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強く狭る  作者: 秋川 楓
1/8

Day0、1 普通

男子高校生の日常を描いた私小説となっております。

友人の実体験を基に書きました。

日付と時間軸を注意しながら読んでいただけると、真実に近づけるかもしれません。

読んでいただけると嬉しいです。

 午前二時。


 俺は今懐かしいベットの上で音楽を聴き終えたのち、仰向けで目を見開いて、寝ないでいる。いや、正確には寝れなくなってしまったのだ。

 窓には月明りしか届かず、家族は全員寝ている。家の中全体が、駅の終電の後のように鎮まり返っている。別に遠足が楽しみで寝れない小学生のような感覚で、目が覚めているわけじゃない。 例えるならば、平日も昼寝をする(ろく)でもない学生のような、だるさを感じる目の覚めだ。

***********************

 午前零時頃。


 ベットに寝転がり、目的のない疑問が少しづつ拭われながら三十分が経った。 寝れる気配はなく、目は完全に暗順応し、暗闇を暗闇と感じられずにいる。暫くは目を瞑って呼吸を意識し、鼻から吸い、口からゆっくり吐くを繰り返していたが、一向に夢への招待状は届かない。

 そこで俺はふと、 

『暇だから音楽を聴こう』 

と思ったのだ。

 最近はスマートフォンで音楽というのは聴けるのだが、俺は何故か一工夫加えたくなった。


 部屋の大きさは畳4.5個分ほど。俺の目線から見て、CDプレイヤーは右上の押し入れの中、CDは足元の棚の二段目に並んでいるはずだ。俺は探査機が大気圏を超え、火星の石を持ち帰るような計画的な算段で、部屋の最短距離を通り、そこにあるか確かめた。


予想通りだった。


 確認した後、俺はCDプレイヤーと直感で懐かしいと思ったCD、ミスターチルドレンの『シフクノオト』を頭と一緒に枕元へ落下させた。モノクロの世界の中、頭の上の壁にかけてある百均のライトを、発炎筒を放つようにパチッとつけ、一部に彩りを付けた。こうすれば、正確にCDを入れられる。因みにCDプレイヤーは電池式のため、コンセントに気を遣う必要はない。

 CDを入れ終え、ライトを消し、再びベットに寝転がる。

 耳にイヤフォンを付け、長年の経験からくる感覚で、CDプレイヤーの再生ボタンを押した。


ビュービュビュ~ ビュビュー ビュービュビュ~ ビュビュー ビュビュビュビュビュビュ~~     


 一曲目の(楽器は恐らくサックスとスネアドラム)の音が聞こえてきた。

 その瞬間、俺は懐かしさと共に、鼓動の高鳴りを感じてしまった。

CDが最後の曲を終えるまでの約一時間、俺の頭の中で、一つ一つが鮮明で、ゆっくりと流れる走馬灯のように、或いは、自分だけの思い出スライドショーを見せられているような感覚で、場面、季節、そして、様々な感情が沸騰し始めの水のように、ゆっくりと頭上を通過していった。

      

************************


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 僕はただ、苦しみから逃れたいだけだった。ただ、楽になりたいだけだった。


 「電車の中は大丈夫。ここまで歩いてきた道も大丈夫。家の中も大丈夫。」

 4月10日、天気は春特有の鮮やかな晴れ。 僕は心の中に【疑問】を抱えながら、早歩きで、高校へと向かっている。

 家から学校までの経路は、

まず自転車で5分ほどかけて駅へ。

そこから電車に30分揺られる。

そして駅を降り、

学校まで約25分かけて歩く。

といった具合だ。


現在、僕は慣れない道を歩きながら、周りに野球部員が歩いていないことに【疑問】を感じている。この高校では、駅~学校までの道程が長いため、途中で登校ルートが二つに分かれる。一つは片側二車線、つまり四車線の国道沿いを歩いて、コンビニがある十字路を右へ曲がり、学校へ到着するルート。もう一つは、ただの二車線道路の坂を下っていき、短い橋を渡って、川沿いを右へ右へと歩いて行くルートだ。

 僕はなんとなく後者のルートを選んでいる。そして、その道程の三分の二地点に、短い橋はある。

 今が丁度そこだ。

 橋の歩道は赤いタイルで覆われており、やっと人がすれ違える程度の幅しかない。左手には坂から続く二車線道路があり、休日の朝八時ながらにまずまず車が走っている。右手にはもちろん川が見える。この川は、恐らく江戸川からの分流だろう。川幅は3mほどしかなく、深さも農業用の長靴を履けば、問題なく歩ける程度のものである。

