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8話:狐面の女剣士


「そんなナイフ一本でどこへ行く気だ? 皆、真剣に戦っているのになんだその格好は」


 狐面の女の凜とした声は、その佇まいに良く似合っていた。暗い赤色の生地に黒の模様を染めた着流し――東方の島国の伝統衣装――を纏っており、その身体は細くしなやかだ。


 彼女は俺に、刀と呼ばれる、まるで彼女自身を表しているかのように細く長い、緩く反った独特な刃を持つ片刃剣を突きつけている。その仮面の目の部分に開いた穴から覗くのは、黒曜石のような綺麗な瞳だ。


「あー、こう見えても冒険者だ。オークを10体ほど狩る依頼を受けている」

「そんな装備でか? オークの群れは中堅クラスのパーティでも下手すると半壊するほどの難敵だ。そんな申し訳程度の革鎧にナイフで倒せる相手ではない。引き返せ」


 んー、真剣な声色でそう忠告してくるところを見るに、この狐面の女はおそらく親切心からそう言ってくれているのだろう。


「いやでもほら、俺は魔術も使えるし、多分このナイフでも倒せるから……」

「良いだろう、ならば【七曜(しちよう)流】範士であるこのアスカが貴様の力、見定めてやろう! 構えよ!!」


 黒髪ポニーテールの狐面の女――アスカから尋常でない殺気があふれ出る。いやいや、待て待て、なんでそうなるの!?


 と俺が混乱していると同時に、銀閃。


「っ!! 危ねえ!!」


 身体能力向上系のバフは、シエラを助けた時に掛けたものがまだ継続されている。それでも俺はアスカの放った下段から上段へと払うその剣閃に、ギリギリでしか反応できなかった。


 常人なら多分死んでるぞ! というか構えよ! って言いながら、奇襲するとかズルいぞ!!


 俺はナイフを抜いて、次の斬撃に備える。アスカはまるで流れるような動きで、重く、振りにくそうな刀をまるでそうとは思えない速度で今度頭上から俺へと振り抜いた。


 【パリィ】のスキルを使って、ナイフでそれを弾く。澄んだ金属音が響き、火花が散る。


「ほお! やるではないか!――【月流れ】」


 アスカがまるで、回転するかのように身体をひねりながら、斜めに刃を走らせた。俺はそれにナイフを合わせ、防御。結構ギリギリだが、なんとか間に合う。


【――【火堕とし】」


 アスカは更に身体を回転させ、今度は地面を削りながら、下から上へと斬閃を放つ。地面を削った際になぜか刀身が炎を纏い、俺はナイフで受けるのを諦めて、バックステップ。


 炎と斬撃の逆さ瀑布が俺の目の前を通り過ぎる。


「【水面穿ち】!!」


 その立ちのぼる炎を打ち消すように、水流を纏った神速の突きが後ろへと下がった俺へと放たれた。


 まずい、間に合わないかもしれない。


 ここで俺はようやくアスカが、半端ではない剣士だという事実を認めざるを得なかった。俺の中にある剣士の経験や知識が、ここまでの彼女の動きを見て、少なくとも10階梯は軽く超えた実力の持ち主だと告げている。


 何とか見切れていたのは、バフで身体能力が上がっているおかげで技量については正直負けている可能性がある。いや、ナイフではなくちゃんとした剣があれば、話は変わるかもしれないが。


 俺は素早く判断すると、発動が速い代わりに効果時間が短い身体能力強化系の支援魔術を自分に掛ける。


 掛けた途端に、まるで時間が引き延ばされたかのような感覚に陥る。目の前に迫るアスカの突きがゆっくりと俺に迫って来ているのが分かる。


 俺はそれを避けてアスカへと近付き、ナイフを払った。


 パキン、という狐面が割れる音と共に世界に速さが戻る。


 俺の顔の横を突きの勢いによって生じた風と水流を纏った突きが通り過ぎ、ナイフの一閃によって真っ二つになった狐面が地面へと落ちた。


 俺の目の前には、驚愕するアスカの素顔があった。近くで見ると、目鼻立ちがくっきりとした綺麗な顔付きをしており、睫毛が長く、やけに目尻が色っぽいので俺は急いで目を逸らす。


「馬鹿……な。私の剣閃が見切られた……?」

「これで満足か? あんたがどこのギルドの奴か知らんがこんな事してたら問題行動として報告されるぞ。気を付けろよ」


 ダンジョン内はある程度ダンジョン管理局によってルールが定められている。当然、基本的に冒険者同士でのいざこざは禁止されている。


 見れば、いつの間にかギャラリーが出来ており、盛り上がっていた。


「すげえ!! 今の一撃見たか!?」

「あの狐面のやつって確か【初心者殺し】だろ!? 勝つとか凄いぜ!」


 まずい、目立ってしまった。


「じ、じゃ、俺は行くから!」


 俺がそそくさと去ろうとすると、また肩を掴まれた。


「ま、待ってくれ! 貴方は一体どこの高名な剣士なのだ!?」


 嘘だろ、今度はちゃんと警戒していたはずだぞ!?

 

 何かのスキルか、技術か? 油断できないな。俺はゆっくりと振り返りながら、言葉を返す。


「いや、俺は別に……ただの野良冒険者だよ」

「剣士ですらない……のか?」

「まあね。じゃ、俺、オーク倒してくるから」


 と俺が去ろうとすると。


「待ってくれ!!  ようやく私以上の剣士に! 強者に! 出会えた! 是非とも私に手ほどきを!!」


 アスカが地面に膝をついて、乞うように俺を見つめた。


「いや、手ほどきと言われても……」

「ならば弟子に! あの体捌き、ナイフの剣筋。この王都で私以上の剣士に出会えるとは思わなかった! 師匠と呼ばせてくれ!」

「師匠って、俺はそんな大したもんじゃ……それにほら、君、どこかのギルドかパーティに入っているんでしょ? 」

「いや、つい先日もギルドから追放されてな。頼む! 後生だ!! 弟子にしてくれたらなんでもする!」


 アスカがついに頭を地面に擦りつけはじめた。


 まずいまずい! 美女を土下座させてるこの絵面は非常に良くない!! なんか俺とアスカのやり取りを遠巻きに見ていた冒険者達もヒソヒソと何かを話し始めた。


「分かったから土下座はやめろ!! せっかくの美人が台無しだろうが!」


 そう俺が言うと、顔を上げたアスカはキラキラと瞳を輝かせながら俺を見つめ、こう言ったのだった。


「不肖、このアスカ、師匠に()()()()()()()()事を、我が剣に誓おう!!」


 どうしてこうなった……。


ヒロイン二人目。サムライポニーなスレンダー美人やったー!

王都での、冒険者の仕事はほとんどがダンジョン内の物です。王都外の依頼も勿論あります。


【作者からのお願い】

少しでも面白い、続きはよ! と感じたのならブクマと評価をお願いします。

ブクマは画面上部、評価は広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にするだけです!

面白くなかった方は、★一個にしていただければ幸いです。



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ハイファン新作です! 冒険者のパーティに潜入してランクを決める潜入調査官のお話です!たっぷりざまあがあるので、お楽しみください!

冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよ、と追放されたので査定は終了だ。ん? 元Sランク冒険者でギルド側の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~



興味ある方は是非読んでみてください
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