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エピローグ:人にバフを使うのもありかもな


 その後。

 全ての後処理はアンダンテが行った。


「大量の行方不明者が死体として見付かったよ。それだけが今回の事件で良かった事だな」


 狼亭のカウンターで俺はアンダンテと隣り合わせに座り、ビールを飲んでいた。レガートが静かにグラスを拭いて俺達を見守っている。


 シエラとテトは仕入れに出ており、アスカとベアトリクスはギャアギャア言い合いながらも仲良く依頼へと出掛けた。


 今日も【銀の月】は平和だ。


「【冥兵】となって上層に上がったきたおかげだな」

「ああ。遺体が見付かったと喜んでいる家族や冒険者がいる」


 アスカの兄の死体も見付かった。更に、テトの父親らしき男の死体も見付かったが、テトは会わないつもりのようだ。


「なるほどな。しかし、思ったよりも大事にならなくて良かったよ、被害も最低限だったんだろ?」


 俺がそう言うと、アンダンテが俺の肩を叩く。


「嫌みな奴だな。分かってるよ、お前らのおかげだってことぐらいは」

「ふふーん。そうだろう」

「出来ればカロンの身柄は拘束したかったが……まあそれは贅沢だな」

「ま、役に立ったのならいいさ」


 なんやら巻き込まれたが、とにかく無事終わって良かった。


「……それで、報酬が何が良い? 俺に出来る限りの事はするが」


 おっと、来た来た、御褒美タイム。まあ、予めシエラとこれについては決めていた。


「いくつかある」

「なんでも言え」

「まず……レガートをこのままうちに引き入れたい」

「……よろしいのですかマスター。こんなロートルを」


 レガートがそう言って微笑む。冥兵どころか、シエラの父も倒したらしい奴が良く言うぜ。


「優秀な奴は歓迎だよ。それに闇ギルドという性質上、レガートのように依頼を取ってきてくれるやつは必要だ」

「なるほど……私としてはシエラ嬢とベアトリクス嬢がいるので、安らかに眠った彼らの代わりに見守りたい、とは思っていますが……」


 レガートがチラリとアンダンテを見た。


「分かってるよ。そうなるだろうと思っていたさ。俺は構わないとも。今の立場のままここに所属したらいい」

「んで、次だが……闇ギルドとして……黙認してほしい」


 俺とシエラは何度かこの事について話し合った。


 なぜなら、【銀の月】の名前が予想以上に冒険者の間で広まっていたからだ。俺が首を捻っていると、アスカを筆頭にレガートもテトも目を逸らしていた。


 そこで俺とシエラは、闇ギルドではなく、登録申請して普通のギルドとして活動することも一度考えた。名声が広まった以上、闇ギルドとして行動すると、嫌でもギルド庁に目を付けられてしまう。


 それは少々具合が悪い。


「……正直言うと、お前らについてはどう報告しようか決めあぐねている」


 アンダンテが溜息をついた。


「だろうな」

「……なあ、普通のギルドとして登録しないか?」

「シエラが嫌がるからな。無駄にお前ら金取るじゃねえか」

「……確かにな。多少はこちらも運営費があるから必要だが、現状は一方的な搾取が多いのも事実だ」

「それにうちは好き勝手やるのがギルドのモットーだからな。縛られるのはごめんだ」


 そういうしがらみはもう当分は勘弁だ。普通にだらだらと冒険者をやりたい。


「そこでだ、アニマ。もし登録して正式なギルドとなって活動してくれるなら……いくつか優遇してもいい」

「ほお?」

「まず、ギルド税だが、全部無しでいい。依頼報酬から手数料などは取るが、年間収入の数%を納める義務も無しだ」

「それで?」

「……ランクは実力を考慮してBランクからのスタートする。これは特例中の特例中だぞ!? 本当はFランクからなんだから」

「それで?」

「ちっ……アニマ、お前は12階梯に引き上げる。つーかお前なんで3階梯なんだよ、ありえんだろ。本当は13階梯にしたいところだが、これは別の審査がいるからすぐには難しい」

「それと?」

「はあ……メンバーも全員10階梯から12階梯に入れる予定だ。冒険者達の目撃情報や流れている噂からして、誰も文句は言わないだろうさ。全員が10階梯以上のギルドなんて見た事ないぞ」


 ふむ……悪くない。悪くないどころか最高だ。


「だってよ、シエラ」


 俺は狼亭の扉を開いて、中へと入ってきたシエラへとそう声を掛けた。随分と早いお帰りだ。


「……どう話が転ぶか気になってね」


 シエラがそう言って、仕入れた荷物をレガートに手渡すと、カウンターの中に入っていく。テトはぺこりとアンダンテへ頭を下げるとそのままレガートの手伝いを始めた。んー、良い子だ。