 そんな小さな川だから、川沿いにグラウンドなど在りはしない。冠水対策で勾配が付いており、その出っ張りの頂上に遊歩道があるだけだ。川と遊歩道の間は大体10m程度。左手の道路のさらに奥は、こちら側と同様に歩道があり、もちろん川と遊歩道もずーっと続いているのが見える。

 続いているから川であり、橋が通されるのだ。

 橋を渡り、この遊歩道を右へ歩き続ければ、校舎が見えてくるはずだ。川沿いを歩くとはこのことだ。僕はあと二十歩で、この遊歩道へ入る。

「うん?」

左手の道路を超えた遊歩道の、遠くの方から、かごの付いた赤いクロスバイク風の自転車が走ってきていた。惑星と惑星が接近するように、その自転車と僕は近づいていく。僕がちょうど遊歩道に入るその時、その自転車とピッタリ重なり合った。そして、自転車が僕の目の前で止まった。

「おっ! 原君、、だよね? ちょうどいいじゃん! 一緒に行こうぜ!」

 その赤い自転車の正体は、同じ野球部の森崎だった。まだ知り合ったばかりである。

 まだ彼と出会って四日しか経っていないが、『話好きで積極的な男』 と僕は思っている。

 僕は彼と合流したことで、少しばかり【疑問】が和らいだ。

「も、もちろんいいよ、」

 それでも【疑問】が完全には消えない。自転車を左右に振り、僕の歩くペースに合わせて走行してくれている彼に、その【疑問】の元となるものを聞いてみた。

「あの、、時間、間に合うかな?」

「あ~~。時間ね! 確か八時集合って言ってたよね?今七時五十分だし、大丈夫だと思うよ。」

 僕は時間ギリギリに来るタイプの人間か、そうでない人間かと言われれば、後者の人間。つまり、余裕を持って来る人間だ。 だからこそ、【疑問】をどう頑張っても拭えない。 一億積まれようが、ハワイ旅行券をもらおうが、この【疑問】は消えないだろう。むしろ高まる気もする。

「まあ、色々話しながら歩こうぜ!」

「お、おう」

 彼がそういうから僕は彼を信じる。いや、正しくは『従う』なのかもしれない。だって【疑問】は消えてないのだから。

 でも彼に出会って【疑問】が少し緩和したのも事実。僕はこれ以上のことを彼にぶつけることを止めた。

 遊歩道をずっと通っていくと、一つ短いトンネルがあり、そこを潜る。潜り終えるとまた遊歩道。ここまでくると校舎の三階部分が見える。

 更に真っ直ぐ歩くと左手にブルーベリー畑が見える。そのブルーベリー畑の真ん中には、二人分の幅しかない、細い通路が存在する。 まるで熱帯雨林の中に作られてしまった道路のように、クッキリと畑を分断している。

 この細い道をずーっと進んで行くと、広い二車線の道路に出る。それと同時に、右手に学校の校門が現れる。誰でもそこに校門があると分かる位置にだ。


ここが高校。

僕の高校。


 校門に入る。

 入って直ぐの位置。


 真ん中には車のロータリーがあり、その奥にグラウンド全てを隠す、黒ずんだ大きな校舎。そして、右前には一つの道路と自転車置き場。左前には一つの道路と駐車場がある。

 この二つの道路は、それぞれの人が、それぞれの部活へ向かう際に、よく使用される。そして、黒い壁の足元には昇降口がある。

 野球のグラウンドは、左前の道路を歩き校舎の裏側へ行くことで、全様が明らかとなる。

「ちょっと自転車置いてくる!」

「う、うん。」

 僕はロータリーの真ん中に聳え立つケヤキの前で、

 下を向き、

 目を閉じて、

 待っていた。


「おまたせ!行こうぜ!俺ら初の休日練習だからな~。いや、試合か!」

「僕ら多分試合出れないけどね。」

「まあ、先輩のプレイでも見ようよ。でも、俺らも夏大ベンチ入りの可能性ないわけじゃないぞ!」

 彼は割と夢想家だ。実は僕も大概ではないが。

 横に並んで、この広い通路を歩いて行く。

 通路を30m、40m、50m、、、、徐々に近づいていく。

 校舎に隠れていた光が再び、クッキリと僕らに入り込んできた。

 車でトンネルを抜けた瞬間のように、一面に薄茶色の大地が広がる。


「えっ?」


 奥の薄茶色の大地に、青いユニフォームが 海に浮かぶ 浮のように、 点在する!


