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強く狭る  作者: 秋川 楓
3/8

Day4、5、6 別世界の住民①

第二話まで読んでいただきありがとうございます。大変嬉しく思います。良ければ第三話も宜しくお願い致します。

[僕はきっかけが欲しかっただけなのか、それとも、これこそがきっかけなのだろうか。]


 7月11日 午前。

 夏の大会一回戦。

 僕は今、夢と現実の狭間にいる。

 蒸しっとした暑さの中、頭に冷たい空気が当たる。

 空気が不味い。

 足の行き場に困り、胸がムカムカする。

 背中に微かな振動が伝わり、心も落ち着かない。

 【疑問】がひたすら浮かんでくる。

 そして、【どうでもいい】が頭の中を反芻し始めた。


夢と現実の間で、その【言葉】が僕の想像のスクリーンにひたすら映し出される。

黒い文字が、色んな大きさで

【どうでもいい】

【どうでもいい】と。


[なぜ僕はバスで球場へと向かっているのだろう]


*****************

・・・・・・・・・・・・・・・・・


 6月5日。

 僕はだいぶクラスには馴染めてきた。

 確かに寝てばっかだが、寝てる割には勉強ができている人間だったし、そういう意味では何とかついていけるようになった。皆、寝てることをイジってくれた。一緒に昼飯を食べるクラスメイトもできた。何人も。飯はその時々だが、大体4~6人で食べている。

 そして、何よりも楽だった。


 確かに【疑問】が消えることはないのだが、皆が別の世界の住民に見えてきて、部活の話なんかもするけど、何かに護られているような感じ。


 治外法権が働いているよう。


その住民の中でも、色々な人種がいる。

一緒に飯を囲む仲の一人に『鷹取』という男がいた。彼は色んな事を話してくれる。


 僕と彼が最初に話したのも、政治についてだった。


***********

「今の野党は、ただ与党に対抗した案を出しているだけで、中身は空っぽよ。与党の政策の中にも、いいものだってあるんだから、そこは変えずに、悪い政策だけをしっかり指摘できるようにならないと、しばらく政権交代は起こらないよ。」

「だよね。予算委員会だって、完全に揚げ足取りにしかなってなくて、国民の聞きたいことと質問してることに乖離があるよね。」

「うん。それもある。」

***********


 確か、校外学習かなんかの帰りのバスだったかな?

 話したきっかけは忘れたし、なんでこんな会話で盛り上がったのかわからないけど、とにかく僕らは楽しく会話をした。


 そして今日も、数少ないオアシスで給水をする。

 外に温かい陽気が流れる。陽気は、ある場面では優しさを、ある場面では苦しさを与えるものだ。


 今日は5人で食事。

 皆で話すとか、どう話すとか、そんな決まりはない。

 全てが自由だ。


「この顔、可愛くない?」

僕が口に唐揚げを運びかけた時、鷹取が何かを見せようと、話しかけてきた。スマホの画面を僕の方に向けようとしている。おそらく写真だろう。

 僕には、鷹取がそういう趣味を持っているように見えなかったから、何を見せてくれるのか全く読めなかった。彼の表情からは何も予想できない。全ては見ないことには始まらない。僕は箸を置き、画面をゆっくり覗き込んだ。

「あー!確かに可愛い!」

 僕は反応が遅れた。そして、心の中に新たな感覚が宿った。

「だよね!可愛いよね!こいつの名前知ってる?」

「ヤママユガ?だっけ?」

「そうそうヤママユ!ちゃんと顔を見ると可愛いんだよなぁ~。そういえば原ちゃんって生物とか好きな方?」

「おあ~ 好きな方だよ。てか好きだよ。」

「それは良かったわ。共感してくれるか心配だったわ!」

「もし僕が虫嫌いだったらやばかったね。食事中だし。」

「あ!確かに。危なかったわ!」

 やはり、鷹取は鷹取だった。彼は他の食事仲間にもその写真を見せてた。皆、それぞれの反応をしていた。でも、柔らかい空気が絶えず流れていた。

 柔らかい空気の中それぞれが色んな話をし、食事の時間も終わりかけた頃、鷹取がこんなお願いをしてきた。

「あのー再来週さ、面談週間だから短縮授業で、午前中に帰れるじゃん。」

「うん。」

一同が頷く。

「それでさ、その週の月曜日にちょっと昆虫採集に行こうと思ってんだよね。主に鱗翅目なんだけど。あ、鱗翅目は蝶と蛾の属する目のことね。もし、行きたい人がいればでいいんだけど。一緒に行かない?採取地までは学校から直で行けば、片道2時間くらいかな?ちょっとかかるね。誰か行きたい人がいればでいいからさ。」

「おれは大丈夫。」

 バレー部の池上は断った。さっきの反応を見れば当たり前っちゃ当たり前だ。他の人も部活があるとか、そういう理由をつけて、いけなさそうにしていた。でも、僕は画面の奥の景色を見てみたいと思った。


『別の世界の更に奥へと進みたい』


そう、思った。


「流石に誰もおらんか、、、」

「ちょちょっと待って! 予定表確認する!」

 僕は机の中にあるクリアファイルを急いで漁る。

「無理はしなくてもええんやで。」

「い、いや、単純に行きたい!行ってみたい!」

「お、まじ!?」

「う、うん。でも部活があるかもしれないから、それを確認しようと思って、、、ワンチャンその週休みないかもだし、来月から夏大始まるし。」

 月の初めに予定表は配られる。6月4日に貰って、今日はその翌日、まだ予定表に目を通していなかった。

「まー、天下の野球部様だから、短縮授業ってのを利用して、休みないってのも有り得るな、、、、「あ!いけるわ!」


奇跡だろうか、、、


 短縮日課であるのに、午後の練習が、いつもの週と同様、休みとなっていた。

 僕は行くしかない。兎に角、行こう。そう、必死に思っていた。

「お!休みだった感じ?」

「うん。僕、その日一緒に行ってもいい?」

「おけ!もちろん!じゃあ、再来週の月曜日、原ちゃんは採集に来てくれるのね。細かい連絡は近くなったらするわ。」

「おけ!」

「部活休みで良かったじゃん。」

「うん。良かった。」

陸上部の岩戸も笑顔で背中を軽く叩いてくれた。







読んでいただきありがとうございます。良ければ評価やコメントなど、宜しくお願い致します。

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