5話:マスター・オブ・闇ギルド
「待て待て! どういうことだ!? 違法行為をする気なら俺はやらんぞ」
「まあ落ち着いて聞いてくれ。闇と言ったって別に非合法な事をするわけではない。ただ、ギルドとして登録申請するのが無駄だって話なんだ」
「無駄? そりゃあ確かに、毎月税金は掛かるし、一定以上の収入になるとギルドのランクの度合いによって3%~10%ぐらい報酬金から引かれるからな。それに毎年その年度の収支に関する詳細な書類を出すから、それに偽装があると罰金も取られる。だけど登録しないと、ギルドのランクも上がらないし、各所でのギルド待遇を受けられないぞ」
設立した冒険者ギルドをギルド庁に登録申請すると、色々なんやかんや理由を付けて金が取られていく。だがその分、例えば一部の商店から割引があったり、宿屋で良い部屋に無料でグレードアップしてくれたりと恩恵もある。
何より、登録しないと当然ギルドのランクは上がらない。
「元々、冒険者達がお互いを助け合おう、支え合おうって考えて出来たのが冒険者ギルドだ。なのに、今はどうだ? 一部の強者の為に他が搾取されているような状況だ。ランク? ギルド待遇? バカバカしい。そんな物は最強という二文字の前では無駄でしかない。冒険者単体の実力として最高の13階梯ならともかく、所属するギルドがSランクになったら最強なのか? 違うと僕は思う」
「それはまあ……」
ランクは名誉、みたいな物だ。俺だってSランクギルドに入りたいと昔は思っていた。
またそれとは別に、冒険者個人の実力にはギルド庁が認定する、【階梯】と呼ばれる指標が与えられている。
新人冒険者は皆、1階梯からスタートし、こなした依頼や、偉業などによってギルドから昇格が認定されるのだ。
最高は13階梯。ここまで昇りつめた冒険者は一握りであり、もれなく英雄と呼ばれ、歴史に名前が刻まれた者達だ。
ちなみに俺は、3階梯。そもそも支援術士は功績を他のメンバーに奪われやすいので、中々昇格しない。まあ、俺も今は気にしてないが、同じ1階梯からスタートしたブリオ達が順調に昇格しているの見て、悔しい思いをした時期もあった。
「僕が作りたいのは、個々が最強で理想は全員が13階梯。もちろん強ければ階梯なんて気にしないけど、あれはギルドランクと違って、本人の実力に直結するからね」
「なるほどな。名誉もクソもない、本当の最強集団を作りたいわけだ。階梯は確かギルドに所属しなくても上がるはずだしな」
「その通り! だからギルド庁に搾取される金も全部、装備やら設備やらにブチ込む。最強の個が好き勝手、縦横無尽に暴れ回れる環境を作るのが、僕の夢なんだ」
その目には、憧れ以外の感情も見られた。憎悪、悲哀……そういう類いの奴だ。
だが、話自体は……正直言うと面白い。
はっきり言ってギルドとは、組織とは煩わしいものだ。人間関係もあるし、パーティメンバーへの気遣い……後輩、先輩などの立場。
そんな物を全て取っ払って好き勝手に冒険者をやりたい。そう願う冒険者は少なくないはずだ。だけど、当然一人で冒険者をやるとなると、不便な事が多い。受けられる依頼に制限が出るのは間違いないし、武具のメンテナンス、アイテムの仕入れ、ギルド庁への報告……などなどを一人こなすのは大変だ。
ならばギルドだけど、ギルドじゃない……つまり闇ギルドを作る事で、彼らが不便を感じるところだけをフォローできる環境を用意出来れば――確かにシエラの言う、最強の集団は作れるかもしれない。大体強い奴ってどこか変わっているからな……。
「申請はしないが、ギルドはギルドだ。当然、ギルドマスターは立場上いるからね。強くて、柔軟性があって、何よりこの計画に賛同してくれる、そんな人だ。もちろんギルドマスターであっても立場が上というわけではない。このギルドでは全員が平等。上も下もない」
「大体理解した。つまり最強の冒険者とそれをサポートする最高の鍛冶職人、商人、錬金術師、などなどを集めるわけだ。言うなれば、ギルドという組織の原点回帰だな」
商人なら商人ギルド、鍛冶職人なら鍛冶ギルドなどそれぞれに所属しており、今はそれらが同じギルドに所属する事はほとんどない。
「そう! 流石アニマ! 原点回帰……良い言葉だ! 僕はそんなギルドを作りたい!」
とまあ、ここまで話したところで、もう俺の気持ちは決まっていた。
「いいぜ、その話――乗った。俺も、いい加減人間関係のあれこれにうんざりしてたんだ。だからもう好き勝手に冒険者をやると決めた。どうせやるなら……最強集団とやらを見てみたいという欲も出てきたしな」
「本当か!? やった!! まずは一歩前進だ!! よし、飲もう!! 今日は設立記念日だ!!」
シエラがそれはもう、分かりやすいぐらいに喜んでいるのを見て、俺は悪い気はしない。女の子が喜ぶ姿は素直に、可愛いと思う。
「ギルドマスターは、まあとりあえず俺がやるが、他の奴がやりたいと言ったらすぐに代わるぞ」
「そんな奴は来ないと思うけどね! さあ乾杯しようじゃないか!」
シエラが嬉しそうに俺の隣へとやってきた。手には瓶入りのビール。どうやら、シエラは一応成人しているようだ。獣人の歳は人間には中々判断つかない。もしかしたら年上かもしれないな……。
「じゃあアニマ! 未来の最強ギルド誕生を祝して……乾杯!!」
俺とシエラの瓶が力強くぶつかり、爽快な音を上げたのだった。
この世界では、16歳を過ぎると成人となり、お酒を飲んでもおっけーとなります。シエラさんは年齢不詳ですがアニマよりも年下ですね。