4話:最強の化け物
「最高最強で……最小?」
「僕はね、最強とか最高って言葉が好きでね。やるからには、最高の、そして最強のギルドを作りたいじゃないか」
「それは分かったが……」
「とにかく、立ち話もなんだから僕の拠点に来て欲しい」
そう言って、シエラは俺の手を引っ張って裏路地を進んでいく。この辺りは細かい路地が上下に入り組んでおり、王都の住人ですら迷うという。しかしシエラの歩みに迷いはない。
しばらく進むと、シエラは小さな路地の途中で立ち止まった。
そこは小さな店舗の前で、色あせた看板が出ていた。銀色の三日月と狼をモチーフにした紋章が描かれているだけで、一見すると何の店か分からない。窓もなく、ただやけに頑丈そうな鉄製の扉があるだけだ。
「――【アンロック】」
シエラが解錠魔術を使い、扉を開けた。
「ちょっと古ぼけてはいるが、拠点としての機能はあるつもりだよ」
中に入ると、そこにはカウンターがあり、テーブルと椅子のセットが三つほどあった。元々は飲食店だろうか? いずれにせよここはもう随分と長く使われていないのが分かる。
「奥にはなんと火炉もある。二階は住居スペースで僕が寝床として使っているが空き部屋はあと数室あるよ。意外と広いだろ?」
「ああ。ここはシエラの店か?」
俺の言葉に、一瞬シエラが表情を曇らせた。
「……いや。でも今はそう。さあ座ってくれ! こう見えて僕は紅茶を入れるのが上手くてね。それともアニマは冒険者よろしく昼から飲むタイプかい? 一応ビールと果実酒は用意しているが」
俺はカウンター席に座って、カウンターの中に入ったシエラへと少し考えたあとに答えた。
「なら、ビールでいい」
シエラが最近、巷で流行っている瓶入りのビールを俺の前へと置いた。表面は濡れており、よく冷えているのが分かる。
俺は栓をナイフで開けると、一応、毒が入っていないかこっそり鑑定スキルを使う。うん、大丈夫そうだ。
シエラがそれをニコニコしながら見つめてくる。やりづらいな。
「んで、その最高最強で最小ってギルドを作る話の続きは?」
俺は一息つくと、そう話を催促した。……シエラが可愛いからこうしてホイホイついてきたわけではない。俺だって、一角の冒険者としてこの王都で頑張ってきた。
だから、シエラの言いたい事は分かるのだ。
誰だって、最強とか最高とかそういう言葉に憧れる。
「僕はね、最強のギルドを作りたいのさ。弱者を気遣う必要も援護する必要もない。一騎当千の猛者達が好き勝手に暴れる……そんなギルドを作りたい。そしてそんな猛者達を全力でサポ―トする、最高の裏方。アリ一匹、針一本さえ入る隙間がないほどの、無駄がなく全てがカチリと噛み合った最強の化け物を作りたいんだ」
シエラの熱い口調に思わず俺は少しだけ煽られてしまった。
なぜならその言葉は冒険者にとって、あまりにも魅力的な言葉だからだ。
「最強の化け物か」
「そう。僕が、冒険者に求めるのは最強の武力のみ。性格が破綻してようが性根が崩壊してようが、知ったこっちゃない。だけど、ギルドマスターだけは……最強かつ有能でそして全てを僕と理解しえあえる相手でなければならない。僕は、そんな夢のような人材をずっと探していたんだ。多少、非合法な手を使ってでもね」
「非合法?」
「さっきのあの詐欺ポーションもいわゆる闇ギルドから仕入れたやつさ。情報欲しさに潜り込んだけど、無駄だった。いや……アニマに出会えたから結果として上々か」
「そんな危ない橋を……」
闇ギルドとは、ギルド庁に登録していないギルドの事を指す。非合法な事を行う為であることがほとんどなので、善良な冒険者ならまず関わりたくないギルドだ。
「アニマ。君は強い。これまでの誰よりも強い。僕には分かるんだ」
「あれだけで判断するのは早計じゃないか?」
「そうでもないさ――【心眼】」
そうシエラが呟いた瞬間、その灰色の瞳が怪しく光った。
「……やっぱりか。なあ、アニマ教えてくれ。一体どういう生き方をすれば……それほどの数のスキルを取得出来るんだい? まさか一目で読み切れないほどのスキルが見えるとは思わなかったよ」
「……鑑定眼だと」
鑑定眼。それは見た相手の情報が分かるスキルで、所有者はこの王都でも数人しかいないと言われている。まさかこんな少女が持っているとは。
「君が、常人でないのは十分に分かったよ。それにあの支援魔術と身のこなし。アニマ以上の人材はもういないと思う」
まさか、俺の力がこんなにも早くバレるとはなあ……。いや特別隠すつもりでもなかったけどさ。
「アニマ、最強の君はその力を自分の為だけに使えばいい。僕はそれが出来る最高のギルドを作りたいんだ」
「……俺はのんびり冒険者やりたいだけなんだが」
「もちろん、それでも構わないさ」
「ギルドマスターってあれこれしないといけないだろ。他ギルドとの調整とか、ギルド庁とのやり取りとか……」
俺も【金の太陽】にいた時はいくつか手伝った事があるが、こればっかりは俺だけではやれなかったので、ブリオが渋々やっていたのだ。
「いや――必要ない」
「はあ? それはギルドマスターにしかやれない仕事だぞ!」
「僕はギルドを作ると言ったが――ギルドの登録申請するとは言ってない。つまり簡単に言えば――闇ギルドを作る」
「はあああああ!?」
普通のギルド物は飽きた(作者が)ので、今回は王道よりも邪道よりになっています。
ただ、主人公達が悪の道に走るわけではないのでご安心を。言うなれば大企業に、最高の職人が集まった町工場が立ち向かう的なサムシングです(違うかもしれない)