6話(追放者サイド):剣士ブリオはまだ気付かない
追放者パートにて、第三者視点による描写となります
【金の太陽】の拠点兼酒場内。
「ブリオさん!! アニマさんは何処行ったんです!? バフがなくて、大変なんですけど!」
ギルドマスターのブリオ周囲に、今年入ったばかりの新人冒険者達が詰め寄る。
「うるせえな。何回も言っているだろ。あいつは追放した。おい、ラメンタ、ちゃんと新人共に支援魔術を掛けてるか?」
「ちゃんと掛けていますが?」
爪をヤスリで削りながら答えたのは、貴族のような服を着た優男だった。その男こそ、ブリオが何度も隣国に足を運び、金を払ってようやくギルドに勧誘できた、支援術士のラメンタだった。
「掛かってないから言っているんですよ!! 掛かってるの【アッパーストレングス】だけじゃないですか!」
「やれやれ……支援魔術のことを何も分かっていないようですね。まあ、見るからに素人なので仕方ないですが。前任の支援術士がよっぽど無能だったようだ」
新人冒険者達を小馬鹿にしたような目でラメンタは見つめた。【アッパーストレングス】は上位の支援魔術だ。それをこの百人近い人数に同時に掛けられるのは、大陸広しと言えど、自分ぐらいだろう。
それすらも分からないということは、前任の支援術士は支援魔術について何も教えていなかったに違いない。
ラメンタからすれば、それは怠慢以外の何者でもなかった。
「アニマさんは常に俺らに10個ぐらい支援魔術を掛けてくれていたぞ!」
「効果が弱くなってスキルが使えなくて困るんだが」
「アニマさんなら一緒に依頼に行って魔物にデバフとかも掛けてくれてたのに……」
「ブリオさん達にも色々支援魔術掛けてたし、お前、手抜きしてるだろ!」
新人冒険者達が好き勝手に喋っているのを見て、ラメンタは話にならないとばかりに首を横に振った。支援魔術をこの人数に常時10個? しかも自ら依頼に出向いてデバフまで使う?
ありえない。そんな凄腕なら追放なんてされないだろうし、そもそももっと噂になっているはずだ。
だがラメンタが事前に調べた限り、そんな支援術士はこの王都にはいない。もしいれば当然高階梯だろうから、調べればすぐに出てくる。
ここのギルドの前任のアニマという男は、たったの3階梯だ。自分が9階梯と考えると、足下にも及ばないような雑魚支援術士だろう。
そこから考えると、やはりこの冒険者達は新しく好待遇で入った自分を妬んで無茶を言っているだけだとラメンタは判断した。
そんな奴らはいずれ、死ぬ。相手するだけ無駄だ。ラメンタは言われた通りブリオ達への支援を最優先にして、新人達は放っておくことにした。
「ラメンタを入れたおかげで俺らは快適だよ。バフの効果量が目に見えて違うからな」
ブリオが満足そうにそうラメンタへと告げた。明らかに身体は軽くなったし、ブリオは久しく感じていなかった身体から力が湧いてくるような感覚を喜んだ。やっぱりアニマの野郎、手を抜いていやがったんだ。
自分の判断が正解だったことにブリオは愉悦を感じていたが、少しだけ気掛かりもあった。それは……昔、まだアニマが自分達にしか支援魔術を使っていなかった頃の方が、もっと凄かったような気がしたのだ。
きっと思い出を美化しているだけだろうと彼は首を振ってその考えを追い払った。
「ブリオさん! アニマさんに戻ってきてもらいましょう! 今ならまだ間に合います!」
その新人の言葉でついにブリオが怒声を発した。
「お前ら、グダグダ言う前に結果出せ!! 依頼ノルマ、まだ達成してねえだろ!! 文句言う暇があったら一個でも多く依頼をこなせ!! ダンジョン潜れよ!」
「その依頼をこなすために支援魔術を掛けてくれって話でしょうが!!」
また言い合いが始まった。
ああ、うるさい。
ラメンタは既に、このギルドに加入した事を後悔しはじめていた。
ラメンタさんは有能です。支援術士で9階梯まで上がるのはさぞかし大変だったでしょうが、人を見る目はないようですね……南無。
次話でまたアニマさんパートに戻ります。