9話:三人目のメンバー
【王都地下ダンジョン】――B10F
「我が剣技を使うまでもない!! はああああ!!」
俺の目の前でアスカが鬼神の如き勢いで、哀れなオーク達を斬り伏せていく。その戦い方を見ている限り、どうもアスカはパーティ戦闘をこれまであまりやってこなかっただろうことが良く分かった。おそらく悪意はないのだろうが何度か俺に向かって本気の剣閃が放たれたしな……。
俺ではなけりゃ怪我してるぞ。
「しかし……俺の出番なさそうだな」
危ないので、離れた位置に移動した俺がそんな事を思っていると、まるで俺の心を読んだかのようにオークが一体こちらに向かってくる。俺は試しに雷属性の攻撃魔術である【サンダースピア】を雑に撃ってみると。
「へ?」
俺のナイフから放たれた、巨大な雷槍がそのオークはもちろんの事、その背後にいた数体のオークにまで貫通し、雷撃を周囲に撒き散らした。
オーク達が断末魔を上げ、黒焦げになる。
いやいや、【サンダースピア】ってそんなデカくないし、そもそも貫通する魔術じゃないぞ!? 【等価交換】の上昇補正が掛かっているせいかもしれない。
いやそれよりも、明らかに巻き込まれたっぽいアスカは大丈夫か!?
「流石師匠!! フォローが的確な上に、私ならば避けられると分かっていたようだ!! ちょっと危なかったがな!」
アスカさん、ピンピンしてました。ちょっと服の端が焦げてるけど……。
いやいや、【サンダースピア】含む雷属性の攻撃魔術は発生速度だけで言えば、最速の魔術だ。その速度は尋常でない速さであり、【等価交換】の上昇補正も相まって常人なら見ていても避けられる物では決してない。
背中に目でも付いているのか……?
なんて俺が呆れている間に、最後の一体が斬り伏せられた。
「……まあいいか」
俺は思考を一旦中断し、オークの牙を手早くナイフで剥いで、腰に付けた素材入れ用の革袋へと放り込んでいく。依頼は大事だよ~、お金は最高だ~。
「私も手伝おう――はっ!!」
アスカが剣を一閃し、納刀。どういう理屈か謎だがその剣閃はまるで暴風のようにアスカの周囲を切り刻み、器用にオークの牙だけを斬り、宙へと舞い上げていた。
両手で空中のそれをつかみ取ると、アスカがまるで褒めてくれと言わんばかりに、ドヤ顔でオークの牙を俺へと差し出してきた。
「お、おう、ありがとう。凄い技術だな」
「元々は料理に使っていた技を応用したものだ。緋桜国の板前ならば誰もが身に付けている技だな!」
「どういう料理に使うんだよそれ……というかやはりアスカは緋桜国の出身か」
俺は革袋の口を締めると、地上へと戻るべく来た道へと進む。アスカがニコニコしながら俺の問いに答えた。
「うむ! 一年前に王都へとやって来たのだが、中々どこにも馴染めなくてギルドやパーティに入ってもいつも追い出されてしまう! なので最近は発想の転換で、強くなりそうな新人を見付けては稽古を付けて、仲間にしようとダンジョンの入口でいつも観察していた!」
「で、俺を見付けたわけだ」
俺も運が悪い……。
「最初はダンジョンに潜るにしてはあまりに場違いな格好だったとので、つい……」
「……そういう事してるから追い出されるんだよ」
それ絶対に、稽古という名の決闘を仕掛けているだけだろ……。
「私自身があまり、集団で戦うのに向いていないんだ……。戦っているとつい無意識で近くにいる者を斬ってしまう」
「つい、で済ます話じゃねえよ。さっきも俺、斬られかけたぞ」
【狂戦士】という職種もあるが、彼らだって敵味方の区別ぐらいはつく。
「すまない……」
しょげているアスカだが、話を聞くとどうやら無意識のうちにやってしまうようで、やらないようにすると、途端に動きが悪くなってしまうとか。そのせいで、パーティやギルドから無能扱いされ、追放されたらしい。
「一人で伸び伸び戦わせてくれるギルドやパーティがあれば……私も実力を発揮できるのだが……」
「そんなギルドあるかよ。自分に出来ないことを仲間にサポートしてもらいながら共に戦うのがギルドやパーティに所属するメリットだろうが」
「……私にそんな物は必要ない。一人で生き、一人で戦ってきた。これまでも、そしてこれからもな」
その声には複雑な感情が込められていた。
「王都に来たのは武者修行か何かか?」
東の海に浮かぶ島国である緋桜国の剣士は、武者修行と称して修行の旅に出ると聞いた事がある。アスカもそれでやって来たのだろうか。王都は地下のダンジョンのおかげで、大陸中から冒険者が集まってくる。武者修行にもってこいだろう。
「それもあるが……」
言い淀むアスカがまっすぐ前を見据えた。その目に宿る感情を俺は読み切れない。
「兄を……捜しに来たんだ」
「兄?」
「ああ。数年前にこの王都に来たことまでは分かっているが……その後の行方が知れない」
「なるほどな。アスカの兄ってことはやはり剣士なのか?」
「祖国でも指折りの剣士だった。私の唯一の家族であり、剣を教えてくれたのも兄だ」
「そうか……見付かるといいな」
としか俺には言えない。この王都は広いし人の数も多い。とはいえ、緋桜国の剣士はそれほど多くないし、実力者となると一握りだろう。
それが、一年捜して見付からないという事は……。
「ダンジョンに入ったっきり帰ってきていないそうだ」
「……そうだろうな。一年で千人を軽く超える数の冒険者がこのダンジョンで命を散らしている。アスカみたいに家族を捜しに来る人も多い」
ダンジョンで行方不明になった冒険者を捜して欲しいという依頼は良くある。大体が後味の悪い結末になるので、受けたがる者は少ない。
「兄はパーティメンバーと共に深層に潜ったらしい。だがそれっきりだ」
「深層か……あり得る話だ」
いわゆる深層と呼ばれる場所は、Sランクギルドが総出を上げて挑むような場所であり、一般的な冒険者には用のない場所だ。それぐらいに危険な場所であり、生還率は低い。
更にこのダンジョンは一説によると未だに拡張され続けているそうだ。誰が、何の為にこんなダンジョンを作ったのか。全ては謎に包まれており、それゆえに冒険者や英雄が挑戦し続けるのだろう。
「私は、兄が生きているにせよ死んでいるにせよ、もう一度会わなければならない。そのためには深層に挑めるレベルのギルドやパーティが必要なのだが……どうやら私には向いていないようだ。ならば一人で挑めるように強くならなければ」
……別に俺は、アスカの師匠という言葉を真に受けたわけではない。だが、偶然なのか必然なのか、そんなアスカにぴったりのギルドがある。
仲間の事など気にせず好き勝手戦える、ただ最強のみを目指す――そんなギルドだ。
だから、俺はアスカにこう告げたのだった。
「強くなりたいか? 援護も支援も名誉もない、ただひたすらに己の強さを求めるそんなギルドが望みか? ならば――俺のギルドに入ればいい。君にはその資格がある」
後にまた判明しますが、アスカさんは型月系でいえば【狂化ランクEX】が常時発動しています。意識して使わないようにすると無能になるポンコツ剣士ですね。~最強の剣士だけど、敵味方問わず斬り殺すので追放されました~ってタイトルがつけれそうな感じです。
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