「急ごう!」

「だね!」


 グラウンドは普段、女子ソフトボール部・陸上部と併用しているのだが、今日は試合のため、

いるのは野球部だけ。

 部室のあるバックネットへと、重いバックを肩にかけながらも、僕らは走れメロスのメロスになったつもりで走った。

 監督はバックネット裏にある、小さな応援スタンドで、腕を組んでガッツリと座っている。


僕らは

 すれ違う先輩に挨拶し、(いろんな顔で見られた。笑った顔、少し急かす顔、遠くで睨む人、、、)

 一塁ベンチを横切り、

 脇のネットをくぐり、

 監督の前に辿り着いた。


「遅れて申し訳ありませんでした。、、、、    。」


 僕は正直、なぜ『申し訳ありませんでした。』を言っているのかわからなかった。


「お前ら何で遅れたんだよ」


監督はこう、口火を切った。


「すいません。寝坊をしてしまいました。申し訳ありませんでした。」


 まず最初に、森崎が早口で言い訳を言った。まあ、噓なのだが。

 僕の推測からすると、彼はいい返し方が思いつかなかったと思われる。


「寝坊?! てめえ、一年初の練習試合で、遅れてくる奴があるかよ、、、、、、、。」


  見えない眼差しが鋭く突き刺さる。 森崎の『寝坊』という言い訳はどうやら監督を不機嫌にしたらしい。


「おめーは?」


 監督がこちらを向く。

 次は僕の番だ。


 うん?


 僕の頭の中で、一つの【疑問】が駆け巡る。


僕は確かに不安だったが、こう連絡を受けたはず、、、

八時集合。

それは彼だって同じ認識だ。

今がそのくらいの時間のはずだ。

俺らが間違ってんのか?

そもそも寝坊なんて言い訳、使い古された常套句。

だから寝坊は噓のよう、わかりきったコース。

人を助けた。彼を裏切り、言うのに労力を要す。

腹が痛い。これは意味ないポーズ。

ありきたりは要らない。

そんな物ごみだ


なんか、、、、


そもそもこの状況がおかしい構図。

ユニフォームでしゅうごう?

いや、あるいてる。

それとも、、、


僕の思考は光を超える速さ

原型が掴めない

大気圏を超えて

太陽系外へ

銀河系

銀河団

全く四らぬ宇宙え、、



「普通に遅れました」



 僕はそう答えた。『勝手に動いた。』のほうが正しいか?

 [普通に遅れた]ちょっと日本語がおかしいのか?

 この間、どの位時間がたったかもわからない。


そう思った途端、監督は僕に、鬼のような顔を見せ、こう言ってきた。


「普通に遅れた、、、なんだそりゃ???!!!!!     

 てめえ、、、野球舐めてんのか?!あんっ?  

 普通に遅れました。  

 ってどういうことだよ!、、、         おい!

 意味が分かんないんだけど、、、、、、、、

 そもそも一年生で時間ぴったりに来ようとか考えてんじゃねーよ!、、、

     なあ!

  普通は早く来るんだろ!!! 

 それが当り前だろ!!! 

 自分の立場わかってんのか?、、、ああ!!?」


 抑揚をつけて罵ってきた。

完全にミスった。一年生は早く来ないといけない。上下関係が厳しいのは知っていたが、まさかここまでとは、、、

 それと同時に[僕の中にある希望の()()が、砂のように渇き、掌から零れ落ち、流れていき、彼方へと消えていく。]


「もういい。早く準備しろ!」


 監督の舌打ちが聞こえる。他の人にはどう思われるんだろう。罪悪感も抱えながら、急いで部室へと向かった。

 

 部室では無言で着替えた。【普通に遅れた】が頭で反芻する。

「急いでいくぞ!」

森崎はすでに着替え終えていた。

「ちょ、ちょっと待って!」

「そんな時間ないんだよ! ゆっくり着替えてんじゃねーよ!」

 彼にも言われた。でもそれは当たり前。急いで着替え終え、靴をぐちゃぐちゃになって履きながら、ズタズタとグラウンドへ向かった。


 僕の中の【疑問】は[無意識]へ瞬間移動した。





読んでいただき、ありがとうございました。

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