Day4、5、6 別世界の住民③
あ
僕らは電車に揺られていた。
僕にとっていつもと違う路線だった。
別な世界へと逃げるような感覚が僕にはあった。
僕たちは電車内で話しかしていなかったと思う。
色んな雑談。
二回乗り換えをしたはず。
でも、今日の学校での出来事のせいだろうか、【疑問】が頭の片隅から離れない。頭の中に前世の記憶が残っているかのようだ。
周りの新しい景色の中で、僕の思考は過去に取り残されていた。僕は早く新しい世界へと乗り移りたかった。駅を降りるまでに僕は覚悟を決めようと頑張った。
目的の駅に辿り着いた。有名な観光地となっているこの場所。小さい頃に一度だけ訪れた気がする。
駅を降りて直ぐの位置。
彼が昆虫採集をする場所なだけあって自然豊か。目の前を綺麗な小川が流れている。右手には山へと続く山道があり、石畳の道がくねくねと通っている。
「じゃあ、行こうか。今日はシンジュサンを見れたらいいな。山道登っていこうか。せっかく来たし一応登らないと。」
「うん。」
この山は標高が低く、この時間からでも簡単に頂上に辿り着ける。と彼は説明してくれた。
彼は電車内で鱗翅目について色々語ってくれた。珍しい種、出現時期、時間帯、出現エリアなど。僕は過去に引っ張られつつも、聞き逃してない部分はちゃんとある。でも、話を聞いている時、また別な違和感も感じていた。
僕らは石畳の山道を歩いて行く。まだ外は明るい日差しが照っている。
「何時頃帰るの?」
また余計な【疑問】が邪魔してくる。
「まー終電じゃなくて少し余裕持って帰りたいから、9時ぐらいかな?」
「おけ。」
親には『遅くなる』と連絡は入れているから、多分大丈夫だろう。
早速、通りの脇の空き地や小川の草原で、蝶が飛んでいる。
「ヒメウラナミジャノメと、、、あっちはルリシジミだね。地元でも全然見れるよ。学校の周りでもね。色々探しながら歩こっか。」
こんな風に虫を見るのはなんか懐かしいような、新しいような、、、。
やがて石畳の通路が終わり、ケーブルカーの駅が見えてきた。
「ケーブルカー乗っちゃうか!お金大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
僕らはケーブルカーを使って、中腹まで速やかに辿り着けた。ケーブルカーを降りると、コンクリートで舗装された山道が見えてくる。僕らはそれに従い、頂上へと歩いて行く。約一時間半、僕らはあっという間に頂上へと辿り着いた。
「着いたね」
「うん。コンビニで買ったおにぎりでも食べて一服するか。夕方近くなったら昆虫探しに山を下ってこう。」
「うん。」
頂上地点には、屋根付きの休憩所が二つほどある。緑色の山がいくつも見え、その山と山の間から市街地が見える。僕たちはまだ昼ご飯を食べていなかったので、その休憩所で少し遅い昼ご飯を食べた。
僕たちはまた話をした。そして、夜に備えるため仮眠を取った。
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6時半頃。
僕たちは再び歩き出した。ライトを手に持って。
「まだ俺も勉強不足で、食草(幼虫の時、何の植物を食べ成長するか)とか自信持てるほど詳しくないし、今日見たい虫が見れるかわかんないけど、今日は楽しく歩ければいいや。」
「そうだね。」
僕らの予想とは裏腹に、色んな昆虫が見れた。今年は例年より温かいからだろうか。歩いて見つけては、また歩き見つける。
シンジュサンは勿論のこと、この時期にはあまりいないというオオミズアオ、ジャコウアゲハにそっくりなアゲハモドキ、ジャコウアゲハと比べるとサイズが小さいという。木の隙間を覗いてみると、コクワガタも拝めた。他にも色々な生物を見れた。
見つける度に、彼は
この子は持ち帰ろう。
この子はそっとしてあげよう。
なんか言って三角紙に丁寧に持ち帰る個体を入れていった。標本を作るそうだ。
僕らは下山し終えた後も、その周辺を散策した。
山の麓を登山ルートと外れて歩くと、少し大きめの池を見つけた。
「え!お! これアマガエルかな? いや、モリアオガエルかも? 多分モリアオだ。顔に模様がないし、シュレーゲルアオガエルと比べるとちょっと赤っぽいし。」
僕は何も知らなかった。この世界についていくので精一杯だった。でも苦しさはなかった。あっという間だった。僕も彼みたいに詳しくなりたいと思った。
頭の中の【疑問】は消えなかった。
「もう時間だし、帰るか!」
「おけ!」
仮眠を取ったからか、この不思議な気持ちが残ってるからだろうか、僕は電車内で寝なかった。彼は気持ちよさそうに寝ていた。
何だろう。この複雑な気持ちは。
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6月16日。
「お前何で昨日早く帰ったんだよ。先輩より先に帰るっておかしいでしょ!」
別な先輩に嫌味を言われた。キャプテンはなんも言わなかったのに、、、、、、、
そんなに人と同じ行動をとらなきゃいけないのか。
そんなに人と同じ苦しみを味わあなきゃいけないのか。
僕だって守るべきことは守ってる。
僕だって【疑問】に囚われて苦しんでいる。
苦しみなんて人それぞれ。
比べたり、強要したりするものじゃないんだ。
理解し、理解してあげるものなんだ!
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7月11日 午後。
僕ら野球部は、相手が強豪校だったこともあり、一回戦で負けた。勿論全力で応援したし、勝って欲しかった。
でも、『負け』っていうのが確定すると、もうどうでもよくなった。
僕はスタンドでメガホンを見つめながら、心の中で決め事をした。この複雑な気持ちを解放するために。
あ