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強く狭る  作者: 秋川 楓
2/8

Day2、3 薄い空気

第一話を読んでいただき、ありがとうございました。

良ければ第二話も引き続きお願いします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 5月1日。


 僕は学校にしがみつくことで、精一杯だった。[こんな生活は送るつもりではなかった。]

 ただしがみついていた。

 しがみつくため、授業の半分以上の時間を睡眠に費やす。ただ僕は計算高い男だった。本当に眠い時以外は、自分の得意科目の時、寝るよう調節していた。その位やらないと、しがみつけない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 5月12日。


 僕の夏の大会ベンチ入りの可能性は0%になっていた。

 一年生は、入学初めの練習や試合の結果で、ある程度見限りをつけられるのだが、僕はそこで早々にミスをしたからだ。因みに、一年生は二人がベンチ入り候補として生き残った。

 見限られた人達は、ベンチ入り候補たちがグラウンドで練習する中、あの川沿いの遊歩道を借りてランニングメニューを行う。

 彼らとは完全なる別メニューだ。

 今日もその川沿いの遊歩道で【疑問】を抱えながら、足を左右に前進させる。足を踏み込むと、硬い地面からの反動を感じる。

 人数は10人。

 やるのは全員一年。

 このメニューを始めてから四週間が経とうとしていた。


 右を向くと川面が見える。川面には日差しが反射し、金色の輝きを放っている。その金色は消えては浮き上がるを繰り返す。

 コンクリートでできた遊歩道には、

帰宅中の高校生、

爺ちゃんランナー、

犬を連れたおばさん、、、

様々な人がばらばら通り過ぎる。


僕たちはその人たちが通る度に挨拶をし、終われば再び走り出す。


「いやぁー、早く帰りてーわぁー。」

 短いレストタイムの間、腰に手を置きながら、小田が面倒くさそうに言った。

彼は硬式野球クラブ出身で、ピッチャーをやっていた。

「帰りたい、、、帰りたいよ、、。」

 僕もそれに同意する。実は僕も硬式野球クラブ出身だ。

「おい! お前らやっぞ! そういうこといってんなあ!」

 中学時代キャッチャーをやっていた松田が檄を飛ばす。僕と小田以外の一年は、全員軟式野球上がりだ。ベンチ入り候補に選ばれた二人も軟式上がりだ。


ピー!!


 タイマーが鳴り、再び僕らは走り出す。タイマーの笛は僕らを待っちゃくれない。タイマーには感情なんて在りはしない。時間を等間隔に区切り、知らせる。ただそれだけ。それだけ考えていれば生きていけるのだ。

 僕らは何度も何度も、足を前進させる。遊歩道の『遊』の字も『歩』の字も僕らには見えない。僕らは恐らく『逃』の為にひたすら走っているのだろう。

 僕らが走った距離はもうとっくに駅までの道程を超え、もしかしたら家にも着いているかもしれないが。

 この川沿いトレーニングでは、野球部の規則、先輩へのマナー、グラウンドでとるべき態度なども徹底的に教え込まれる。だからこのランメニューには、一人の小さな指導者が付く。二年の大野さんだ。そして、練習後の反省会では、大野さんが今日の反省、次回の課題などを話してくれるという感じだ。

 彼は右手にサポーターを付けている。

 ノックで速い打球を捕球した際、変な方向に手首を捻ってしまい、怪我をしたらしい。怪我をしてから三ヶ月が経ったが、まだ治らないとも言っていた。かなり苦労している。練習後の反省会で教えてくれた。

 そんな練習後の反省会で、必ず気を付けなければならない事がある。それは、話している人の目を見ることだ。つまり、大野さんの目を見るということ。

 僕は何故か、5回ほどそのことで『目を見て話を聞け』と注意された。自分でもなぜ注意されているか【疑問】である。

 今日こそ注意されないために、『トカゲが獲物を見つめるような微動だにしない目で、しっかり見つめてやろう!』と思っていた。

 

 今日も練習が終わる。

 薄茶色の海の上

 幻想的な空が広がる

 紫色の空の下

 この色は終わりを告げるもの

 カラスも人も帰るもの

 空に大きな船が浮かぶ

 船の中はどうなっているのだろう

 大きな城が隠れているのか

 見知らぬ世界に通じているのか

 先祖たちに出会えるのか

 霧に包まれている

 二十万年

 時を越え、

 何するものぞ

 人間よ。


一軍の練習が終わると同時くらいに、僕らはグラウンドに帰り、反射的に半円を作り、大野さんの話を聞く準備をしていた。

 大野さんが監督に『戻った』の報告を終えた。こちらへ小走りでやって来る。僕たちの目の前に立った。

 話が始まる。


「今日は、声もしっかり掛けられていたし、雰囲気は良かったと思う。あとは、どれだけ全員がちゃんと全力でできるか、そこだと思う。」


[全力でできるか]このワードが僕の頭を掠める。


「おい! 原!」

「はい。」

「ちゃんと目を見て。」


また言われた。


【疑問】が頭の中を高速で動く。


僕は本当に目を見てなかったのか?

目が動いてしまっていたのか?

余計なことは考えてないはず、

例えば

今日の晩御飯や

何のゲームをやろうかなど。


そんなことは微塵も考えていないはずだ。

いや

そもそも目を離さなかったはずだ。

彼の顔はずっと投影されていた。

今日はかなり気を張っていた。

それなのに、、、



僕は今

夕明かり

砂漠のど真ん中に立っているよう

足元にサソリがいても気付かないだろう

思考だけが

回り続ける

クルクル

クルクルと、、、、



「いや、見ていました。」


 いつの間にか、そう返していた。いや、そう悟った。周りの空気が止まったのを僕の触覚が敏感に感じ取る。

 彼と僕は見つめ続ける。互いの目は蠟人形のように動かない。いや、お互いが獲物を見つめる猛獣のように、睨み続けているのだ。

 彼は口を結ぶ。

 五秒くらい時が止まっただろうか。『空気中の粒子も血液の流れも止まっていた』と言われても何も疑わないだろう。


「まあ、注意して。」


 彼はそう言った。それ以降、彼が何を話したかは覚えてないが、目だけは強い意思を持ち、動かなかった。


辺りは暗くなり始めていた。


~~~~~~~~~~~

 完全に暗闇へと移行した。


僕は静かにグラウンドの片付けをした。


その片付けも終わり、

挨拶も終わり、

監督の話も終わり、

部室に入ろうとした時だった。

「おい! お前あれはねーだろ! お前見てなかったんだろ?」

 松田がそう言ってきた。後ろから頭に投石を受けたような驚きが肩を走る。

「いや、見てたけど、、、」

 咄嗟に答えた。

「いや、でもお前あそこは空気読めよ。普通に『はい』って言えよ。あれはありえんわ。」

 確かに彼の言う通りかもしれない。[砂時計のように、毎日止まらず、静かに、少しづつ、僕の掌を希望は流れ落ちていく。]


 僕はこれ以上言い争いたくはない。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

良ければ、評価やコメントお願いします。

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