 そして、なぜか依頼をこなしに出たはずのアスカとベアトリクスが帰ってきた。


「急に違う武器にするとか、アホな事いってんじゃねえよ馬鹿剣士」

「黙れアホ赤毛。今日は刀の気分ではないのだ……ん? 来客か?」


 図らずもしも、【銀の月】のメンバーが全員集合してしまった。


「はは……全員集合か」


 そして俺は改めて、アンダンテが出した条件を全員に伝えた。


「……師匠に任せよう」

「あたしもマスターが決めたものに従うぜ」

「テトも……」

「私も同じですな」


 最後にシエラが俺を見つめた。分かっているさ。分かっているとも。


 別に闇ギルドになんてこだわる必要は何一つない。アンダンテの提案に乗る方が良いに決まっている。


 だけど……。


 俺とシエラは声を揃ってこう言ったのだった。


「「()()()()」」


 俺とシエラの顔を交互に見て、アンダンテが笑った。


「ははっ……だろうな」

「悪いな。例えどんなに条件がよかろうが、俺らはもう何かに縛られるのはごめんだ。これからも好きにやらせてもらうさ。それを黙って見ているだけでいいし、今回みたいな時はまたいつでも協力するさ」


 俺の決定に全員が頷いた。


「分かった分かった。そしたら、お前らは闇ギルドのままでいい。俺は知らぬ存ぜぬを貫き通すさ」

「苦労掛けるな、アンダンテ」

「分かってるなら、素直に受け取っとけよ……全く……」


 そう言って、アンダンテは立ち上がった。


「じゃ、俺はお偉いさんの説得に行ってくるよ」

「またいつでも飲みに来い」

「次からはきっちりお金取るけどね?」


 シエラがそう言って笑った。


「やれやれ……しかし、お前が味方で助かったよ。じゃあな」


 そう言って、アンダンテが去っていった。


「……実際、あれで良かったのかな、シエラ」

「わかんない。けど、きっとこれで良いんだよ。だって無名の方がかっこいいし……月は闇夜に浮かぶからこそ美しいんだよ?」


 そうシエラが無邪気に笑った。


「うっし、じゃあ改めて、ギルド【銀の月】の完全勝利を祝して宴会をやるか! 依頼は明日でいいだろ」

「さっすがマスター! 話が分かるぜ!! うっしゃあ酒だ!!」

「私もたまには飲むか」

「テトも飲む……」

「貴女はダメですよ」


 みんなが騒ぎはじめ、俺はビールを煽る。


 思えば【金の太陽】を追放されて、一か月も経っていない。


「どうしたんだい? 浮かない顔をして」


 俺の隣にシエラが座ってそう声を掛けてきた。


「いや、前のギルドの奴らはどうなっているかなと。俺は今回で自分の支援魔術の強さを思い知ったからな」

「それに頼り切りになっていたのなら、そいつらが悪いさ」

「そうだな。そうだよな。まあ、いずれにせよ、もう他人に支援魔術を使う気はない」


 俺がそう言い切ると、シエラが意地悪そうな笑みを浮かべた。


「ここの連中に使ったら……凄い事になりそうな気がするけどね」

「……想像するだけで怖い」


 そういえば、そうだな。まあベアトリクスは掛けるとスキルの効果が弱くなるのであれだが……。


「また、人に使うのもありかもなあ」

「君が嫌ならしなくても良いさ。そんな事をしなくても、このギルドは十分強い。そしてまだ強くなる」

「だな。せっかくだ、ダンジョン攻略にでも精を出しても良いかもな。ルエルナへのショートカットもジルに教えてもらったし」

「ダンジョン踏破の一番乗りが闇ギルドっても最高じゃないか」


 シエラが嬉しそうに笑う。


「うっし! そうと決まれば準備しないとな!」

「ん? なんだなんだ!? 次は何を潰すんだ!?」

「師匠、私も手伝うぞ」

「テトもやるー」

「私はこことシエラ嬢を守りますよ。後顧の憂いなく行ってきてください」


 みんなが俺とシエラの会話に参加してくる。


「じゃあギルド【銀の月】の次の目標を言う! ダンジョンの踏破だ!」

「おお!!」

「やってやろうぜ!!」


 歓声が上がり、今日何度目かの乾杯の音が響き渡った。



☆☆☆



 それはあるかもしれない未来。


 王都でまことしやかに話されている、おとぎ話があった。


「なあ、知っているか? 【銀の月】」

「二十年前ぐらいに存在した伝説の闇ギルドだろ? 知らない奴はモグリだぜ」

「冥王潰しにダンジョン踏破、更に未開拓ダンジョンの発見……上げたらキリがないな」

「でもよ……あれ、半分嘘だろ。メンバー全員が化け物じゃねえと無理だぜ? だって人数めちゃくちゃ少ないし」

「それがそうでもないらしいぞ。特にやべえのがギルドマスターとして名高い【銀援のアニマ】だな。本人が馬鹿みたいに強い上に、ただですら化け物みたいに強い仲間を支援魔術でさらに強くするからな。支援術士が人気なのはアニマのおかげらしいぜ」

「眉唾だなあ」


 王都は今日も冒険者で溢れかえっている。


 だが、少数の者は知っている。【銀の月】は伝説でもおとぎ話でもなく……まだこの王都の闇で燦々と輝き続けていることを。


「お兄さん達……その話、詳しく聞かせてくれる?」


 そう語りかけたのは、暗い赤髪の獣人の美少女だった。腰には銀のロングソードが差してあり、胸甲には銀の三日月と狼のレリーフが掘ってあった。


「あん? 誰だてめえ?」

「ふふふ……僕はただの【銀の月】好きの冒険者さ。ワケありのね」


 そう言って、少女が笑ったのだった。


というわけで、自己中バッファー、ここで一旦完結です。

ここまでお読み頂きありがとうございました。


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興味ある方は是非読んでみてください
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