に帰れていたのに、最近は9時が当たり前。
毎日5~6時間睡眠だ。
頭が痛い。
肺が痛い。
カラダが痛い。
寝足りない。
常に心臓が締め付けられる。
真面に息を吸えない。
殆どのチームメイトとそりはあわない。
監督にはトラウマさえ抱いているのかもしれない。
そのことに気づけているかどうかも怪しい。
僕は体も心も腐りかけていた。
僕は怪我をしたかった。
僕はその場から逃げたかった。
現実を忘れたかった。
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11月12日。
「お前レアキャラ手に入れた?」
「いや、まだだけど。」
「あのイベント明日までだぞ!」
「まじ!?まだ一週間あると思ってたわ!」
部室では相変わらずどうでもいい話ばかりだ。
でも、森崎も、キャプテン候補の松田も、仲の良くない他のチームメイトも、皆スマホゲームをやっていた。
だから僕も同じゲームをやった。
ゲームの時は少しだけ話ができた。だけど相手にとっては、流れるようなものなんだろうな。
そして、最近僕はあることに気づいてしまったのかもしれない。
僕は【疑問】という苦しみから逃げるためにゲームをしていると。
辞められない野球部という世界と、細い線一本だけかもしれないが、繋がれる。それでいて、現実を忘れられる。矛盾しているのかもしれない。
仲良いチームメイト、クラスの友人だけではこの『苦しみ』をを中和することが出来ない。
森崎とも楽しく会話するし、鷹取をはじめとしたクラスメイトとも楽しく会話をする。
でもそんなの一瞬で、『野球部』という大きな波に飲み込まれ、【疑問】という激しい雨に流され、跡形もなく僕の目の前から消える。
僕には僕にとっての『麻薬』が必要なんだ。
僕はそこからゲームをやめられなくなった。
行きの電車内、昼食休み、帰りの電車内、家の中、、、
学校の課題は授業中に終わらせる。
成績は何故か野球部の連中よりは良かった。
正直そんなのどうでもいい。
ただ、逃げられない『苦しみ』から逃げたかったのだろう。
一時的でもいいから、忘却したかった。
いや、
僕は世の中という水槽の中で
『外の世界を覗ける隠れ家』を追い求めていたのかな。
どうであれ、僕は新たな『麻薬』を探し求めてしまうだろう。